Mission019: 妨害

「はああああっ!」


 接近する勢いでエルレネイアに斬りかかる、シュヴァルリト・グラン。

 エルンは反応しきれず、左手に持っていたビームカービン砲を切断された。


「ぐっ……! ならば…………なっ!?」

「ボーッとしてんじゃねぇ!」


 シュヴァルリト・グランは宙返りしながら、エルレネイアに斬撃を見舞う。間一髪でかわしたものの、エルンはゼルゲイドの成長性に恐怖心を抱いていた。


(おのれ……たった一度私と戦っただけでここまで強くなったとでも言うのか!? だとしたら、なんて成長の早い奴だ……!)

「そらそらそらそらっ!」

「くっ……調子に乗るな!」


 エルレネイアは右手に持っていたビームソードを振るい、シュヴァルリト・グランを追い払う。

 距離が離れた一瞬の隙を突き、格納していたもう1振りのビームソードを抜いた。


「これでこちらも二刀流だ」

「だったら……!」


 ゼルゲイドは左の大剣を逆手に握ると、前腕からビーム砲を放つ。


「無駄だ。これしきの攻撃、ビームといえども簡単に防げる」


 だが、この程度で撃墜されるエルレネイアではない。いくら近距離といえども真正面からの攻撃である以上、軌道を見切るのはエルンにとって当然の事であった。


「構うものか!」


 しかし、ゼルゲイドは防がれているのを承知で、ビーム砲を放ち続けていた。

 両肩に搭載しているライフル型のビーム砲も起動し、3条の光線を立て続けに食らわせる。


「数を増やしたところで変わらんぞ」


 エルンは平然と、オープンチャンネルでゼルゲイドに告げた。


「それに、これしきの数なら片手で十分だ!」


 エルレネイアは左手での防御を止め、シュヴァルリト・グランとの距離を詰める。


「遊びは終わりだ…………なっ!?」


 エルンの驚愕の理由。

 それは、シュヴァルリト・グランとの相対距離を見誤っていたからである。


 シュヴァルリト・グランはエルンの予想以上に、エルレネイアに肉薄していたのだ。


「残念だったな」


 シュヴァルリト・グランが執拗にビーム砲を連射した理由。

 それは撃墜ではなく、目くらましを狙いとしていた。


 なまじビーム砲を弾き飛ばせる実力があるがゆえに、エルンは判断を誤ってしまったのである。


「私が、このような小細工などに……」

「終わりだ!」


 シュヴァルリト・グランの2振りの大剣が、エルレネイアに迫る。

 一方、エルレネイアのビームソードは、今振り抜いても間に合わなかった。


(私は、こんなところで終わるのか……)


 エルンは、自らの死を覚悟する。


 そのとき、何かがシュヴァルリト・グランの左上腕にある盾へと命中した。


「ぐっ……!」


 機体へのダメージは無いものの、予期せぬ攻撃を受けて大きく態勢を崩してしまう。結果としてシュヴァルリト・グランの攻撃は中断され、エルンは無事だった。

 後方へ過ぎ去ったシュヴァルリト・グランを見ながら、エルンは驚愕に包まれる。


「今のは、何が起きたんだ……?」

『エルン閣下。無事か』

「ゼールド閣下! 今のは、貴方が……?」

『ああ』


 シュヴァルリト・グランを奇襲したのは、ゼールドの搭乗するAdvancerアドヴァンサーだった。

 黒の“六天将”である彼の機体は、レーダー上から姿を隠匿する能力を有している。


『決闘に水を差した無礼を詫びよう、エルン閣下』

「ゼールド閣下……」

『だが、今閣下に死なれては、陛下の計画は台無しだ。許しは求めん。それでも敢えて、敢えて言わせてもらおう。エルン閣下、ただちに撤退せよ』


 エルンはゼールドの言葉を聞いて、複雑な感情を抱える。

 しかしその矛先はゼールドではなく、自分自身に向いていた。


(私は……。私は一体、どうなってしまったのだ……?)

『聞こえているか、エルン閣下。ただちに撤退せよ』

「了解です、ゼールド閣下。エルン・ガイゼ・デルゼント、これより撤退します」

『それで良い。この場は私が預かろう』


 エルンは心ここにあらずといった状態のまま、機体を戦域外に向かわせた……。




「逃げる気か……!?」

『ゼルゲイド様、撤退して下さいませ』

「M……!?」


 突如として入ったMの通信が、ゼルゲイドの意識を引き戻した。


「このタイミングで、ですか……!?」

「ゼルゲイド様、このタイミングだからです。そうでしょう、M?」

『はい。高度を上げるだけでも構いませんので』


 ゼルゲイドは戦略的な視点には疎いものの、Mとアドレーネの説明を受けて決断する。


「いや、撤退します!」

『ご英断に感謝します、ゼルゲイド様。プロメテウス隊に援護させますので』


 Mの指示を聞き届けたゼルゲイドは、シュヴァルリト・グランをゲルゼリアまで退避させた。

 それを確かめたMは、次なる命令を下す。




「敵艦隊に攻撃を仕掛ける。奴らに右舷側と各種副砲、主砲を向けろ。ゲルゼリアの力を思い知らせてやるのだ」

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