Mission014: 思慕

「あの、ゼルゲイド様」


 アドレーネはおずおずと、話を切り出す。


「ゼルゲイド様はどう思われているか存じませんが、私はいつでも構いませんわ」

「何がでしょう?」


 体をもじもじさせながら、ゼルゲイドに寄り添うアドレーネ。

 ゼルゲイドは意図を掴みかねていたが、拒絶しなかった。


「私に無断で、私の部屋にゼルゲイド様が入ること……ですわ」


 思わず噴き出したゼルゲイド。鼻血まで垂らしている。


「ゼ、ゼルゲイド様……? 大丈夫……ですか?」

「失礼、みっともない姿をお見せしました」


 手近なタオルで鼻血を拭いたゼルゲイドは、素早く深呼吸する。


「どうにも私は、女性への免疫が乏しいもので……」

「でしたら私で、免疫を付けてくださいませ。私はゼルゲイド様のためであれば、何でも致しますわ」


 だが、ゼルゲイドが必死に理性を保つ苦労も虚しく。

 アドレーネは、自身の豊満な胸をゼルゲイドに押し当てた。


「ぶはっ!」


 案の定と言うべきか、ゼルゲイドは再び鼻血を噴き出し、失神したのである。


「ゼルゲイド様っ!?」


 アドレーネは慌てて、医者を呼んだ……。




「ここは……」

「起きられましたわね、ゼルゲイド様」


 目が覚めたゼルゲイド。彼は医務室に運び込まれていた。


「アドレーネ様……」

「ゼルゲイド様、先ほどは失礼いたしました」


 あのアプローチはやり過ぎたと自覚し、謝るアドレーネ。

 それほどまでに、ゼルゲイドの女性に対する免疫は絶無ぜつむだったのだ。


 だが、ゼルゲイドに不快感を抱いたそぶりは無い。


「いえ……。少しずつ、慣れていきます。それに、アドレーネ様がいらっしゃれば、否が応でも慣れるでしょうから」


 ゼルゲイドは優しく、アドレーネを抱擁する。

 アドレーネの顔が、みるみるうちに真っ赤になっていった。


「まあ、何て素敵なアプローチを……。ますます、好きになってしまいます」

「ますます?」

「うふふ」


 ゼルゲイドの感じた違和感を、アドレーネは微笑みでかき消した。


「では、私も同じようにさせていただきますわね」


 二人はしばし、互いに抱きあっていたのである。


     *


 ベルゼード帝国制圧下にある、某空域にて。


 重巡洋艦ローテ・ドラッヘは単独で悠々と、しかしレーダーを全開にして航行していた。


「まだそう遠くには離れていないはずだ。ゼールド閣下の言葉にあった例の超級戦艦を、何としてでも探し出せ!」


 エルンが飛ばす檄を背に、レーダー手達は僅かな反応も見逃すまいと言わんばかりの形相でモニターを見続けていた。

 と、レーダーの外周近くに、小さな輝点が表示される。


「12時半方向に反応有り!」

「最大望遠で確認しろ!」


 艦長――エルンとは別の人物――の命令を受け、すぐさまオペレーターがモニターの倍率を最大に変更する。

 そこには――白を基調に赤と金で飾りつけた、堂々たる姿を見せつけるように航行している戦艦があった。


「あれか、ゼールド閣下の仰った超級戦艦は!? 通信繋げ、ただちに報告せよ!」

「攻撃しますか?」

「まだだ、あちらは……むっ!? 回避行動!」


 ローテ・ドラッヘが右に傾く。




 刹那、先ほどまで艦があった空間に、3連続でビーム砲が通り過ぎていった……。

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