Mission013: 乱入

 アドレーネとの談笑を終えたゼルゲイドは、Mの案内を受けていた。


「ご案内するのが遅くなり、申し訳ございません」

「いえいえ。間が悪かった以上、仕方ありません。メイディア防衛戦がありましたから」

「痛み入ります。おっと、こちらがゼルゲイド様のお部屋でございます」


 Mが案内したのは、個室である。

 浴室やトイレなどの設備が充実しており、ベッドも1人で眠るには大きなものであった。


「これは……かなり贅沢なのでは?」

「はい、その通りでございます。艦長室に次ぐものですな。ゼルゲイド様は大切なお方ですので、このくらいの特別待遇はさせていただかなくては」

「私にですか? それは……」


 ゼルゲイドは、大いに戸惑っていた。どうして自分がここまでの扱いを受けるのか、理解できなかったからだ。

 だがMは、淡々と告げる。


「私達にとって……とりわけアドレーネ様にとって、貴方は大切な存在なのです。粗略な扱いをしては怒られますし、それ以前にそのようなことは、私の誇りが許しません。どうか何も言わず、これをお受け取り下さい」

「これは?」

「部屋の鍵です」


 Mが渡したのは、カードキーだった。


「では、次はこちらへ。主要な設備を案内します」


     *


 それから1時間後。

 ひとしきり艦内をMと共に見て回ったゼルゲイドは、自室へと戻っていた。


「とてつもない広さだな……ゲルゼリア。何を思って、ここまでの広さにしたのか」


 ゲルゼリアの広さ、そして艦内の複雑さに目を回しそうになったゼルゲイドは、衣服を脱ぎながら浴室へ向かう。


「着替えは……あった。けどこれ、プロメテウス隊の皆さんが着てた服の色違いだな……」


 脱衣所まである浴室には、漆黒の服の上下組が何着もあった。

 その近くには、脱いだ服を専用のボックスに入れるドロップシュートも備え付けられている。


「便利なものだ。艦長室に次ぐ贅沢さ……か」


 ゼルゲイドは服を脱いでドロップシュートに放り込んだ後、シャワーを浴びた。


「ふぅ……さっぱりするな、戦った後のシャワーは。お腹も空いたし、この後は夕食にでも……ん?」


 ゼルゲイドの耳に、扉が開いたような音が聞こえた。


「気のせい……か? 今、誰かが入ってきたような……」


 疑問に感じつつも、ゼルゲイドは構わずシャワーを止め、浴室から出る。


 そこには――アドレーネが立っていた。


「えっ」

「えっ」


 固まる二人。数秒のはずなのに、何倍、何十倍にも感じる沈黙。

 そして――


「きゃあああああああああ!?」

「うわああああああああああ!」


 同時に、悲鳴が上がった。


「ゼ、ゼルゲイド様! 何てものを……!」

「も、申し訳ございませんアドレーネ様! 申し訳ございません!」


 互いに羞恥で、顔がゆで蛸の如く真っ赤になる。

 アドレーネは脱衣室から脱兎だっとの如く逃げ出し、ゼルゲイドはゼルゲイドで浴室にカムバックしていた。


 結局、二人が落ち着くまでには10分を要したのである。


     *


「申し訳ございません、アドレーネ様……」

「いえ、私こそ申し訳ございません、ゼルゲイド様。勝手に入ってしまって……」


 冷静さを取り戻した二人は――ゼルゲイドは既に服を着た状態で――、互いに詫びを入れていた。

 それが終わったところで、ゼルゲイドが疑問を口にする。


「しかし、アドレーネ様。どうして、私の部屋に?」


 そう。

 ゼルゲイドは専用の部屋、それにカードキーを与えられていたのに、何故かアドレーネは入れてしまったのだ。


 アドレーネはまだ残っている羞恥心を消すように深呼吸してから、答える。


「私の部屋のカードキーは、艦長室に次ぐ力があります。同等以下のセキュリティの扉でしたら、開けられるのです」

「えっ、それじゃ……。俺、いや私のカードキーで、アドレーネ様のお部屋を開けることも……?」

「はい」


 アドレーネの肯定を聞いたゼルゲイドは、またも沈黙し。


「なんてこった! 俺達二人の間で秘密は無いも同然じゃねぇか!」




 素の口調で絶叫したのであった。

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