Mission012: 指令

 時は少々遡る。

 メイディアから撤退したエルンはさほどの時間もかけず、空中を航行している真紅の軍艦を見つけた。


「ローテ・ドラッヘ……戻ってきたぞ」


 ローテ・ドラッヘ――エルンや麾下きか部隊専用の重巡洋艦の名前である。

 短く呟いた彼女は、無線を繋いだ。


「私だ、エルンだ。ハッチを開放してくれ」

『かしこまりました、閣下』


 応答の直後、艦の下部が開放される。

 エルンは慣れた様子で、エルレネイアを艦内へと向かわせた。内側に入ると同時に、ハッチが閉まる。


 エルレネイアが所定の位置に自身を収めると、整備兵が続々と向かってくる。


「閣下、ご無事で!」

「閣下はやめてくれ。“中佐”でいい」

「いえ、“六天将”である以上、このように呼ぶのが規律ですので」

「そうか。だが、私は諦めんぞ。堅苦しすぎる!」


 エルンは機体から降りながら、問答する。


 本来、“閣下”とは将官に用いられる敬称である。中佐であるエルンには、そのように呼ばれる資格は無かった。

 しかし、“六天将”となれば、本来の階級を問わず将官を上回る権力を有する。ゆえにエルンは、中佐でありながら“閣下”と呼ばれるのだ。


「それで、閣下。この後はいかがいたしましょう?」

「エルレネイアの整備は、お前達に任せよう。私は報告する事があるのでな」

「はっ!」


 整備兵達にエルレネイアを任せたエルンは、わき目も振らず、ある一室へと向かった。


     *


「ここか」


 いくつもある部屋の中で、扉の外見が一つだけ違う部屋の前に立ったエルン。

 扉の左脇にある認証装置に、自身の手のひらを置いた。


『“六天将”の一人、エルン中佐本人であることを確認。ようこそ、“謁見の間”へ』


 扉が開くと、足早に内部へと立ち入るエルン。

 腰の高さほどの柱状の物体の前に立つと、手をかざして呟いた。


「皇帝陛下、エルンでございます。どうか、謁見の許可を」


 直後、天井から吊り下げられたディスプレイに、一人の男が浮かぶ。


『許そう。そろそろ来る頃だと思っていたぞ、エルン』

「有りがたき幸せ。ですが、残念な報告をせねばなりません」


 エルンは今一度姿勢を正すと、“皇帝”に遠慮がちに伝えた。


「結論から申し上げます。メイディアを陥落させる事は叶いませんでした」

『ほう。理由を申してみよ』

「では、恐れながら申し上げます。私が増援に向かったとき……そこには、サロメルデには存在しないはずのAdvancerアドヴァンサーがいました。赤と白、そして金で飾られたリクシアス、そしてリクシアスの1.5倍以上の大きさを持つ、漆黒の騎士然としたAdvancerアドヴァンサー……」


 そこまで聞いて、初めて“皇帝”が眉をひそめる。

 作戦失敗の報には全く動じていなかったのに、『漆黒の騎士然としたAdvancerアドヴァンサー』という単語を聞いた途端に、だ。


『それが事実であるならば、かなり厄介な事になるな。だが、手が無いわけではない。ゼールド』

『はっ』


 ディスプレイの右下に比較的小さな枠が出来る。そこには、ゼールドと呼ばれた、黒染めの軍服に身を包んだ男が立っていた。


『貴様の部隊は、メイディアの近くに展開していたはずだな?』

『仰せの通りでございます』

『ならば命じよう。エルンの部隊と協力し、先ほどエルンが述べていた敵を排除せよ』

『かしこまりました。陛下』


 ゼールドは既に、エルンの証言を聞いていた。

 ディスプレイに枠が浮かばなかったのは、単に発言していなかっただけである。


『では、頼むぞ。エルン、ゼールド』

『『はっ!』』


 その言葉を最後に、“皇帝”は通話を打ち切ったのである。


『エルン閣下』


 だが、ゼールドはまだ通話を終える意思は無かった。


『何でしょう、ゼールド閣下』

『貴殿の発言が正しければ、この上ない脅威となる敵だ。心してかからねばならん』

『まさか、ゼールド閣下……敵の正体に、心当たりが?』

『ああ。そして敵は、貴殿の述べた5台のAdvancerアドヴァンサーだけではないはずだ。アレクスに頼んで、いくらか対艦装備の部隊を分けてもらわねばならんだろうな』


 ゼールドの、そしてエルンの表情は険しかった。


『エルン閣下。貴殿に頼みたい事がある』

『はっ』




『白に赤と金で飾った超級戦艦を探し当ててもらいたい』

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