Mission011: 独白

 ゲルゼリアの艦長室にて。

 Mは電話端末と思しき箱型の物体を持ちながら、何者かと会話していた。


「ああ、ああ。そうか。メイディアにある工房と“あの機体”は無事なのだな。そうか、それは何よりだ」


 Mはやや上機嫌な様子で、何者かと話し続ける。


「急行してメイディアを守った甲斐かいがあった。友としてサロメルデ王国に報いるのは当然だが、何よりもお前たちの工房を守る事が目的だったのだからな。そうだ、お前たちに嬉しい報告がある。かの“黒騎士”が、私達と行動を共にして下さった。これで戦力は、倍増したようなものだ。目的達成に一歩近づいたと言えよう」


 喜々として語り続けるM。

 だが、壁にある固定電話が鳴ったのを聞くと、途端に焦りだした。


「済まない、アドレーネ様がお呼びだ。ともかく、新型機開発は引き続き頼む。切るぞ」


 何者かの通話を終えたMは、急いで固定電話を取り、受話器を耳に当てた。


「はい、アドレーネ様。Mでございます」


     *


「M、今よろしいでしょうか? 貴方の紅茶を、ゼルゲイド様に振る舞ってほしいのですわ。大食堂で待っておりますから、手の空いたときにお願いしますわね」


 食堂にある固定電話から、アドレーネが電話していた。

 受話器を戻すと、ゼルゲイドを見て話す。


「ゼルゲイド様。座って待ちましょうか」

「はい、アドレーネ様」


 二人は手近なテーブル席に座る。


「ゼルゲイド様。伝えるのが遅くなりましたが、まずは見事な戦いでした。初陣、そしてメイディア防衛戦。“黒騎士”の系譜としての力、見せていただきました」

「そんな……とんでもありません。初陣はともかく、メイディア防衛戦では、アドレーネ様がいなければ今ここにはいなかったでしょう」

「あれは私の過ちです。あのような事をしなければ、あの真紅の機体……エルレネイア、そして“六天将”であるエルン中佐とも、互角以上に渡り合えたでしょう」


 アドレーネは、これまでに経験した2回の戦闘を思い出す。

 と、ゼルゲイドがある事に違和感を持った。


「アドレーネ様」

「何でしょう」

「アドレーネ様は、エルン中佐を『お姉様』と呼ばれましたね。彼、いや彼女……なのか? ともかく、中佐は否定していましたが……何故なのでしょう?」


 その疑問を受け、アドレーネはぽつぽつと話し始める。


「声が、似ていたからです。かつていた、私の姉に」

「お姉様が……?」

「はい。まだゲルゼリア王国が存在していた頃……。この戦艦だけではなく、広大な大地に国が在った頃に、姉が一人、おりました。いつだって凛々しく、前向きで、私を愛してくれた優しい姉です」


 懐かしむような話し方をするアドレーネ。

 一度言葉を区切り、俯きながらも話を続ける。


「ですが、私達は離ればなれになってしまった……。ゲルゼリア王国が消滅して以来、姉とは一度も連絡を取れていないのです」

「……」


 兄弟姉妹のいないゼルゲイドであるが、既に父親を亡くしている彼は、大切な身内を喪う悲しみを理解していた。

 断固とした表情で、アドレーネに自らの思いを伝える。


「……よく分かりました。アドレーネ様、貴女のお姉様を探す手伝い、是非ともさせてください」

「ご助力、感謝します。ゼルゲイド様」


 座ったままではあるが、うやうやしく頭を下げるアドレーネ。

 と、そこに足音が響いた。


「遅れて申し訳ございません。アドレーネ様」

「M……。いえ、気にしていませんわ。それよりも、私達のお茶を淹れていただきますわ」

「かしこまりました」


 Mは手慣れた手付きで、二人分の紅茶を淹れる。

 そのまま、ゼルゲイドとアドレーネの前に置いた。


「ご堪能下さいませ」

「ありがとうございます」

「ありがとう、M。さて、ゼルゲイド様。湿っぽい話はこれでおしまいにしましょう」

「はい、アドレーネ様」




 ゼルゲイドとアドレーネは、しばし歓談にふけっていた……。

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