Mission010: 叱咤

「どうしたんですか?」

「お前と二人きりで話したい事があってな。ちょっと、こっちに来い」


 デュランは有無を言わせず、ゼルゲイドを人気ひとけの無い場所へ連れて行く。


「ここなら大丈夫そうだな」

「あの、どんな話なんでしょうか……?」


 今一つ状況についていけないゼルゲイド。

 と、デュランの表情が一気に険しくなる。


「お前はアドレーネ様と共に、あのAdvancerアドヴァンサーに乗っているな?」

「は、はい……ッ!?」


 ゼルゲイドが返事をした直後、いきなりデュランがゼルゲイドの左頬を殴りつけた。

 骨が折れない程度には手加減したものの、遠慮会釈の無い威力に、ゼルゲイドが顔をしかめる。


「何だあのザマはッ! 大切なアドレーネ様を同乗させておきながら苦戦するとは、どれだけ大変な事を起こしかけたか分かってんのか!?」

「えっ……?」


 何を言われているのか把握出来ないゼルゲイドに、デュランは右頬も殴りつける。


「分からねぇのか!? アドレーネ様を乗せておきながら、撃墜寸前にまで持っていかれるブザマを晒しやがって! てめぇはどれだけ責任ある立場なのか、自覚しやがれ!」

「ッ……どうしろと?」


 容赦の無い鉄拳を受けながらも、歯を食いしばって耐えるゼルゲイド。

 その様子に、デュランは感心した。


「へぇ、鍛えてるだけあってなかなかタフだな。今までブン殴ってきた奴らは、一発でダウンしたってのによ」


 ゼルゲイドは何も反発せず、ただジッとデュランを見つめる。


「それに免じて、特別に教えてやる。アドレーネ様はゲルゼリア王国の……」

「王女、でしょう?」

「何だ、知ってんじゃねぇか。じゃあ、なおさらしっかりしてくれよ! ゲルゼリア王国の再興は、アドレーネ様だけじゃねぇ。俺達にとっても、悲願なんだ! それを台無しにしてほしくねぇんだよ……!」


 怒りから一転、懇願するような話し方になるデュラン。


「なぁ……分かってくれ。ゼルゲイド……ゲルゼリア再興は、お前にかかってるんだ。正直認めたくねぇけどよ、お前の力が無いと出来ねえんだ。頼むよ……。今日はそれだけだ、次からは気を付けてくれ……じゃあな」


 最後にもう一度念押しして、デュランは去っていく。

 一人立ち尽くすゼルゲイドは、言われた事を反芻はんすうしていた。


「俺が、アドレーネ様が、ゲルゼリア再興の鍵……」

「ゼルゲイド様? どちらにいらっしゃるのですか?」


 自らを呼ぶ声が聞こえたゼルゲイドは、ややおぼつかない足取りで廊下に出る。


「アドレーネ、様……?」

「ゼルゲイド様……その傷、どうなされたのですか!?」

「お、落ち着いてくださいアドレーネ様……! これはその、あれです!」

「あれとは何なのですか!?」

「転がってぶつけたのですよ。運悪く、その……顔を」

「お顔を!? 両側にぶつけていらっしゃいますのね!? 大丈夫なのですか!?」

「はい、何とか……。昔から、鍛えておりますので」


 ゼルゲイドは笑って、お茶を濁そうとする。アドレーネは納得がいっていないようであるが、しつこくしすぎるのも迷惑だと思ったので追及を止めた。


「そうですか。ゼルゲイド様がご無事であれば、何よりですわ。それより、突然ですが……私と一緒に、お茶を飲みながらお話ししていただけますか?」

「喜んで!」




 ゼルゲイドが嬉しそうに答えると、アドレーネもまた嬉しそうに微笑んだのであった。

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