Mission009: 帰投

 全機が格納庫内の指定位置に収まると、続々とパイロットが降りてくる。

 ゼルゲイドとプロメテウス隊の4人――合わせて5人――は、作戦後会議デブリーフィングの為にゲルゼリア艦内の作戦会議室へ向かった。


 作戦会議室には、既にMが待機していた。


「諸君、良く無事に戻ってきてくれた。ゼルゲイド様も、ご無事で何よりです」

「ありがとうございます。何とか無事に帰りつきました。早速ですが、作戦終了時における報告、並びに今後の作戦に活かす事柄の発見のため、着席をお願いします」


 挨拶もそこそこに、Mは一同に着席を促す。

 ゼルゲイド達は、言われるがままに席についた。


「では、これよりデブリーフィングを始めるとしよう。各員、図を見てくれ。どのような軌道を取ったか、映像化したものだ」


 プロメテウス隊のリクシアスとグリンドリン、そしてシュヴァルリト・グランの計5機が、ゆっくりと移動する。その軌跡には色のついた矢印が残り、それぞれの動きを明確にした。


「これを見れば分かるように、諸君らはベルゼード帝国軍をメイディアから追い払い、サロメルデ王国の滅亡を防いだ。しかしこれは、あくまで一時的なものに過ぎない。時が経てば、やがて帝国は再びサロメルデを滅亡させんと動くだろう。よって、今後はメイディアを拠点としつつ、ベルゼード帝国に対する反攻作戦を企図する。十分な休息を取り、いかなる状況にも対応できるようにしてもらいたい。質問はあるか? ……無いな。では、解散」


 その言葉と同時に、プロメテウス隊が続々と部屋を後にする。

 ゼルゲイドも部屋から出ようとしたその時、Mから呼び止められた。


「ゼルゲイド様。貴方には、こちらに来ていただきます」

「分かりました。ところで、アドレーネ様はどうしましょう?」

「待っていてもらいます。貴方一人への話ですので」


 Mはやや強引に、ゼルゲイドを連れ出した。


     *


「けっこう進みましたね……」


 艦のかなり奥深くまで案内されたゼルゲイド。


「ところで、今までと内装が違う気がします。これは、いったい?」

「この先で分かる事です。……着きました、お入りください」


 ある部屋の前で、Mは足を止める。

 Mに言われるがまま、ゼルゲイドは部屋に入った。


「ここは……っ、あの人は、まさか!?」


 部屋の中には、一人の女性がたたずんでいる。

 ゼルゲイドには、女性に関する心当たりがあった。


「母さん!?」

「その通りです。久しぶりですね、ゼルゲイド」


 彼女は、ゼルゲイドの母親であった。


「無事だったんだな、母さん。いろいろ言いたい事はあるけれど……どうして、ここに?」

「私が保護したからです。ゼルゲイド様」


 Mがゼルゲイドに伝える。


「ゼルゲイド様のお母様は、命を狙われておりました。私達はいち早くその事実に気づき、救出に尽力したのです。そして救出後は、このゲルゼリアにかくまい続けている……それが、彼女がここにいる理由です」

「……」


 ゼルゲイドは少しばかり黙していたが、やがて口を開く。


「何から何まで、感謝してもしきれません……」

「礼には及びません。ゼルゲイド様、貴方はとても大事な方ですので。さて、これ以上私がここにいるのは無粋ですね。では、後はご自由に」


 それだけ言い残して、Mは部屋を後にしたのであった。

 しばしの間をおいて、ゼルゲイドが話し始める。


「母さん……まさか、会えるなんてね。嬉しいよ」

「私もです。ゼルゲイド」


 母はゼルゲイドに歩み寄り、そして抱擁する。ゼルゲイドもまた、同じように抱擁した。


「立派に育ちましたね」

「ああ、父さんのおかげさ。ただ……」

「知っています。あなたが15の時に、病死したのでしょう?」


 母からずばり言い当てられ、ゼルゲイドは身震いする。


「どうして? 葬儀は俺が一人でしたはずだけど……」

「あなたやあの人に関する話は、全てあのM様から聞かせられていました。彼は“黒騎士”だったあの人や、その息子であるあなたに関する話は、全て聞いていたのですよ」

「なんつー情報収集能力だ……」


 Mの執心ぶりに、ゼルゲイドは思わず言葉を崩す。


「知っているなら話は早いよ、母さん。ともかく、無事でよかった」


 抱擁を解いたゼルゲイドは、その場を後にしようとする。


「待って、ゼルゲイド。まだ私の話は終わっていません」

「何だい?」

「一つだけ、伝えたい事があります。『全ての元凶は、ファルゼインなる者である』と。ファルゼイン、この名をよく覚えていてください」

「……分かったよ、母さん」


 母が伝えたい情報を聞き届けたゼルゲイドは、部屋を後にした。


     *


「ようやくブリーフィングルームまで戻ってこれたな。かなり長いけど、一度覚えれば楽だ」

「ここにいたか。探したぜ」

「デュランさん?」




 デュランが、ゼルゲイドを待ち構えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る