Mission008: 一族

 その頃、ゲルゼリア艦内にあるCIC戦闘指揮所にて。


「プロメテウス1ワンから映像がリンクされました! 送ります!」


 オペレーターが、送られた画像をモニターに映す。

 それを見たMは、呟いた。


「そうか……。ついにアドレーネ様は、一族の持ちしお力を覚醒されたか……!」

「艦長?」


 近くにいた副艦長が、訝しむ。


「聞かなかった事にしろ。個人的な話だ」

「はっ」


 が、Mは取り合わなかった。

 ただ、笑みだけは浮かべ続けていた……。


     *


「バリアのたぐいならば、数度も攻撃すれば……!」


 エルンは素早く操縦桿を操り、武器を変える。


「実体剣が通じないなら、ビームはどうだ!」


 ビームカービンに換装したエルレネイアが、立て続けに3発放つ。


「通じませんわ、お姉様!」


 だが、透明な何かは、全てのビームを阻んだ。

 シュヴァルリト・グランには傷一つ無い。


「何だと……」

「今度は俺達の番だな!」


 ゼルゲイドが勢いを取り戻し、一気にエルレネイアとの距離を詰める。

 そして大剣を素早く一閃すると、エルレネイアの左腕が消し飛んだ。


「このっ、左腕を……!」


 慌てて武器をビームソードに切り替えるが、やはり不可視の壁に阻まれて通用しない。


「これでも駄目か……!?」

「うおおおおおおおっ!」


 シュヴァルリト・グランが二振りの大剣を交差させ、一瞬で振り抜く。


「ぐっ……!」


 エルレネイアはとっさにビームソードを頭上に掲げ、片方を防ぐが――


「そこだ!」


 防ぎきれなかったもう片方が、腰部の装甲を深くえぐった。


「くっ、これ以上はもたんか……!」


 完全に不利である事を悟ったエルンは、専用の周波数でベルゼード帝国軍に呼びかける。


「こちらは“六天将”の一人、エルン中佐だ。各機、可能な限り速やかにメイディアから撤退せよ! 繰り返す、各機、可能な限り速やかにメイディアから撤退せよ!」


 それを聞いたベルゼード帝国軍が、1機、また1機と、メイディアから離れていく。

 が、エルレネイアはまだ、留まっていた。


「そこの黒騎士」


 オープンチャンネルで、シュヴァルリト・グランに呼びかける。


「粗削りながら、見事な一撃だった。私はベルゼード帝国が誇る“六天将”の一人、エルン・ガイゼ・デルゼント中佐だ。愛機の名前はエルレネイア。貴官の名前と機体名称を聞かせてはくれないか?」

「俺はゼルゲイド・アルシアス。愛機の名前はシュヴァルリト・グランだ」


 アルシアスの名前を聞いた途端、エルンがわずかに目を見開いた。


「何……。ところで貴官、軍属ではないのか?」

「軍属……なのかもしれねえが、階級は無い」

「承知した。ゼルゲイド、私は貴官、いや貴君との再戦を望む。それまで生きていてくれ」


 それだけ言い残すと、エルレネイアは全速力でメイディアを後にしたのであった。


     *


 場所は、ゲルゼリア艦内CICに戻る。


「全機の帰還を確認しました。シャッター、閉じます!」

「よくやってくれた。警戒状態を保ちつつ、メイディア付近の山岳地帯に留まれ」

「はっ」


 機関士が命令に従ったのを確かめると、Mは副艦長に後を託す。


「少し部屋で休んでくる」

「かしこまりました。後はお任せを」

「頼むぞ」


 それだけ言い残すと、部屋へ入った。

 上着を脱ぎ、ベッドで体を休めるM。


「ふむ……ついに一族の受け継ぐ“希望の力”を使われましたか。アドレーネ様」




 ベッドの上で仰向けに横たわりながら、ひっそりと呟いたのであった。

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