Mission007: 覚醒

「何なんだ、あの機体は!?」


 驚愕する一同をよそに、真紅の機体はシュヴァルリト・グランに向かって飛翔する。

 と、アドレーネが叫んだ。


「お姉様……!?」

「えっ!?」

「ゼルゲイド様、オープンチャンネルであの機体に呼び掛けて下さいませ!」

「は、はい! うわっと!」


 真紅の機体の初撃をかわしつつ、ゼルゲイドはオープンチャンネルを開く。


「聞け、真紅の機体のパイロット! お前に話がある人がいる!」


 最初の呼びかけを終えると、ゼルゲイドは小声で「アドレーネ様、お願いします」と促す。

 それからアドレーネは、必死に呼びかけた。


「お姉様、私です! アドレーネです! お姉様!」


 直後、真紅の機体が、動きを止めた。


「アドレーネ・マリア・グラウ・ゲルゼリアです! お姉様、もしやお忘れになられたのですか……!?」

「…………」


 真紅の機体のパイロットが押し黙る。

 その態度に憤りを感じたゼルゲイドが、声を荒らげた。


「おい、何とか言ったらどうなんだ!?」

「……ならば、返そう」


 初めて、真紅の機体のパイロットが応答する。


「……ッ……アドレーネだと? 貴様の名前なんぞ、知らん!」


 その答えは、アドレーネの瞳に涙を滲ませた。


「お……ねえ、さま…………ッ…………」

「ふざけるな……ふざけるなッ!」


 ゼルゲイドが、こめかみに血管を浮かべながら激怒した。


「何しらばっくれてんだてめえはよっ!!」


 我を忘れ、全速力で真紅の機体に突っ込む。


「うおおおおおおおっ!」

「……フゥ」


 怒りに任せた動きで大剣を振る、シュヴァルリト・グラン。

 しかし真紅の機体のパイロットは、静かにこう呟いた。


「仕方ない。エルン・ガイゼ・デルゼント中佐とエルレネイア、参る」


 エルンと名乗った人物は、エルレネイアを操ると、軽々とシュヴァルリト・グランの一撃を回避する。


「!? ……クソッ、当たれ!」

「ゼルゲイド様、落ち着いて!」


 シュヴァルリト・グランは必死にエルレネイアを捉えんとするが、エルレネイアは軽々と攻撃をかわし続ける。


「当たれってんだよ!」

「ゼルゲイド様! ……っ!」


 エルレネイアはシュヴァルリト・グランの一撃をまたもかわすと、腹部を蹴飛ばして距離を取る。


「ぐぅっ……!」

「戦いとは、一撃で終わらせるものだ! さらば、黒き騎士よ!」


 立て直せないシュヴァルリト・グランの目の前に、エルレネイアが瞬時に詰め寄り、大剣を大振りに、しかし最短の時間で構える。


「クソッ、こんなところで死んでたまるか……!」


 そして、一瞬で振り下ろし――


「エクスカリバー!」

「クソッ、間に合わねえ!」


 誰もが、シュヴァルリト・グランの撃墜、そしてゼルゲイドとアドレーネの死を確信していた。事実、シュヴァルリト・グランに、逃れるすべは無かった。


 ――しかし大剣は、目に見えない何かに阻まれていた。


「……何だと?」


 エルンは驚愕に目を見開いたまま、固まり。


「生きているのか、俺……?」


 ゼルゲイドは、何故か生きているという事実に呆け。


「それが、生きるなのですね……ゼルゲイド様。では、私はそれに報いましょう!」




 アドレーネは、力強い宣誓をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る