Mission006: 真紅

「何なんだ、こいつらは!? クソッ、また1機――」

「うおらぁっ! さっさとサロメルデから出ていけ!」


 シュヴァルリト・グランが、右前腕部のビーム砲で灰色のリクシアスを撃墜する。

 この戦いだけで、ゼルゲイドの撃墜数は7機に達していた。


「チクショウ、にしても何て数だ……! そんなにメイディアを落としたいか……!」

「ゼルゲイド様、右です!」

「っと!」


 右を向きつつ、右腕と左腕のビーム砲で射撃する。

 ろくに狙いも付けていない射撃だが、リクシアスのレールガンを吹き飛ばすのには成功した。


「危なかったぜ……!」


 そのまま一気に距離を詰め切りながら、大剣を抜いて構える。

 すれ違いざまに、リクシアスを一刀両断した。


「これで良し……。助かりました、アドレーネ様!」

「いいえ、ゼルゲイド様のためでしたら」

「有難きお言葉! では!」


 ゼルゲイドはすぐ近くの、編隊から離れてしまったリクシアスに狙いを定める。

 ふらふらと飛んでいたそのリクシアスは、ゼルゲイドの接近に気づくや否や、50.8mmマシンガンを連射するが。


「当たるものか!」


 でたらめな狙いでは、シュヴァルリト・グランを捉える事は叶わない。

 正面からの連射をたやすく避けると、懐に潜り込んでアッパーカットを叩き込んだ。


「まだだ!」


 リクシアスが吹き飛ぶ直前、シュヴァルリト・グランが前腕部のビーム砲を放つ。

 腹から胸にかけて大穴が開いたリクシアスが、墜落して地面に叩きつけられた。


「ゼルゲイド様、あの機体……!」

「承知しています。グリンドリンでしょう!」


 次にゼルゲイドが狙いを定めたのは、灰色のグリンドリンであった。

 リクシアスの上位機種である本機は、指揮官格の人物の搭乗を前提としたものであり、今回もその例に漏れず指揮官が搭乗していた。


「貴様が指揮官だな! 覚悟!」


 中距離から肩部のビーム砲を乱射し、逃げ道を封じる。

 それを悟ったグリンドリンがロングソードを抜き、リクシアス2機が加勢するも。


「邪魔するな!」


 シュヴァルリト・グランはすれ違いざまにリクシアスを2機とも撃墜し、さらにグリンドリンをX字状の斬撃で四分割していた。

 コクピットのある胸部を切断していたため、グリンドリンは糸が切れた人形の如く動きを止め、バラバラになって落ちていった。


「中隊長!?」

「中隊長!」


 グリンドリンの撃墜から数秒遅れて、ベルゼード帝国軍に動揺が走る。

 それは堂々と空にるシュヴァルリト・グランの姿と共に瞬く間に伝染し、そして。


「逃げろ、一刻も早くここから逃げろ!」

「あの黒い奴はAdvancerアドヴァンサーじゃねぇ、悪魔だ……! おい、下がれ、殺されるぞ!」

「おいっ、勝手に逃げ……ぐわぁっ!」


 瞬く間に、ベルゼード帝国軍の士気が下がりだした。

 同時に、戦線が急激に瓦解し始める。


「プロメテウス1ワンより各機、風向きが変わったぞ! やれ!」

「了解!」


 プロメテウス隊は2機編隊を維持したまま、逃げつつあるリクシアスを1機、また1機と屠っていく。

 サロメルデ王国兵達も調子づき、戦況は既にひっくり返っていた。


 その時。


「何かが……来ます!」


 アドレーネが呟く。

 直後、Mから無線が飛んできた。


「各機に通達。北西の方角から1機のAdvancerアドヴァンサーが接近中……速いぞ! 警戒せよ!」


 通達を聞くや否やゼルゲイドとプロメテウス隊は深追いを止め、静止状態で警戒する。

 その脇を、2機のアルガムがすり抜けていった。


「おい、行くな! 引き返せ!」

「……え?」


 間の抜けた返答が彼の最期の言葉となった。

 北西から飛んできたレールガンの弾体が、アルガムの上半身を無残に吹き飛ばす。


「レグルス7セブン!? クソッ、やったのはアイツか! 覚悟しろ!」


 すぐ近くのアルガムが、ロングソードを抜いて北西へ向かう。

 と、レグルス7を吹き飛ばしたAdvancerアドヴァンサーがレールガンを投棄し、2本のロングソードを抜いた。機体ともども、真紅に輝いている。


「うおおおおおおおっ!」


 ロングソードを引き抜いたアルガムが真紅の機体に吶喊とっかんするも――


「哀れな」


 オープンチャンネルで響き渡った声が、アルガムのパイロットが最期に聞いた言葉となった。

 男性とも女性とも判断が付かない声だ。


 その僅か0.07秒後。

 アルガムは胸部と大腿部をそれぞれ切断され、墜落した。


「総司令部から増援に向かえと言われたが……そういう事か。この壊滅的惨状では、妥当な判断だ。しかしその割には、敵機の数が少なく思えるな……おや、やけに大きな黒い機体がいる。なるほど、あの機体と近くにいる派手な色合いの機体によるものか。丁度良い。サロメルデにはまともな兵がいなかったのだ。一戦、交えてもらおうか」




 真紅の機体のパイロットは、シュヴァルリト・グランに狙いを定めると、機体背面のエンジンを最大出力で噴射した。

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