Mission005: 防衛

「プロメテウス1ワンより各機へ通達。事は急を要する、最大速度で向かうぞ!」

「「了解!」」


 発艦を終えた計5機のAdvancerアドヴァンサーは、音速を軽く上回る速度でメイディアへと向かう。

 その最中、ゼルゲイドの無線に、デュランから通信がかかった。


「ゼルゲイド……おっと、エクスカリバー」

「何でしょうか、プロメテウス2ツー


 落ち着いた様子で、ゼルゲイドが応答する。

 しかし、デュランからの言葉は、想像を絶するものであった。


「正直に言って、俺はお前の腕を信用しちゃいねえ。確かにお前の親父さんは強かった。その機体で、何度も俺達を救ってくれた。だがな、目の前にいるお前は、親子とはいえ別の存在だ。だから」


 一瞬の間を開けて、デュランが続ける。


「だから、俺達に実力を見せてくれ。お前が親父さんと同じくらい信用出来るかって事を、この戦いで証明してくれ」

「分かりました。父の愛機であったこいつシュヴァルリト・グランで、俺の実力を見せましょう」

「その意気だ。これから背中を預けるにふさわしいか、見せてほしい。無論、俺達も全力で戦うがな!」


 それからデュラン機は、シュヴァルリト・グランに向けてサムズアップ親指を立てるのハンドサインを送る。

 それを見たゼルゲイドは、小声で呟いた。


「……やってみせる! この先、何があろうとも!」


 そう決意した直後、マップに光点がいくつも表示された。

 同時に、パトリックから通信が飛んでくる。


「おいでなすったな……各機臨戦態勢! 交戦区域到着まで編隊飛行を維持、到着後はエレメント2機一組を維持して確実に数を減らせ!」

「「了解!」」

「エクスカリバーは場をかき乱せ! 好きなだけ暴れてくるんだ! ただ、無茶はし過ぎるなよ!」

「了解、プロメテウス1ワン!」


 5機は見事なV字編隊を保ちながら、メイディアへと突入した。


     *


「耐えるんだ! 我々が耐えねば、サロメルデ王国は……ぐあっ!?」


 暗緑色のAdvancerアドヴァンサー、“アルガム”が、また1機撃墜される。

 撃墜したのは、灰色をしたベルゼード帝国制式Advancerアドヴァンサー、“リクシアス”であった。

 両者の装備はほぼ同等ながら、機体そのものが有する速度、運動性の圧倒的なまでの差で、リクシアスの一方的な優勢になっていた。


「王城だけでも守れ! 今は1秒でも多く、王族の皆様が逃げられる時間を稼ぐんだ! クソ、いつの間――」


 言いかけたところで、1機のアルガムの上半身が吹き飛ぶ。


「レ、レールガンだ……! 一方的にやられるぞ!」

「諦めるな! サロメルデ王国兵の意地を見せろ!」


 数的にも、質的にも不利は明らかなサロメルデ王国兵であったが、それでも踏みとどまっていたのは、王族が逃げる時間を稼ぐためだ。1秒でも長くベルゼード帝国軍を釘付けにするのが目的であるが、サロメルデ王国兵達の戦力では、いつ戦線が崩壊してもおかしくはなかった。

 何せ残存しているアルガム――指揮官型の“アルガム・アレス”も合わせると――せいぜい12機やそこらだったのだ。他はかき集めた地上戦力のみであるが、空を自在に飛ぶAdvancerアドヴァンサーとの相性の不利は明らかである。


 残ったアルガムも、1機、また1機とほふられていった。

 50.8mmや76.2mmの弾薬のシャワー、またはレールガンの長距離狙撃だ。


「も、もう味方が……!」


 そうしている間に、サロメルデ王国兵に対する包囲網が完成していた。

 数が数だけに全周包囲だ。逃げる事は叶わない。


「踏みとどまれ! 最後の1機になっても抵抗しろ!」

『サロメルデ王国兵の諸君に告ぐ! 今すぐ投降すれば、攻撃はしない!』


 ベルゼード帝国の指揮官から、投降を勧告する通信が響く。

 が、残存サロメルデ王国兵の隊長格の男は一蹴した。


「笑わせるな! 貴様らに投降したところで、どの道殺されるだけだ! 貴様らの他国での虐殺行為を、我々は知っている!」

『ふん、ここで命を無駄に散らすか』

「無駄ではない! 今もこうして戦っている! それで十分だ!」

『投降を受け入れるつもりは無いのだな?』

「ああ! 我々は死ぬまで戦い抜く!」

『フッ、愚かな。各機、聞いての通りだ。望みどおりに葬ってやれ』


 ベルゼード帝国の指揮官の号令一下、リクシアス達が銃器を一斉に構える。

 そしてトリガーにマニピュレーターが掛かったとき――




 リクシアスの1機が、ビームに貫かれて爆散した。




「何事だ!?」


 慌ててベルゼード帝国の指揮官がレーダーを見る。

 そこには――5機の“敵機”が存在していた。


     *


「間に合ったか……!?」

「祈りましょう、ゼルゲイド様」


 ビームを放った張本人、ゼルゲイドは、敵機の撃墜を視認する暇も惜しんで突撃を仕掛ける。


「各機、ウェポンズフリー。交戦せよエンゲージ!」


 それに続いて、パトリックが号令を下す。

 同時に、部隊が1機、2機、2機の編成へと分裂した。


「今助けるぞ!」

「参りましょう、ゼルゲイド様!」


 ゼルゲイドはボタン操作で、左右それぞれの肩部に搭載された中型ビーム砲を展開。照準は敢えて付けず、ただちに発射した。


「各機散開! あの黒い機体を優先して墜とせ……うおっ!?」

「俺達も忘れてもらっちゃ困るなぁ!」


 パトリックとデュランが、2機がかりで1機の灰色のリクシアスを狙う。


「リクシアスだと……!? 貴様ら、どの部隊だ……!」

「プロメテウス隊1番機だ!」

「な、何だその部隊は……うわあぁっ!」


 灰色のリクシアスが銃弾を避けきれず、立て続けに喰らって撃墜される。

 50.8mmや76.2mmであれば、数発程度なら弾き飛ばすAdvancerアドヴァンサーの堅牢な装甲だが、何発も連続で食らってしまっては流石に耐えきれるものではなかった。


「ラファエル、追い込め!」

「了解です!」


 エルトとラファエルの乗るリクシアスも、かなりの連携で確実に敵機を撃墜する。


「あれは……」


 それを見ていたサロメルデ王国兵達が、戦意を取り戻し始めた。


「何だかよく分からんが、俺達に味方しているのは確かだ! 各機、派手な色の機体と真っ黒なのは狙うな! 敵は変わらん、ベルゼードの奴らだけだ!」

「「了解!」」

「やってやる!」




 サロメルデ王国兵も援護射撃を加え、確実に灰色のリクシアスを追い込む。

 戦況は、逆転を始めていた。

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