Mission003: 戦艦

「無事ですか、M様!」


 ゼルゲイドとアドレーネは機体を格納するや否や、シェルターにいるMの元へ向かう。

 と、シェルターの扉がひとりでに開いた。


「ここに。アドレーネ様、そしてゼルゲイド様もご無事でしたか」

「M! 無事でしたのね!」

「無論です。それも、ゼルゲイド様の奮戦あってこそですが。ともあれ、アドレーネ様もご無事で何よりでございます」


 Mは笑みを浮かべると、「さて」と切り出した。


「ゼルゲイド様。先ほどの私達の質問ですが……返答は、いかがされますかな?」

「残念ですが、やはりお断りさせていただきます」

「そうですか」


 Mは僅かに間をおいて、次の言葉を切り出した。


「では、『貴方のを逸する』。そう判断して、よろしいですね?」

「!? 待って、待ってください……!」


 ゼルゲイドは慌てて、Mを引き留める。


「貴方がたは、父の不名誉を……その真実を、知っているのですか?」

「はい。ですが、この場では明かせません。ゲルゼリア再興に力を貸していただければ、おのずと真実は見えてくるでしょう」

「取引、という事ですか……?」

「その通りです。しかし、我々でも把握しきっていない情報があります。さしずめ、半分は取引、半分は共に真実を探す共同作業、と評せますかな」


 ゼルゲイドは、大いに悩んでいた。

 既に壊滅した家、目の前の真意を掴み切れぬ初老の男。下す決断は半ば決まっているようなものであるが、まだ踏み切れないのだ。


「ゼルゲイド様」


 そこに、アドレーネが話しかける。


「お願いします。ゼルゲイド様のお力が必要なのです」


 アドレーネの真剣な表情を見て、ゼルゲイドは自らの心に問いかける。


(ゲルゼリア王国……そして、アドレーネという目の前の女性……。どちらも、聞いた事がある、そんな気がする……。それに、父さんの不名誉の真実を知りたい。不名誉が誤解によって引き起こされた悲しい結果なら、俺は、父さんの名誉を取り戻したい!)


 迷いを振り切ったゼルゲイドは、Mにはっきりと告げる。


「分かりました。出来る限り、力を貸しましょう。愛機、シュヴァルリト・グランと共に」

「ありがとうございます」

「ところで、足……移動に用いるものは? いらした時に乗っていた車は、残念ながら壊されていたのですが……」

「それであれば、心配は無用です」


 Mは腕時計を見て、笑みを浮かべながらゼルゲイドに告げる。


「そろそろ着く頃かと思いますので」

「?」


 ゼルゲイドが、意味深な言葉に疑問符を浮かべる。

 Mはそれには取り合わず、ゼルゲイドに質問する。


「どこから出られますかな?」

「シュヴァルリト・グランの脇にあるエレベーターから……」

「かしこまりました。ゼルゲイド様、シュヴァルリト・グランに乗っているのがよろしいかと」

「は、はい……」


 ゼルゲイドは訳も分からぬまま、シュヴァルリト・グランに乗り込む。

 その間にMがアドレーネを連れ、エレベーターで外に出た。


「……なっ!?」


 再びシュヴァルリト・グランを起動させたゼルゲイドは、目の前の光景に、ただただ驚いていた。


 全長1.9kmはあろうかという巨大な戦艦が、まっすぐこちらに向かってきていたのだ。

 シュヴァルリト・グランの姿を認めたその戦艦は、しかし何もせず、ゼルゲイド達のすぐ近くに艦体を留め、係留錨アンカーを降ろし、“停泊”したのである。


 と、アドレーネがMと共に戦艦の中へ入った。

 ゼルゲイドも続き、シュヴァルリト・グランもろとも、艦内へ足を踏み入れる。


 そこには誘導員がおり、シュヴァルリト・グランを格納庫へと案内した。

 あっという間に格納庫へ機体を格納した事に驚いたゼルゲイドは、アドレーネ、Mと合流する。


「Mさん、これは……」

「Mで結構です。そしてこの戦艦は、現時点で、です。……名前は、“飛翔戦艦ゲルゼリア”」




 Mは静かに、しかし誇り高くゼルゲイドに告げたのであった。

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