Mission002: 迎撃

「……クソッ!」


 ゼルゲイドは短く悪態をつく。

 扉の向こうで何があったかを察したのだ。


「二人とも、こちらへ! 少し走りますが、奥に安全なシェルターがあります!」


 シェルターまで駆け足で向かう三人。

 と、ゼルゲイドだけ進路を変えた。


「ゼルゲイド様!?」


 アドレーネがいち早く気づき、ゼルゲイドの後を追おうとする。


「アドレーネ様……」


 Mはアドレーネを止めようとしたが、何かを思い出したのか、思いとどまった。


「あの方のAdvancerアドヴァンサーでしたら、託すべし……でしたね。信じましょう。ゼルゲイド様が、本当にあの方の息子である事を」


 そう言って笑みを浮かべたMは、一人シェルターへ向かったのであった。


     *


 一方、ゼルゲイドは、自らのAdvancerアドヴァンサーの前に立っていた。


「頼むぞ、シュヴァルリト・グラン! もしかしたら、いつもと違うかもしれない……それでも、俺を守ってくれ!」

「ゼルゲイド様!」


 ゼルゲイドが、声に振り向く。

 そこには、アドレーネが立っていた。


「アドレーネ様!? シェルターに向かわれたのでは!?」

「それよりも、私をそのAdvancerアドヴァンサーに乗せてください!」

「危険です!」

「構いません! 私は貴方と運命を共にします!」


 そこまで言われて、ゼルゲイドは覚悟を決めた。


「では、乗ってください! その代わり、どうなっても責任は取りませんよ!」

「それで構いません!」


 ゼルゲイドはアドレーネを先にのせ、後部座席に座らせる。続けて自らも乗り込み、起動手順を冷静にこなし始めた。


「キーのセット完了、エンジン1番2番3番始動確認、プログラム起動確認……おはよう、シュヴァルリト・グラン!」


 その声と同時に、全高32mの漆黒の機体が、咆哮ほうこうの如き音を立てる。

 今ここに、黒き騎士は目覚めたのだ。


「エレベーター上昇開始、出るぞ!」


 続けてゼルゲイドがプログラムの入力を終えると、シュヴァルリト・グランの足元がせり上がり、左右に分かれた天井へ登っていった。


 シュヴァルリト・グランを押し上げていたエレベーターが止まると同時に、ゼルゲイドは自身の家を見る。


「ッ、これは……!」


 案の定、がれきや残骸だらけになっていた。アドレーネとMが乗っていた車も、同様に破壊されている。

 ゼルゲイドはすぐに、家を破壊した元凶を見つける。


「あの黒の機体……! あれが俺の家を!」

「リクシアス」

「え?」


 突然のアドレーネの言葉に、ゼルゲイドは一瞬我を忘れる。


「ベルゼード帝国の機体です」

「知ってるのですか!?」

「ええ。それより、今は目の前の敵を!」

「かしこまりました、アドレーネ様!」


 ゼルゲイドは操縦桿を握りしめ、レバーを操作する。

 同時に22基のブースターが火を噴き、空をけ始めた。


「うっ……!?」


 加速に慣れていないアドレーネが、歯を食いしばる。

 それでも、驚くべき事に、意識は保っていた。


「安心、して、ください……! 負荷は、軽減、されて、ますから……!」


 ゼルゲイドも同様に歯を食いしばりながら、“リクシアス”と称された黒い機体3機と同じ高度に留まる。

 そして通信チャンネルをオープン回線にすると、リクシアス達に呼びかけた。


『何のつもりかは知らねえが、今すぐ帰れ! 今なら何もしねえからよ……!』


 だが、返答は銃弾の嵐であった。既に銃を構えていたリクシアスから、容赦の無い射撃が飛んでくる。


「だったら……!」


 ゼルゲイドは機体を左斜め上に飛ばすと、難なく銃弾の嵐を避けた。

 再びオープンチャンネルにし、リクシアス達に宣告する。


『覚悟しろ!』


 その言葉と同時に、シュヴァルリト・グランが加速する。

 あっという間にリクシアスとの距離を詰め、胸部に拳を振るい――直後、一条の光が、リクシアスの胸を貫いた。


「ひとつ!」


 瞬く間に屠り去るも、手を緩める事は無い。

 射撃を見切り、命中弾のみ両腕上腕部の盾で弾くと、同様の手順で2機目を屠る。


「ふたつ!」


 僚機の撃墜を見た3機目が、自暴自棄気味にナイフを抜いて突っ込む。

 しかしシュヴァルリト・グランは、軽くひねっただけで刃をかわした。


「なら、俺だって……!」


 レバーのボタンを押すと、シュヴァルリト・グランの左脇にある大剣が、30度ほど前方に傾く。

 そして刃を押さえているパーツが離れると、シュヴァルリト・グランは一気に大剣を構えた。反転して迫りくるリクシアスに向き直り、前方へ飛ぶ。


「終わりだ……!」


 ゼルゲイドの言葉に合わせ、シュヴァルリト・グランが大剣を振り抜いた。

 リクシアスは中途半端にナイフを突きだした姿勢のまま、空中で胸部を両断され、墜落、爆散した。


「周囲に敵反応……無し。アドレーネ様、終わりました」

「ありがとうございます、ゼルゲイド様」




 ゼルゲイドはエレベーターまでシュヴァルリト・グランを飛ばし、機体を収納すると、格納庫に戻ったのであった。

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