第9話

 1週間ほどして、旅人は雑貨屋でレンガとセメントを買いこみ、それらをロバの背中にくくりつけると、あのミツバチの家に向かって歩きはじめた。

 ミツバチの家の前まで来ると、ロバの背中から雑貨屋で買った品物を下ろし、洞穴の入口に手際よくレンガを積みはじめた。

「これでもしクマがハチミツを盗みに来てもだいじようぶだ。まあ、あの驚きようからしたら2度と現れないと思うけどな」

「親切に、ありがとうございます。おかげさまであれ以来クマは姿を見せたことがありません。本当にたすかりました」

 ミツバチたちは旅人に向かって深ぶかと頭を下げ、また瓶いっぱいのハチミツをくれた。

 ふたたび旅人とロバが町にもどると、いつものお客がすでに首を長くして待っており、運んできたハチミツはたちまちのうちに売り切れてしまった。

 それもこれもいま考えると、あの迷子のミツバチに出会ったことが切っ掛けとなり、そして手のひらをミツバチに刺されてしまった。

 それが原因かどうかはわからないが、不思議なことに彼らと会話ができるようになり、一緒に旅をするロバとも話が出来るようになった。

 どうしてそうなったのか考えてもわからないが、ただひとつ人間だろうが、動物だろうが、虫だろうが、心を開いて相手を受け入れることでわかり合える、それだけは確信を持てた。


 以来、奇妙なロバと旅人のうわさが町に広がり、荷物運びを頼まれたり、お祭りに呼ばれて子供たちを乗せたりしてたいそう人気者になりました。

 旅人は、自分の肌にあったのか旅をつづけるのをやめ、ハチミツで儲けたお金で町外れに小さな家を買うと、ロバと一緒にいつまでもなかよく暮らした。


( 了 )

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旅人とロバの話 zizi @4787167

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