第8話

 やがてクマとみまがうことのない黒い塊りが見えた。クマはあっちへうろうろ、こっちへうろうろ。なかなか近づいて来る気配がない。

 もう少し近くに来たら作戦の開始だ。もう少し……。

 すぐそこまでクマがやって来ました。ロバとクマの目が合います。今です。ロバは後ろ足で立ち上がると、

 グヒッ、グヒヒヒッ。グヒッ、グヒヒヒッ。

 例の奇妙な大きな声でいななくと、同時に首を大きく振って鈴を思いきり鳴らしたのです。

 グォンガラリン。ゴォンガラリン。

 グォンガラリン。ゴォンガラリン。

 すると、クマはいままでに見たことのない奇妙な生き物に出会ったのと、突然の出来事にびっくりし、大きな体をゆすりながらうしろも振り返らずに一目散に逃げ帰った。

 これでひと安心、おそらく2度とここに来ることはないに違いない。


 次の日、ミツバチは何度も礼をいいながら、ロバの背中の水がめにあふれんばかりのハチミツをわけてくれた。

 いま何かいいことをしたあとの清々しい気分で山道を歩いている。道は下り坂になり、村に近いことはいわなくてもわかった。

 少しずつ家並みが見えはじめ、人の姿もちらほらとうかがえるようになった。

 そこは村というより町といえるくらいの大きさがあった。旅人とロバは町に入ると、あまりの賑わいに目を丸くし、道の両側に広げられた店に目を奪われながら歩いた。

 空腹でたまらない旅人は、懐にわずかなコインしかなかったため、とりあえずロバの背中に積んだミツバチの瓶を下ろして、道端で売りはじめた。

 最初は誰ひとり見向きをしなかったが、ひとりの女が茶碗1杯のハチミツを買ったことが切っ掛けとなって、大きな瓶のハチミツがあっという間に売り切れてしまったのでした。

 その日はひさしぶりにご飯らしい夕食をおなかいっぱい食べ、旅人はいままで寝たことのないようなベッドで眠ることができ、ロバもやわらかい藁のふとんの上で眠ることができました。

 そしてしばらくこの町でと決めると、なるべく家賃の安い家を探し、ロバと一緒に暮らすことにした。

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