第6話

 隣の村までは距離があるので、何日もかかるのは当たり前だった。

 次の日も、野宿で一晩明かした旅人たちは鳥のさえずりと共に目をさまし、朝早く旅立つことにした。あたり一面ミルク色の朝もやに包まれ、まるで雲の中を歩いているようだった。

 休み休み山道を歩きつづけ、お昼近くになった時、いままでおとなしくしていたミツバチが急に、「母さんのにおいがしてきた」といって旅人の肩から勢いよく飛び立ち、ずんずん先の方へ飛んで行った。

 しばらくすると、こんどは数匹のミツバチが旅人に向かって飛んできました。そしてその中の一匹がいいました。

「うちの子が迷子になったのをここまでつれてきていただいて、本当にありがとうございます。なんとお礼をいったらいいのか……」

 それはミツバチの母親だった。

「いやいや、なんにも気にすることはない。こっちの方向に来るついでだったのだから。まあ無事に帰れてよかった、よかった」

「ありがとうございます。もし先を急ぐようでなければ私たちの家にお寄りください。何もおかまいできませんが」

 そういわれて急ぐたびでもないので、旅人たちはミツバチのあとについていくことにした。

 30分ほど歩いただろうか、先を行くミツバチが突然山道からそれて森の中に入って行った。旅人たちは仕方なくついて行きました。

 長いこと緑の森を歩いて行くと急に視界がひらけ、小さな洞穴があるのが目に入りました。ミツバチたちはその穴の入口に向かってまっしぐらに飛んで行きます。

「ここが私たちの家です。いま、おいしいハチミツを持ってきますから、そこでゆっくり休んでいてください。これをなめるととても元気が出るんですよ」

 ミツバチの母親はそういって洞穴の中に入っていきました。しばらくしてしたたり落ちるほどのハチミツが旅人の目の前に運ばれました。旅人とロバは遠慮なしにおなかいっぱいハチミツをなめました。すると今度は、父親のミツバチがそばに来て、

「旅人さん、お願いがあるのですが、聞いてもらえないでしょうか」と、深刻な顔でいった。


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