第4話

「お願いです。どうかたたかないでください」

 間違いなくミツバチがしゃべっている声だった。

 どうしてミツバチと会話が出来ているのかまったく理解できなかった。まるで夢でも見ているようで、どうしたらいいかわからない旅人はしばらくそのままでいました。

「君はどこからきたんだい、遠くからきたのかい」

 とりあえず話しかけてみることにしました。

「はい、向こうの山の森あたりからです」

 ミツバチは涙まじりの声でいいました。

「ひょっとしてオレが昼寝してたときから付きまとっていたのはキミか?」

「はい、そうです」

「どうして?」

「お父さんとお母さん一緒だったんですが、よそ見しているうちにはぐれてしまったんです」

「それはかわいそうだ。で、キミの家はどこにあるんだい?」

「はい、この山の向こうあたりだとおもうんですが・・・」

 ミツバチはあいまいな返事をした。

「そうか、私もそっちに向かっているから、キミを送っていってやるよ。でもキミのいえにたどり着くかは保証できないけどな」

 旅人はやさしくいいました。

「うれしいです」

 そう会話しながら、ミツバチとどうしてこんな会話が出来ているのかと・・・。

「どうしてミツバチのキミと話が出来るのだろう、それが不思議でならない」

「さっき旅人さんの手のひらにハリを刺しましたよね。あの行為が切っ掛けで会話が出来るようになったのです」

「全然信じられないんだけど・・・」

「でも現実にこうやってお話しができてるじゃないですか。世の中にはわからないことはいくらでもあります」

 ここに来てミツバチに教えられることがあるとは思わなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る