第3話
しばらくふたりのドタバタ劇を見ていた旅人だが、気を取り直してふたたび山道を歩きはじめるのだった。気がつくとあの墨のような雲もなくなり、またあの明るい月明かりが戻って来ていた。
あちこちから虫の声が聞こえて来る。その隙間を狙うようにしてフクロウが低い声で真夜中を教えている。
ところが、よく耳を澄ませるとそれらとは違った奇妙な音が、背中のほうから聞こえて来た。それが段々近づいて来るのがわかった。
グォンガラリン。ゴォンガラリン。
グォンガラリン。ゴォンガラリン。
旅人は足を止めてうしろを振り返るのだが山道は曲がりくねっていて見通しがきかない。仕方なくうしろを気にしながらふたたび歩きはじめました。ところが、その気になる音はどんどん近づいて来る。どうしても気になった旅人は、山道のきわに隠れてその音を待った。
すると、どうだろううなだれて山道を登ってくる1匹のロバが目に入った。そのロバを見た旅人は驚いた。目のまわりと4本の足と両耳、それとお尻の部分がまっ黒で、ほかは薄汚れた白い色のロバだった。まるで足の長いパンダが歩いているようだった。
先ほどから気になっていた音は、ロバの首からぶら下がっている大きな鈴が歩くたびになる音だったのだ。
ロバであることがわかった旅人は、安心して口笛を吹いてロバを呼んだ。するとロバは躊躇することなく旅人のほうに近づいて来ました。
変わった姿のロバに一瞬戸惑いを覚えた旅人だったが、あまりにも人懐っこくて、つい頭を2、3度撫でてやった。ロバは嬉しそうに大きな頭を左右に何度も振るのだった。
そんな愛くるしいロバを見ていて、ひとりで旅をするよりこいつと一緒もわるくないと思った旅人は、ロバの首のあたりを覗き込んだ。
そこには金属で出来たがま口のような形の鈴がぶら下がっていて、どうやら先ほど聞こえていた耳障りなあの音はこのせいだったのだ。
ひと安心した旅人は、空を見上げたあと、まだ夜明け前までは少し時間があるようだし、ひと騒ぎした疲れを癒すためにひと寝入りしようと思った。
目をつぶってしばらくしたとき、胸の上に置いていた左の手のひらに何かが刺さった気がした。反対の手でその部分を掻き何もなかったように眠ろうとしたのだが、もう1度同じ場所に同じ刺激を感じた。
その部分に目をやると、小さなミツバチがとまっているのに気がついた。反射的に反対の手で叩こうと手首を返したとき、
「たたかないでください」
金切声のような甲高い声が聞こえた。
一瞬手を止めた旅人は、ミツバチのとまっている手を顔の近くに持って行った。
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