第2話
そのうちに雲はどこかに行くだろうと考えながら歩いていたとき、大きな杉の木の陰から、2つの真っ黒な影が旅人の前に立ちはだかった。突然のことにびっくりした旅人は、思わず2、3歩後ずさりをした。
その影は大小ふたつで、ひとつはノッポで長い棒のようなものを持ち、もうひとつの影は背の低いデブで、畑で使う鍬を掴んでいた。
「おい、こら。お前か?」とノッポ
急にいわれても何のことか見当のつかない旅人は、小首を傾げた。と同時に心臓が喉のあたりにまで上がって来ているのがわかった。
「やい、黙ってないで何とかいったらどうだ」
小柄でデブの男が鍬を前に出しながら訊く。
「返事が出来ないところをみると、やっぱりお前だな」
ノッポは前に進みながらいった。
「ちょっとまってくれ。何のことかさっぱりわからない。オレはただの旅人だ。夜中じゅう歩いてこの山の向こうの村にいくところなんだ」
「嘘をつけ。この向こうの村から羊を盗んで売りに行くところなんだろ?」
ノッポは長い棒を突き付けるようにした。
「羊なんて知らない。とにかくオレは隣の村に行くだけなんだ。それに、どこを見ても羊なんて1匹もいやしないだろ」
ようやく2人の男が山道に現れた理由がわかった旅人は、語気を強めた。
「羊はどこかに隠せばわからんさ。いいからとにかくオレたちと一緒に村に戻るんだ。言い訳はそれからにしろ」
デブ男は旅人の腕をつかもうとした。
旅人はその手を振り払うようにしながらふたりから離れた。逃がすまいと思ったデブ男が旅人の襟首をつかんだとき、
「痛ってえ」
突然素っ頓狂な声を上げ、旅人から手を放した。
「どうした?」
ノッポがデブ男を気遣う。
「何かに刺された。痛い、痛い」
デブ男は首のあたりを押さえながらうずくまってしまった。
「ハチだ、ハチに刺されたに違いない。下手をすると命を落とすこともあるというから、急いで村に帰って医者に手当てをしてもらおう」
ノッポがデブ男に気遣うようにいった。
「でも、この羊泥棒を連れて帰らないと・・・」
「そんなことはいい。お前死んじゃうかもしれんのだぞ。いいからオレがおぶってやるから、肩につかまれ」
大慌てのふたりは、旅人のことなどほったらかしで、暗い山道を降りて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます