重王ジャーグ登場

 忠志がロボットの中の座席に着くと、胸部が閉じてタラップが折りたたまれ格納される。しかし、ロボットを操作する機械類が一切ない。モニターもレバーもマニピュレーターもスイッチも計器もない。彼はただ暗く狭い空間に閉じ込められているだけだ。


(どうやって動かすんだ?)


 忠志は意気込んで乗り込んだが、困惑して熱気が少し萎える。そこへヴィンドーが助言する。


(機体と自分は一体だと感じるんだ)

(操縦しなくて良いのか?)

(両目を閉じて、精神を集中しろ)


 忠志は言われるままに両目を閉じた。そうすると、彼の視界がロボットの物とリンクする。まるで巨人になった様な気分。触覚までリンクしており、足元の海水が冷たい。

 ヴィンドーは指示を続ける。


(立ち上がれ)


 忠志は何の疑問も抱かず、彼の指示に従った。座席に着いていた感覚は既に消失しており、全身がロボットと一体になっている。忠志が立ち上がれば、ロボットも立ち上がる。


(それで、どうすれば良い?)


 彼はヴィンドーに新たな指示を求めた。飛行機能があるとか、遠距離攻撃手段があるなら、空高くに浮かぶ宇宙船に攻撃できるが、このロボットには何ができるのか彼は何も知らない。最初に見た時は空を飛んでいたので、一応飛ぶ事はできるのだろうが、その方法も分からない。

 ヴィンドーは忠志の疑問に対して、明確な攻撃目標を指定する。


(あのを壊せ)


 曖昧な指示だったが、忠志は直感的に理解した。とは宇宙船を地上に繫ぎ止めているアンカーの事だと。


 忠志は車の走行していない道路を歩いて、東京湾の真ん中に突き刺さるアンカーを破壊しに向かう。機体は大きさの割には軽いのか、路面が壊れたり凹んだりする事はない。

 忠志の目には周囲の風景がミニチュア・ジオラマ模型のように見える。目線の高さはビルの八階相当。何もかもが小さく弱く見えるが、上空のリラ星人の宇宙船はもっと大きい。アンカーの直径も百メートルはある。巨大ロボットの視点でも、まだ巨木のような大きさだ。



 羽田空港を通り抜けてアンカーに向かおうとしていた忠志だったが、彼の行く手を阻むように上空から青い塊が落ちて来て、海と大地を揺るがしながら空港の滑走路に降り立った。滑走路が陥没して、アスファルトの破片が飛び散る。

 塊の正体は忠志の乗る白いロボットと同じサイズの巨大ロボット。外見上の第一の特徴は、全体的に青いカラーリングと、胸部と腹部の装甲が肉食獣の口吻のように突き出している所。

 ヴィンドーが警告する。


(気を付けろ、タダシ! あれは――)


 彼が警告し終わらない内に、別の者の声が忠志の頭の中に響く。


「まだ生きていやがったか、くたばり損ないめ! 腐っても王の後継者候補の一人という訳だな」

「だ、誰だ? どこから声が……」


 混乱する忠志にヴィンドーが冷静に告げる。


(青いロボットのパイロットだ)

(……王の後継者って何だ? あんたはリラ星人の王子だったのか?)

(詳しい話は後だ。疑問に答えるより先に、奴を倒すぞ)


 二人が話していると、またも青いロボットのパイロットが横槍を入れる。


「何をごちゃごちゃ言ってやがる! お前はここで! この重王ジャーグに屠られるのだ!!」


 青いロボット――ジャーグの胸部と腹部の装甲が、まるで口を開ける様にばっくり上下に分かれて開放される。攻撃が来ると直感して、忠志は身構えた。


「アトラクターウェイブ!!」


 しかし、光線やミサイルが発射される訳ではない。その代わりに忠志の乗る白いロボットが、徐々にジャーグに引き寄せられる。機体を後方に反らして踏ん張ってみても、まるで綱引きで力負けして引き擦られるかのように、ズルズルと吸い寄せられる。


(こ、これは何だ!?)

(指向性の引力波だ)

(引力波……!? いや、それは分かったから、何とか止める方法は無いのか!? 武器とか、飛び道具とか!)

(そんな物はない)

(じゃあ、どうやって戦えって言うんだよ!)


 武器がないと言われて忠志はキレた。ヴィンドーの口調が他人事の様に冷静なのが、また彼の不安を煽る。


(焦るな、タダシ。腕を飛ばせ)

(ロケットパンチか!)

(そんな機能はない。私が動かす。よく見て、感覚を掴んでくれ)


 ヴィンドーは忠志の代わりに、白いロボットを動かした。ロボットの両肘の関節が外れて、宙に浮く。ロボットと同調している忠志は、自分の腕が取れたように感じて驚いた。


(へぇっ!?)

(腕が伸びるイメージを持つんだ。飛ばした後もコントロールを失うな)


 肘から離れた両腕は大きな弧を描いてジャーグに向かって飛んで行き、機体の顔面を両手でがっしり掴む。


(タダシ、敵の機体から熱を感じるんだ。それを吸収して奪う!)


 ジャーグの頭部から白いロボットの腕に熱が伝わる。


(エネルギーを吸収している? これがこのロボットの武器?)

(ロボットはエネルギーを蓄える。それが動力にもなる。相手からエネルギーを奪い尽くせ!)

(良し!!)


 白いロボットはジャーグからエネルギーを奪い続ける。だが、ジャーグは構わず引力波を放ち続けた。


「フン、面白おもしれえっ! そっちがその気なら乗ってやるぜ! オレが勝つか、お前が勝つか、だ!!」


 余裕のあるジャーグのパイロットの発言に、忠志は弱気になる。


(ヴィンドー、このまま行って大丈夫なのか!?)

(構わない。心を強く持つんだ、タダシ! 奴が倒れるか、私たちが倒れるか、精神力の勝負になる)

(精神力って……)

(君はこんな所で倒れる訳にはいかないだろう?)


 ロボットが精神力で強くなるとは忠志には思えなかった。ジャーグのパイロットが言う「真剣勝負」の意味も分からない。しかし、ヴィンドーは勝利できると信じている。これから何が起こるのか、忠志は激突の瞬間を待つしかない。

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