熱闘

 もう引力波から逃れる事はできないと悟った忠志は、自らジャーグに向かって突進した。逃げ腰のままでは勝てる勝負も勝てないと思い切り、弱気を振り払って、闘志を奮い立たせる。

 それをジャーグはがっちり受け止めて、ロボット同士で柔道か相撲のように組み合う形になる。同時に、二機のロボットは高熱を発して赤く輝いた。熱線が二機を囲むように、球状になって巡る。


「あっつっ!!」


 激突の衝撃は余り感じなかった忠志だが、高熱には堪らず声を上げる。特にジャーグとの接触部が、まるで焼けた鉄を押し付けられたような熱さ。いや、機体と同調している彼は実際に焼けた鉄に触れているのだ。

 彼が怯んだ隙を突いて、ジャーグは機体を締め上げる。


「ぐぇっ、うぁ、熱い、あっつい!!」


 うろたえる忠志をヴィンドーは叱咤した。


(落ち着け、タダシ。精神力の勝負だと言ったはずだ。敵も苦しんでいる。恐怖を怒りに変え、理不尽に打ち克つのだ! これを乗り切れなくてはリラ星人を倒す事などできはしない!)


 忠志はヴィンドーの助言に従い、熱さを堪えて分離した腕を再結合させ、ジャーグの頭部を締め付け返す。

 だが、ジャーグのパイロットの声には余裕がある。


「はははは、燃え尽きろ!! エルーンごときに敗北した弱体者が、このオレに敵うものか! 王になるのはオレだ。お前は踏み台となれ!」


 高笑いと強気な発言に、実は全然効いていないのではと気弱になる忠志。ヴィンドーが彼を励ます。


(心を強く持つんだ。あれは強がりに過ぎない。苦しいからこそ、気勢を上げて耐えている。タダシ、君には負けられない思いがあるはずだ。この激しい熱気が、そのまま君の力となる! 焼き尽くせ!)


 忠志は猛熱の中で両目を閉じ、両親の事を、宗道と新理の事を思う。彼の日常は一日にして崩れ落ちた。宗道を殺し、両親を殺したリラ星人が憎い。日本を支配して、人々を苦しめるリラ星人が憎い。このまま殺されたのでは惨めな負け犬だ。こんな所で負けて堪るかという思いが、忠志の中で強くなる。


「許さない……! 許さない! リラ星人め! オレは殺されないぞ! オレが、オレがお前たちを殺す!! 殺し尽くしてやる!!」


 落涙と同時に忠志は刮目した。身を焼くような高熱は自分の中で燃えたぎる怒りの炎なのだと、彼は狂信する。そう思い切った途端、不思議な事に痛みや苦しみが軽くなった。心頭滅却すれば火もまた涼しという事なのか。内から湧き上がる熱量が、ジャーグから放たれる熱量を上回り、気迫が巨大な炎となって、相手を包み込んでいるような感覚を得る。


「な、何だ、どこにこんな力が!? お前……お前はヴィンドーではない!! 地球人に乗り換えたのか!」


 優勢から一転して押し負け、初めてジャーグのパイロットが動揺を見せる。温度は上昇を続け、ジャーグの両腕が溶け落ちた。

 体の自由を取り戻した忠志は、ジャーグの頭部を捻り潰し、プラズマ化させて爆散させる。


「燃え尽きるのは……お前だぁあああーっ!!」


 続けて彼はジャーグの胴を右腕で貫いた。同時にジャーグの背面から小さな光球が飛び出す。脱出ポッドだ。


「これで勝ったと思うな、地球人! 次に会う時が、お前の最期だ!」


 ジャーグのパイロットは捨て台詞を吐いて、上空の宇宙船に退散する。


「待てーっ、逃げるなー!!」


 忠志は脱出ポッドを追おうとしたが、ヴィンドーに制止された。


(タダシ、深追いはするな。今は消耗した機体のエネルギーを回復するのが先だ。君自身も疲労している)

(だけど、ヴィンドー!)

(敵は奴だけではない。王の後継者は他にもいる。全員を一度に相手にする事はできない)

(……分かったよ)


 忠志は説得されて、気を落ち着ける。彼が大きく息を吐くと、同時に全身の力が抜けて眠気が襲って来た。


(やばい、眠い)

(大丈夫だ。後は私に任せてくれ)


 戦いで肉体も精神も疲労したのか、忠志は睡魔に抗えない。彼はヴィンドーに後を託して、意識を手放した。

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