巨大ロボット

 忠志と宗道は何をするでもなく、フラフラと海沿いを散歩する。その途中で忠志は思い付いて、宗道に言った。


「あっ、そうだ。ムネ、サッカーやる奴いないなら、オレが付き合おうか」

「気持ちは嬉しいけど、タダシ一人じゃ……」

「PKなら二人でもできるだろ。小学生の時よくやってたみたいにさ。今でも反射神経には自信あるんだ」

「そう……だな、ありがとう、タダシ」


 友情の深まりを噛み締める二人の背後から、一人の少女が声をかける。


「男二人で何やってんの!」


 そう言って彼女は忠志と宗道の背を軽く叩いた。

 髪をうなじの辺りで切り揃えた活動的な女子。彼女の名は「上木かみき新理しんり」、忠志・宗道と同じ高校に通う同級生で、二人とは小学校からの付き合いだ。


「何って、部活の話だよ」


 忠志が答えると、新理はつまらなそうに唇を尖らせる。


「えー、クソ真面目」


 その反応に忠志も宗道も小さく笑った。幼馴染が三人揃えば、何となく空気が楽しくなって笑みがこぼれる。十年以上、同じ時を過ごして来た仲間だから、一緒にいるだけで気持ちが軽くなる。

 ――その時だった。宗道がふと空を見上げて言う。


「何だ、あれ?」

「どうした、ムネ」

「ムネくん?」

「あれだよ、見えないか?」


 忠志と新理は宗道が指差した先を見る。遥か上空、宇宙船の船底に近い所に、二つの飛行物体がある。「働き蜂」とは明らかに違う、人型のシルエットをしただ。

 片方は白い無骨な西洋甲冑のようで、もう片方は全体的に赤く大きな翼を持っている。二体は空中で何度か交錯した後、取っ組み合いを始めた。


「戦っている……?」


 忠志が呟くと、宗道が同意する。


「そう……みたいだな」


 三人が見守っている中、やがて白い方が赤い方に突き飛ばされ、そのまま重力に引かれて加速しながら落下する。


「落ちてくる!」


 新理が叫んだ。白い人型の何かの影は、地上に近付いてどんどん大きくなる。人型ではあるが、人間ではない。明らかに大きい。巨大ロボットだ。

 だが、それは三人の方ではなく東京湾アクアラインの側に落ち、水柱を高く上げて海中に消えた。海面に波紋が広がるも、さほど高い波にはならず、すぐに海は落ち着きを取り戻す。


「何だったんだ……?」


 唖然とする忠志とは対照的に、宗道は興奮していた。


「あれはリラ星人と戦っていたんじゃないか」

「えっ」

「戦っていたって事は、そうなんじゃないのか? リラ星人の敵、リラ星人を倒そうとしていた!」


 そう言って宗道は川崎市方面に駆け出した。

 もう一体の赤い方は、白いロボットを墜落させた後、何もせずに去った――という事は、赤い方はリラ星人の仲間の可能性が高い。その証拠に宇宙船も「働き蜂」も何の反応も見せない。


「おい、ムネ!」

「あ、待ってよ!」


 忠志と新理は慌てて彼の後を追う。

 アクアラインに向かってひた走る宗道の心には、希望の炎が燃えていた。あれはリラ星人の野望を打ち砕き、地球を救うために現れたに違いないと。そう決め付けるのは早計だと理解はしていたが、故に確かめずにはいられなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る