再会 一
「オッサン! ど、どうしたんだ!? 変な顔してんじゃねぇよ!」
「お前は大丈夫か!? 身体でどこか痛むところとかっ!」
「ア、アタシかよ?」
そうだよ、ロリのステータスも確認しないと。
名前:ベス
性別:女
種族:人間
レベル:10
ジョブ:浮浪児
HP:110/352
MP:198/198
STR: 98
VIT: 89
DEX:230
AGI:516
INT:110
LUC: 19
種族が2.0にバージョンアップしたのは俺だけか。
しかもこっちは普通にレベルが上がってて羨ましい。
どうして自分だけニート64なんだ。
「たぶん、なんともなってないと思うけど……」
「おう、そ、そうっぽいな……」
自分の身体の具合を確認して答えるロリ。
ステータスに異常がなければ、外見にも取り立てて変化は見られない。若干、汗ばんで女の色香が漂っているくらいだ。イケメン騎士のお宅で風呂にでも入ったのか、ホームレス全開だった異臭もなくなって、汗の香りがいい感じ。
「オッサン、今度はすげぇ悲しそうな顔してるぞ」
「俺だけ次世代規格に嵌まっちまった感が、なんかすげぇ悲しい」
「……何の話だよ?」
取り急ぎ、スキルも確認しておくか。
パッシブ:
魔力効率 Lv10
魔力回復 Lv10
アクティブ:
すかしっぺ Lv10
死体操作 LvMax
死霊生成 Lv5
なんということだ、ワキガやアトピー、内臓疾患、虚弱体質といったパッシブスキルが、軒並み消失しているぞ。それ自体は良いことなのだけれど、まるで理屈がわからない。これもステータスの上昇と合わせて、オナホ石の効果なのだろうか。
いいや、ちょっと待て。
それはあれだ、前に受けたプシ子のヒール。
あの回復魔法が影響しているのではなかろうか。
思い起こせばあれ以来、身体の調子がすこぶるよろしい。
いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
むしろその下だ。アクティブスキル。
格好いい感じのワードが続いているじゃないの。
すかしっぺの下に二つばかり並んだクールな単語がマッハ気になる。間違いなくさっきのオナホ石が原因だろう。オナホ石を使ってステータスアップ、更に新作スキルをゲットしてしまった予感。
これが人間2.0のスキルか。
使い方はまったく分からないけどな。
すかしっぺと同列に並ぶということは、実行に際して条件やテクが必要なはずだ。失敗したら実が出る恐れありってことだろう。ただ、他に打てる手もない現状、多少のリスクはさておいて、すぐにでも試してみるべきじゃないか。
お誂え向き、武器屋の周りにはゾンビが大量発生している。
スキルを確認した後だと分かる。
獣耳オヤジのゾンビ化は恐らく、副次的な効果なのだろう。
「ロリロリ、ちょっと大人しくしてろよ。オッサン頑張ってみるから」
「だからロリって言うんじゃねぇよ! 今度は何する気だよっ!?」
荒ぶる元ヒロインの傍ら、店外に向き直る。
そして、ニートは新作スキルの発動を試みた。
「よ、よーしオマエら、命令だっ!」
武器屋の外でうーあーしているゾンビ獣耳オヤジたちに声を張り上げる。耳がなくなっちゃっているヤツとか普通にいるけれど、まあ、細かいことは気にしない。こういうのは本人の想いが大切だと思うんだわ。
どうか願いよ叶ってくれと祈りつつ、その想いを口にする。
「同族を片っ端から襲っていけっ! 獣の耳が生えてたり、尻尾が生えてるようなヤツらだ! ただし、ゾンビ同士の共食いは禁止な! 町のヤツらも勝手に喰うんじゃねーぞ! 町の建物とか、道路なんかを壊すのも禁止! 分かったなっ!?」
そもそも扱っている言語すら違っていた獣人たち。
これで本当に大丈夫なのだろうか。
ドキドキとしながら様子を伺う。
すると直後、ゾンビ獣耳オヤジが一斉に動き出した。
大きく口を開いて、その牙を見せつけるように同胞の下へと。
「2903jfさkljf32lkjふぁ」「sjぁkjfl23おうおれいうがsfg」「j32k4j2お3いjふぁdさf」「2l3kじぇr2l3jl」「sjflj390fg9d8が」「90sd98ふぁjlkjsふぁ:あ」
やがて始まったのは共食いフルコース。
ゾンビ獣耳オヤジたちが、獣耳オヤジに襲いかかった。
その動きには理性の欠片も感じられない。腹を空かせた肉食獣のようである。個々の動きは怪我の具合によって千差万別だ。足が速かったり遅かったり、地面を這いずるようにして進んで行くヤツもいる。
いずれにせよ、数の上では圧倒的なゾンビ獣耳オヤジたち。
こうなると戦況は一変、今度は獣耳オヤジたちが大慌てだ。
「おおっ、すげぇじゃんかオッサン!」
「いやまあ、それほどでもあるな」
想定通り、念じれば味方として使えるらしい。
しかも新しく生まれた死体は、次々とゾンビ化していく。腹を斧で破られた獣耳オヤジがまた一人、むくりと身体を起こす。そして、今まで肩を並べて戦っていた別のヤツに向かい襲い掛かって行く。
なんて素晴らしい。
今のニートとロリにとって、これほど便利なスキルは他にない。
「とりあえず、当面の難所は越えた感じがあるな」
「オッサン、今のは何だったんだ?」
恐らくゾンビ獣耳オヤジたちを動かしているのは、死体操作なるスキルだろう。そう考えるともう一つ増えた死霊生成なるスキルで、死体からゾンビを生み出すことも可能なような気がしないでもない。
「一回限りのお助けアイテムってところだろ」
「なんだよそれ……」
少し想定とは違うけれど、結果は申し分ない。たった二人での逃避行が、ゾンビ獣耳オヤジ連合をお迎えして、なんと中隊規模である。この調子で仲間を増やしていけば、真正面から町を脱することも不可能ではないぞ。
「しかし、こうしてみるとエグいよな。気持ち悪くなってくる……」
「戦争なんてこんなもんだろ」
「オッサンは経験あるのかよ?」
「ふっ、これでも幾千という紛争地帯を駆け抜けてきた母国でも指折りのプレイヤーだ。このくらいの乱戦、乱戦の内には入らないな。ネカフェの低スペックマシンで全米ランキング上位とやり合った時に比べれば、屁みたいなもんだぜ」
「そ、そうだったのか!?」
獣耳オヤジとゾンビ獣耳オヤジの壮絶な争い。
それをニートとロリとは高みの見物。
つい数分前までは味方であった連中に襲われて、先方は戸惑いも大きかったことだろう。数の上でも後者が圧倒的であるから、もはや挽回は不可能である。敵勢は瞬く間に追い詰められていった。
そして、倒された獣耳オヤジは即座にゾンビ獣耳オヤジとして蘇る。ゾンビ化すれば戦意もへったくれもない。どのような個体もニートの思うがまま、手当たり次第に共和国の兵と思しき連中に襲いかかっていく。
延々と増え続ける無敵の軍団がいっちょ上がりだ。
バトルフィールドのゾンビ率は瞬く間に上昇。僅か数分と経たぬ間に、残っていた獣耳オヤジは全員、ゾンビ獣耳オヤジに変化した。最後の一人がゾンビ化すると同時に、武器屋の店先はこれまでの喧噪が嘘のように静かになった。
ゾンビ同士が争うことはない。
耳に届くのは、うーあー、うーあー、ヤバそうな呻き声。
ニートの命令を忠実に守っているぞ。
「いよぉしっ! このまま町を脱出するぞ」
「お、おうっ!」
活路は開けた。後は突っ走るのみである。
ゾンビ軍団大勝利。
このまま仲間を増やして何とかタウンにサヨナラバイバイだ。
そんなふうに考えていた時期が私にもありました。
イキって一歩を踏み出した直後、不意に行く先へと現れた人影。
なんつーかこう、ブォンって感じで魔法陣と共に現れた。
要はプシ子の空間魔法と同じだ。
「何事かと思えば、貴様か。また妙な魔力を放出しおって」
「おいおい、マジかよ……」
向かう先、数メートルの地点。
ヤツだ。ダンジョンマイスターだ。
全身ローブの干涸らびた陰険野郎が現れた。
「この騒動も貴様が原因か?」
「ち、ちげぇよっ!」
ねぐらの外が騒がしくなったもんで、ちょいと様子を見に来たのだろう。まさかこの化け物が町に喧嘩を売るとは思えない。だって、町の中心でダンジョンを経営しているんだから。コイツもある意味、町の住民なのである。
「ならば何が起こった?」
「戦争だよ! 隣の国の獣耳軍団が攻めて来やがった」
「……なるほど、そういうことか」
俺、コイツのこと嫌いなんだよな。
一緒にいてハラハラドキドキが止まらない。
以前はドラゴン氏が一緒だったから無事に済んだけど、今回はどうなるか分かったもんじゃない。ステータスがぶっちぎりでヤバイもの。ニート64なんかが手の出る相手じゃない。きっとプシ子だって負けるだろ。
「オッサンの知り合いかよ? な、なんか凄い干涸らびてるけど……」
「嫁の父親だから、ほら、あれだ、お義父様ってやつだな」
「えっ……オ、オッサン、結婚してたのかっ!?」
元ヒロインが随分と驚いた面持ちで訪ねてくれる。
そんなに驚くことかよ。俺だっていい年した大人だぞ、ちくしょう。オタクくらいの娘がいたって不思議じゃないんだ。いいや、本来であれば一人くらい設けていて然るべきだとは思いませんか。
まあいい、今はロリより目の前のラスボス攻略が優先だ。
元ヒロインからお義父さんに向き直って言葉を続ける。
「そういう訳だから、ほら、アンタも用が済んだなら家に帰れよ」
「ところで貴様、マリオネットはどうした? 隣のは違うだろう」
隣のとは元ヒロインを指してのことだろう。
たしかに違う。
髪の色からして全然違うもの。
「……に、逃げられた」
「逃げられた?」
「愛想尽かして、実家に帰らせて頂きますわ! って具合だよ」
「マリオネットが主人に歯向かった、ということか?」
「歯向かうとか日常茶飯事だろ。どれだけ殴られたか分からないわ。そもそもマリオネットって言うくらいなら、もう少し何とかならなかったのかよ? お淑やかっていうか、従順っていうか」
「ほぅ、また面白いことを言う」
「な、なんだよ……」
「マリオネットは主人に絶対服従だ。自身の身に何が起ころうとも、たとえ自らが危険な目に遭おうとも、決して主人に歯向かうことはない。私が作成したとなれば尚更だ。それが殴られただなどと、下らない冗談だろう」
「だったらアイツはどうなってんだよ?」
「…………」
ニートが訪ねると、陰険ローブは何やら考えるように黙る。
バグってるんじゃないのか? ステータスウィンドウと一緒だ。製作者の性根の悪さが創造物にまで反映されているんだろう。そもそも作り上げた後に、試験を通さずお客様にご提供とはどういう了見だ。
とかなんとかニートがあれこれ考えていると、不意に相手が動いた。
ズイッと一歩、こちらに向けて足を踏み出してのこと。
「本日、彼の者は共にいないのか?」
「彼の者? そりゃ誰のことですかね」
「貴様の知り合いのことだ」
「……あぁ、ドラゴン氏か」
今頃は自分の巣で園芸に精を出していることだろう。
最初に出会ったバハムートスタイルだと、正直、庭いじりをする光景が想像できない。しかし、前に夜の森で見た金髪ロリスタイルであれば、なんと素晴らしい情景か。妄想して心の温かくなるのを感じる。
植物を慈しみ育てる金髪ロリータの図、尊い。
「ここ数日は会ってないけど、それがどうしたんだよ?」
「なるほど、ならば都合がいい」
「はぁ?」
「あれは貴様にくれてやるには過ぎた代物だ。ここで返してもらおう」
「お、おいっ、それってっ……」
「なぁに、呼べば来る。間違いなく」
嫌な予感がヒシヒシと感じられた。
それは次の瞬間、間髪を容れずに現実となる。
「死ね」
手にした杖を構えて、お義父さんは厳かにも言い放った。
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