逃避行 三
イケメン騎士と別れてからしばらく、隣を歩むロリにニートは尋ねた。
「なあ、あれでよかったのか?」
「はぁ? そんなの当然だろ? 誰があんなヤツに守ってもらうかよ。自分の身くらい自分で守るってーの。アタシは誰の世話になるつもりもねぇ。それはもちろん、オッサン、アンタにもだ」
「強いロリは大好きだぞ」
「だ、だから、人のことロリとか言うんじゃねぇよっ!」
現在はこれといって目的もなく、町を彷徨っている。
だって味方が五万に対して、敵国は十数万なる規模とのこと。こうなると町からの脱出も難しそうだ。絶対に周りを囲まれてるでしょ。まさか個人で挽回できるとは思えなくて、他にやることもなく町をフラフラとしている。
もし仮に逃げ出すという選択を取るにしても、それこそ数百から数千という手合いに対して、攻勢からの一点突破を目指すことになるんじゃないですかね。当然ながら協力者など得られるはずもなく、我々の戦力はニートとロリの二人きり。
おかげで完全に詰んでいる。
「これは本格的に困ったな……」
「十数万とか、この町の周りを囲めちゃうんじゃないか?」
「あぁ、俺もそんな気がする」
現にそうなってしまっている予感がひしひしと。
ロリが不安がるだろうから、断言はしないけどさ。
「せめてプシ子さえいれ……」
おおっと、これは良くない、良くないぞ。
プシ子はもう既にいないのだから。
俺は自身の力でヤツの下へ行くと決めたのだから。
「なんだよ?」
「いいや、なんでもない。気のせいだ。気のせい」
ニート舐めるんじゃねぇぞ。くっそ。
絶対に死んでやらねぇ。
親が死ぬまで俺は意地でも死なねぇぞ。
それに嫌なニュースばかりではない。
キーワードは手に入れた。
廃課金。
レアアイテムさえ手に入れば、俺たちにだって未来はある。ネトゲだってソシャゲだって、金があるヤツが強かった。金があるヤツが楽しんでいた。無課金厨は掲示板で虚しく荒ぶっていた。
そして、ニートはキーアイテムを知っている。知っているぞ。
「しまった。あの棒、ダンジョンの宿屋に放置だよ……」
「オッサン? どうしたんだ?」
凄く取りに戻りたい。
けれど、既に方向感覚など喪失している。
宿屋に通じる魔法のドアまで戻れる気がしない。
「仕方ない、こうなったら新しいレアアイテムを探しに行くぞ」
「はぁ?」
一個あったのなら、もう一個くらいある筈だ。
攻撃力1000000くらいのマップ兵器的な剣を手に入れれば、きっと脱出できるだろ。振り回して衝撃波みたいなのが出れば尚良し。ついでに防御力10000000くらいの鎧も欲しいよな。隣のロリが紙装甲だから。
「よし、行くぞっ!」
「い、行くってどこへだよ?」
「宝探しだ!」
「はぁ?」
ニートは決意も新たに自らの足で一歩を踏み出す。
いざ、宝探しの時間だ。
◇ ◆ ◇
レアアイテムというのは、手に入りにくいからレアアイテムなのだ。
あちらこちらを探し回って、けれど一向に出会えない。
しかも町中では、兵隊さんや冒険者連中の頑張りが足りないせいで、敵とのエンカウント率が急上昇である。そこかしこに獣耳オヤジの姿が窺える。民家に火を付けていたり、女を犯したりしていた。そりゃもうやりたい放題だ。
ということで、ニートとロリは町の通りを絶賛マラソン中。
「ヤバい! ヤバいヤバいっ!」
「おいオッサン! これで何度目だよっ!?」
「し、仕方ないだろ? そこに落ちてた剣がレアっぽかったんだから」
名前:騎士の剣
耐久力:109
希少性:500
属性:なし
状態:刃こぼれ
これで何度目のゴミ鑑定だろう。数えるのも億劫だ。
「喰らえっ!」
拾ったばかりの剣を後ろへ向けて投げつけた。
それは自身が想像した以上の勢いを伴い飛んで行き、見事に追っ手の腹に命中した。グサっと刺さって、俺たちを追い掛けていた獣耳オヤジ死亡のお知らせ。その場に倒れてピクリとも動かなくなる。
他人を害することには、もはや罪悪感もゼロだ。
むしろ殺られる前に殺れの精神。
端的に言うと、FPSをプレイしているときのメンタル状況。
「よっしゃあ、一発で仕留めてやったぜっ」
「ハァ、ハァ、ハァ……」
町の中心部を囲っているという第三壁も決壊が近そうだ。
そこかしこに獣耳オヤジが見受けられる。
元ヒロインも呼吸を荒くしているし、かなりピンチ。
「お、おい、大丈夫か? 少し休むか?」
「う、うっせ! これくらい、ぜんぜん大したことねぇよ!」
「気合いの入ったロリだな……」
「だからロリって言うんじゃねぇ!」
早くレアアイテムを見つけないとヤバイ。
周囲の建物はまだ形を保っている。侵入してきた獣耳オヤジ族も、内側で粘る町の人間と比べれば、依然として数は少なく映る。拮抗はギリギリ、危ういながらも町の防衛が優先で保たれている。
しかし、敵国兵との遭遇率は確実に上昇してきているぞ。
どうやらイケメン騎士の言っていたことは正しかったようだ。
「おっ! いいもん見つけた!」
「次はなんだよぉっ!」
悲鳴じみた叫びを上げながら、それでもニートに付いてきてくれる元ヒロインは、まったく、良くできたロリじゃないか。心が温かくなるな。こうなると最後まで面倒見なきゃって気分になる。
「おい、あれ、あれ見て見ろよっ!」
我々の駆ける先、武器屋っぽい店を発見である。
交差した剣が看板している。間違いない。
「わ、分かったからっ、はっ、はっ、はぁっ」
ロリのハァハァする呼吸音に興奮しながら、一路、進路を武器屋へ。
入店。カランコロン。いらっしゃませ。
店内には人の姿が見られない。
しかもまるで強盗にでもあったかのように、店内は荒らされていた。商品がそこかしこに落っこちていたり、無くなっていたり、それはもう酷い有様だ。十中八九、火事場泥棒に遭ったのだろう。
この様子だと碌なもんが残ってなさそうだ。
しかし、決してゼロではない。
頼りなさそうな短刀だとか、見るからに扱いにくそうな大剣だとか、少なからず残ってるものもある。こうなれば片っ端から鑑定してゆくしかあるまい。残り物には福がある、とは良く言った言葉である。
こちらのニートもそういう展開が大好きだよ。
「ちょっと休んでろよ。使えそうなもん探してくる」
「あ、おいっ!」
ロリに断りを入れて物色開始。
なんか出ろ! なんか出ろっ!
名前:投げナイフ
耐久力:160
希少性:100
属性:なし
状態:良好
名前:グレートアックス
耐久力:1000
希少性:300
属性:なし
状態:ちょっと微妙
名前:ドラゴンスレイヤー(レプリカ)
耐久力:1000
希少性:200
属性:なし
状態:本物買えよ
くっそ、碌なもんがねぇよ!
この武器屋を訪れる以前も含めて、かれこれ二桁を超えるアイテムを鑑定している。だというのに一度として、レアは見つけられない。これに比べればソシャゲのガチャなんて、まだまだ可愛いもんだろう。
「本気で焦ってきた。どうするよ、おい、どうするよっ……」
今は自分一人じゃない。ロリも一緒なんだ。
ニートが失敗したら、ロリもヤバいんだ。
くっそ。
目の前で元ヒロインの寝取られ陵辱とか、凄い興奮する。めちゃくちゃ見たい。三桁くらい生中出しされて、孕みから出産へのコンボを早送りで見たい。最高画質で録画したい。
だがしかし、収まれ煩悩。
そっちも大切だが、今はそれよりもう少し大切なものがある。
おぉ、股間が苦しいな。
「なんかねぇのかよっ! なんかっ!」
溢れ出す性欲を諫めるように、武器屋の中を歩み回る。
すると、不意に足下でカツンと音が鳴った。
なにか蹴飛ばしたようだ。
見れば床の上をコロコロと転がる、中型オナホくらいの大きさの何か。
「なんだよこれ」
ズッシリと重い宝石みたいな。
中身の詰まったグラスみたいな。
なんつーの、ほら、あれよ。
名前:死霊の杖(頭部)
耐久力:9000
希少性:213030
属性:闇
状態:破損(現:死霊の宝玉)
「レアきたぁああああっ!」
「な、なんだよっ!?」
そう、これだよ! これだよこれっ!
ニートが必死になって探していたのはっ!
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