奴隷 二
オークション会場は屋外に設営されたテントだ。張られてからそれなりの期間が経っているようで、パッと見た限りでも年季を感じる。地理的にも奴隷市場の中心に位置しており、界隈の中心と思しき施設に思われた。
一歩を踏み込めば、商いに興じる者たちの賑やかな声が聞こえてくる。
「こっちは五万だ!」
「ならば六万!」
「えぇい! 十万! 十万だっ!」
オークション会場は白熱していた。
競り落とされるのは七割から八割が女だ。まず間違いなく性奴隷と思しき美女や美少女たちである。脂ぎった野郎どもが必死の形相に声を上げている。どいつもこいつも身なりがいい。金持ちなのは間違いないだろう。
一方で男は千差万別。夜のお供用途を思わせるイケメンから、労働用と思しきスーパーマッチョまで様々だ。声を上げているのは女が九割を占める。こちらの世界は女性も率先して性奴隷を買い漁る文化があるみたいだ。
素晴らしいことだと思う。これぞ男女平等。
「ここは天国だ……」
「地獄と天国は同居できるようですね」
「行くぞプシ子、入札だ! 早く性奴隷をゲットしないと」
参加者の注目を集めているのは、テントの中央に設けられた舞台。
サーカスのステージを思わせる壇上、奴隷の競りは行われている。その様子は見ているだけで興奮する。元いた世界ではごく限られた人々、世界の特権階級しか触れることができなかった光景である。
「よし、金髪ロリだ。次に金髪ロリが出たら入札するぞ」
「阿呆な主人が入札などという単語を知っているとは驚きです」
「いいから、手を上げるぞ! 上げて上げて上げまくる!」
「お金はどうするんですか?」
「成金スライムの売上金があるだろ?」
「持ってきていませんが?」
「お前が取ってくればいいだろ? 空間魔法とやらで一発だ」
「性根が腐っていますね」
「いいからほら、ちゃんと頼んだぞ」
「まったくもって不本意です。プッシー三号は細マッチョがいいです」
「男なんて買ったら即日で殺す。イケメンなんて拷問して死なす」
イケメンの奴隷が三号の足元に侍っているなど、考えただけでもハラワタが煮えくりかえる思いだ。とても平静ではいられない。姑が嫁をいびる理由、理解してしまったよ。お義母さんと同居なんて絶対に無理です。
「さぁ、次は目玉商品となります!」
壇上に立った司会進行と思しき男が声を上げる。
目玉商品きた。目玉商品きたよ。
「なんとまさか、タョシ族の出品です!」
司会の男がお客を煽るように、声も大きく語ってみせる。
舞台脇から首輪の繋がれたロリが入場。
途端に会場からは喝采が挙がった。うぉおおおおおおお、って感じだ。まるで声優のイベントでも眺めているようじゃないの。たしかに見た目は美少女。何も知らないニートまでテンション上がってしまう。
華奢だし、首輪だし、金髪ロングだし。
しかも頭に獣耳が生えてるし。
こんなのもう、堪らねぇよ。
くっそ、くっそ、全財産を賭けてでも競り落とすしかない。
「プシ子、こいつに全力だ! 絶対に手に入れるぞ」
「いいのですか?」
「いいに決まってるだろ! お前は馬鹿か!?」
ニートが三号と作戦会議をしている間にも、競売は進められていく。
競りが始まるや否や、随所から声が上がり始めた。
「十万!」
「二十万!」
「こっちは三十万だ!」
凄い勢いで商品の価格が上昇していく。
どいつもこいつも金髪ロリに目がないようだな。
俺も大好きだよ。
「それならこっちは百万だ! 百万!」
手を上げて大声で言ってやった。
自ずと周囲から視線が集まる。
誰もが驚いた面持ちでこちらを見ている。
なんていい気分だろう。今ならソーシャルメディアで預金残高を晒している成金たちの気持ちが分かる。大した苦労もなく手にした大金を他者に自慢するのは、こんなにも気持ちがいいことなのか。
「ならばこちらは二百万だ!」
おっと、ライバルが出現である。
いきなり二倍とかマジかよ。
「それなら三百だ! 三百!」
念願の金髪ロリ、まさか逃してなるものか。
ニートは即座に反撃だ。
プシ子もロリだが、ヤツはサディスティックロリータだ。軟弱なニートとは相性が良くない。俺が欲しいのはご主人様に従順で、エッチなことにも興味津々なロリータなのだ。つまり性奴隷なのである。
「どうだ? 三百、三百だぞ?」
せっかくなので、ライバルを挑発してやる。
どうだ? どうなんだ?
お前のロリコンパワーはそんなものなのか?
「くっ……」
二百万だと吠えた男の顔が、苦渋の色に染まる。
負けねぇ、負けねぇよ。ロリコンは。
成金スライムでゲットした金貨は千枚以上。一枚あたり一万の価値があるため、幾らでも値をつり上げられる。ニートの脳内ではひと足お先に、タョシ族とやらと合体している自らの姿が展開されているぞ。
三号に見せつけながら楽しんでやるのだ。
「さ、三百十万!」
「四百万!」
「なっ……」
上限を知らないこちらの掛け声に競り相手は絶句。
これは勝ったな。
「おいおい、どうした? これで終わりなのか?」
煽るような笑顔を浮かべて、競り相手に言ってやる。
現在のニートは性奴隷のお迎えを目前に控えて無敵モードだ。どんな強面がライバルだって怖くない。いくら脅されたって、このロリは決して譲れない。絶対にダンジョンの六十階までお持ち帰りする。
「……くっ」
しばらくして相手が折れた。
続く声はない。
そう、ニートの勝ちだ。
四百万の勝ちだ。
「っしゃあっ!」
その瞬間、思わずガッツポーズ。
性奴隷、ゲットだぜ。
「四百万、四百万での落札です。ありがとうございまぁす!」
司会の男から一際大きな声で謝礼が伝えられる。
こうしてニートのオークションデビューは終えられた。
金持ちがオークションを趣味にする理由、なんとなく分かった気がする。
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