奴隷 一
プシ子の魔法でダンジョンから町に移り、コックと別れた。
しばらくしたら同じ場所で落ち合う予定だ。
ということで、少しばかり地上で暇を潰す羽目になったニートである。特にやることなんてないんだけれど、せっかく暗い穴の奥底から這い出てきたのだ。何かしら地上でしかできないことをしたいものである。。
「どうしたのですか? 間抜けな顔をして」
「この顔の美しさに気づけないとは、間抜けなマリオネットだ」
「同じセリフを大声で叫んだのなら、私は前言を撤回します」
「ぐっ……」
どうしよう、叫んでみようかな。世間体なんてあってないようなもんだし。
今だったら叫んでみてもいいかも知れない。むしろ叫ぶべきだ。
叫べる。俺ならばどこまでも、力強く叫び続けることが可能だ。
「こんのぉぉぉおおおおおおおお! 顔の美しさに気づけないとはぁぁぁああああ! なぁぁぁぁあんてぇぇぇぇぇ、間抜けなぁぁぁぁぁ、マリオネットだぁあああああああああああ!」
行き交う人々が、白い目で俺を見ている。
あぁ、気持ちがいい。
持っているものを捨てるって、人としての尊厳を捨てるって、こんなにも気持ちいいものだったんだな。調教系のエロ漫画で変態露出の末に、アヘ顔ダブルピースをキメるヒロインの気持ちが今なら分かる。
「気持ち悪いので近づかないで下さい」
「お前の提案だろうが。ほらほら、さっさと前言を撤回しろよ」
「私が前言を撤回しても、主人の被る社会的汚評は変化しませんよ」
「んなもんどうだっていいんだよ」
「清々しいまでの阿呆ですね」
「失うものがないヤツは強いんだよ。なんだってできる」
そうして賑やかにも語らい合いながら、町の大通りを歩む。
すると数分ほど進んだあたりで、急にイベントが発生した。
「退けぇ! 馬車が通れんぞぉ!? 場所を空けるんだぁっ!」
なにやら五月蠅いのが近づいてくる。
声の聞こえてきた方に意識を向けると、自己申告通り馬車だった。ただ、本来馬が収まるべきところにいるのは、馬らしからぬ生き物。カバと豚を二で割って頭に猫耳を付けたような、妙な四つ足の動物である。
「なんだありゃ」
「奴隷の運搬じゃないですか?」
「ほぅ」
「おおかた他の国との戦争か、国内の少数部族との小競り合いでもあって、この町の大将が自分の取り分を持ち帰って来たのでしょう。そこいらの奴隷商人が扱うにしては、些か規模が大きいです」
「なるほどなるほど」
奴隷らしい。
たしかに馬車もどきの荷台は牢に加工されており、内側には老若男女、人間から人間じゃないのまで、実に様々な生き物が押し込められていた。姿は見窄らしい。かれこれ数日同じ服を着続けている俺の方が、まだ綺麗だと思えるくらいに汚い。
そして、どいつもこいつも絶望の面持ちを晒しているぞ。
「奴隷とか最高だな」
「そうですか?」
「性奴隷とか夢が広がる。是非とも一人、いいや十人くらい欲しい」
「相変わらずの腐った思考ですね」
「俺は自分に素直なんだよ。自らの本心を偽りながら、それでも欲求を満たそうとして、表ばかり綺麗に取り繕っている連中と一緒にしないでもらいたい。性奴隷でハーレム、人生のゴールと称しても過言ではないな」
「覆い隠された本音を比較しても、尚のこと汚らしいと言ったのです」
「俺の生まれ故郷じゃあ、そういった価値観が主流だったが?」
「なるほど、どおりでクソみたいな人格の主人が育まれたわけですね」
コイツ、信じてないな。
いつか性奴隷でハーレムするラノベや漫画を見せつけてやりたい。面前に二桁も並べたのなら、きっと納得してくれることだろう。その上でプシ子がどういった反応をするか、とても気になる。
「どう考えても欲しいな、性奴隷。二十人くらい」
「さっきより増えてませんか?」
「どれだけ居ても困らないだろ」
「探せばいるでしょうが、可愛い娘はそれなりに高いそうですよ」
「成金スライムを売った金があるだろう?」
「そういえばありましたね。使い道がなかったので忘れていました」
「理解したなら話は早い。性奴隷を探しにいくぞ、プシ子」
「了解です、素人童貞」
◇ ◆ ◇
町行く人々に尋ねまくった。可愛い女の子を扱う奴隷市場はありませんか。可愛い女の子を購入できる奴隷市場はありませんか。我々はどうしても可愛い女の子を性奴隷としてお迎えしたいのです。
すると一人から有力な情報をゲット。
なんでも採れたてホヤホヤの奴隷は、町の大きな奴隷市場に運ばれて、そこで競売に掛けられるらしい。要は不動産取引におけるレイ●ズみたいなものだろう。主立った参加者は奴隷商や貴族だが、基本的に誰でも参加することは可能とのこと。
また、同所では競売以外でも、随時奴隷の販売が行われているらしい。
そんな素敵な市場が存在しているとあらば、足を運ばない訳にはいかない。
ということで、やってきました奴隷市場。
美少女に限らず様々な奴隷を扱ってる。男も女もそれ以外も。
「おぉ、スゲェ、奴隷だ奴隷。普通に売ってるぞ」
「戦力という意味では、そこのイケメン細マッチョをオススメします。股間の膨らみを鑑みるに、なかなか具合の良さそうなものを持っていそうです。犯してよし、仕事をさせてよし、何にでも使えますね」
「却下だ。イケメンとかあり得ない。買ったら即日で屠る自信あるわ」
ふざけたことを抜かすマリオネットだ。
そんなことをしてみろ、ニートの嫉妬が燃え上がっても知らないぞ。
「ということで、当初の目的通り性奴隷を見に行くぞ」
「主人が買うのであれば、私にも二人は欲しいところです」
「ロリだったら買ってやる。ロリだったら」
「ロリよりイケメン細マッチョが良いです。同性と不細工は嫌です」
「却下だ!」
奴隷マイスターで溢れる奴隷市場を三号と共に歩む。
一口に奴隷と言っても色々だ。
男がいれば女もいる。若いのも年寄りも。更には頭に獣っぽい耳が生えたのから、背中に羽が生えたのまで。よりどりみどり、選びたい放題。完全に人から逸脱したフォルムの生き物も多数見受けられる。
「あちらで競売が開かれるようですね」
プシ子の指し示す先には大型のテントがあった。
奴隷の競売とか控えめに言って最高。とても興奮する。人間をモノのように売り買いするの、とても素敵だと思います。俺も生まれ変わったら奴隷商人になって、他人の人生を金勘定の上で左右してみたいものだ。
「ほほぅ」
「その目はなんですか? 気色悪いです」
「行くぞ、プシ子。性奴隷が我々を待っている」
「お金の無駄です。そこの露天でイケメン細マッチョを買いましょう」
「いいから行くんだよ! 競売! 競売じゃなきゃいやなの!」
細マッチョの股間を物欲しそうに眺める三号の腕を掴む。
そのまま無理矢理引っ張って、競売会場に足を向ける。
持ち金をすべて使ってでも、性奴隷をゲットしてやるぞ。
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