金策
さて、ニートと三号の宿探し飯探し大冒険も、そろそろ佳境だ。
何故かと言えば、三号が無駄に優秀だったからだ。金を稼ぐにはどうすればいいか訪ねたところ、問答無用でダンジョンに拉致られた。俺は行きたくないと言うのに、無理矢理、腕を掴んで引っ張って行かれた。マジ怪力だわコイツ。
そして、ズンドコと階段を下りまくり。
おいこら止めろと叫んでも、俺の言うことなんか聞きやしない。
あっという間に地下五十五階まで到達だ。
この間、僅か二、三時間の出来事である。途中で出て来たモンスターは全部、三号がやっつけた。炎を出したり、吹雪を出したり、電撃を出したり、そういう感じの魔法でやっつけた。俺は見てるだけ。
「この辺りにゴールデンスライムが出現します」
「なんだその成金属性なスライムは」
「狩って持ち帰れば、当面の生活費に苦労することはありません」
「マジか。スゲェじゃん、ゴールデンスライム!」
なるほどなるほど、やっと見えたぜ。
俺TUEEEは俺TUEEEでも、内政系の俺TUEEEだったんだよ、こちらのニートの場合は。ゴールデンスライムでゲットした金銭を元手に貴族とか、そういう感じのを目指して、ゆくゆくは立国しちゃう系なんだよ。
たしかにそっちの方がハーレムも作りやすいし、いい感じじゃん。金で囲った女をはべらせるとかマジで最高だわ。金にしか目がない卑しい女の頬を、札束でビタンビタンと叩きながらのセックスとか、絶対に一度はしてみてぇよ。
「んじゃ、ちゃっちゃと狩って帰ろうぜ。ここは陰険で嫌なんだよ」
「分かりました。捜索を始めましょう」
三号を先頭に歩く。
ダンジョンを歩く。
前に経験した二十五階と比べて、風景は更にヤバ度が高い。なんか溶岩っぽいのが流れてたり、モンスターの死骸が転がってたり、ギチギチギチ、ギーチョギーチョ、妙な鳴き声が聞こえてきたりと、普通にお化け屋敷だわ。
「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」
「チキンな素人童貞野郎は、私の後ろに隠れてビクビクしていて下さい」
「背中にビクビク射精するぞこの野郎」
「置いて帰っても良いですか?」
「いや、マジごめんなさい」
途中、五十階くらいのモンスターのステータスを確認したんだよ。そしたらどいつもこいつも、前に遭遇した牛野郎と同じくらい強いでやんの。ニート64が一人だったら、三秒で死ぬわ、三秒で。
「見つけました」
「マジか」
「静かにしていて下さい。逃げ足が速いのです」
「お、おうよ」
三号が見つめる先、通路の曲がり角に金色の光沢を発見だ。
確かにゴールデン。一階で若者に虐められていたスライムをそのままゴールデンにした感じだ。金属っぽい質感の癖して、ヌメヌメと動いてやがる。マジきめぇ。水銀にゼラチン混ぜて固めたら、こんな感じになるだろうか。
「対象の核を破壊します」
えいやっと三号が腕を振るう。
真空波っぽいのが飛んで、成金スライムを切断した。
一緒に人間っぽいのも切断した。
「あ……」
思わず声が出ちまったよ。
三号の魔法が飛んだ先、ちょうど上手い具合に曲がり角から姿を現した人がいたのだ。その首が成金スライムと一緒に、スパッとちょん切られてやんの。ぶっしゃーと吹き出した血で、せっかくのゴールデンも真っ赤だ。
「おいちょっと、お前ってばなにやってんだよ」
「急に人が飛び出してきたのです。運のないことですね」
ゴロゴロと転がる生首は、兜をかぶった二十代イケメン。
恐らくは切られたヤツも俺たちと同様に、成金スライムを狙っていたのだろう。ドシャリと倒れた身体は両手に剣を振りかぶっていた。あと少し遅かったら死なずに済んだものを、不運なヤツだぜ。
平然と受け答えしている三号は、やっぱりサドだな。
「何者だ!?」「敵かっ!?」「今のはなんだ! 魔法か!?」「下がれ! その角の向こう側にいるぞっ!」「引け! 引くんだっ!」「対魔法障壁を張れ! 三重、いいや四重だっ!」
男が倒れた途端、曲がり角の向こう側が騒がしくなった。
どうやらパーティーを組んでダンジョン攻略とかしちゃってるらしい。
なんだよ、リア充軍団かよ。
「ったく、お前ってば面倒なことしてくれるよなぁ……」
「急に飛び出してきた人間が悪いのです。私は悪くありません」
プイとそっぽを向いてしまう三号。
まるで悪びれた様子がない。肝っ玉のデカイ女だぜ。
「どーすんだよ? 俺ら殺人犯じゃんかよ」
「全員殺します。ダンジョン内であれば問題ありません」
「マジかー」
いやまあ、それが一番いいんだよな。ニートもそんな気がするわ。
船の上では船長が法律なんだぜ? グヘヘヘ、っていうのと同じノリだわな。一度でいいから自分も同じそういう立場になって、世界一周船の旅とかやってみたいわ。絶対に世の金持ちはやってるよな。間違いない。
「では行ってきます」
「俺は何も見てないし聞いてない。勝手に人形が暴れてるだけ。何も関係ない」
「プッシー三号に丸投げとは、人間のクズですね」
「そもそもの原因はお前だろが。行くならさっさと行ってこいよな」
ニートの見つめる先で、角から首チョンパの仲間が姿を現した。
厳つい鎧姿のイケメンやイケウーメンの団体だ。
豪華な装備からは、俺ら私らレベル高いですよオーラがビンビンと出ている。
「三号、ちょっと待ったっ!」
「グェッ」
走り出さんとしたゴスロリの襟首を咄嗟に引っ掴む。
直後にいい感じの悲鳴が聞こえた。
やっぱりロリはこうじゃなきゃな。
「ちょっと待てよ。やっぱ止め、やっぱ止めなっ」
「いきなり襟を掴まないで下さい。苦しいじゃないですか」
三号に頬を殴られた。また、歯が一本抜けた。
ちょっとちょっと、俺のステータス大丈夫かよ。
名前:ワタナベ
性別:男
種族:人間
レベル:1
ジョブ:ニート64
HP:1891/5900
MP:0
STR:2400
VIT:3200
DEX:4920
AGI: 900
INT: 310
LUC: 540
うわ、結構減ってるじゃないの。マジやべぇよ、三号のパンチ。
いやいや、今はそれどころじゃなくてだな。
「あの人は殺しちゃ駄目だ。俺の命の恩人だからな」
「あの人とは?」
三号の視線が俺から離れて、通路の先に向かう。
どうして三号を止めたかといえば、リア充軍団の中に見知った顔を見つけたからである。昨日、ミノルに殺されかけていた俺を救ってくれたGカップだ。金属製の鎧に身を包んだフルプレートGカップだ。
「むっ、お前は昨日のっ……」
相手も俺の姿に気付いたらしい。
緊張した面持ちでこちらを見つめていた。
「いやいや、お姉さんお久しぶりッスね」
俺は笑顔で手を振る。人間、笑顔が大切だ。笑顔で乗り切れ。
どんだけキモくても、笑顔は笑顔だ。
「これはどういうことだ?」
対してGカップの表情は険しい。今すぐにでも斬りかかってきそうだ。彼女の後ろでは仲間だろうイケメン、イケウーメンが剣やら杖やらを構えて臨戦態勢。なんつーか、あれだ。俺らが悪者に決まってしまったかのようなシーンだ。
「あーいや、それがほら、あれッスよ。そこでキラキラ光ってるモンスター、いるじゃないッスか。それをうちの子が魔法でズバッとやろうとしたところ、ちょうどその、そっちのお仲間が顔を覗かせたみたいでして……」
「……なるほど」
俺の説明を受けて、今度は渋い顔となるGカップ。
どうやら状況については納得して頂けたようだ。
「では質問を変えよう。何故お前はこの場にいる? もう二度とダンジョンに潜らないのではなかったのか? そして、お前の隣にいる女は何者だ? 以前には見なかった顔のように思えるが」
「お姉さんと分かれてから一晩の間に、こっちも色々とあったんスよ。あと、コイツは自分の妹で、ナターシャっつーんですよ。どうです? 俺に似ずに育ったもんで、なかなか可愛いもんでしょう?」
「たしかに可愛らしいな。だが、そんな子供がどうしてダンジョンにいる?」
「それはなんというか、妹はいわゆるダンジョン狂いでして、時間があればダンジョンに籠もっているようなヤツなんですよ。今回は俺もコイツの探索に巻き込まれてですね……ほら、お前も自己紹介しろよ」
三号の背中を軽く押して、一歩前に踏み出させる。
「どうも、妹のプッシー三号です。プッシー三号と呼んで下さい」
「は?」
三号の自己紹介を受けて、ポカンとした顔になるGカップ。
後ろに並んだお仲間も似たような感じ。
「あぁああ、もう、お前なにいきなり本名いってんだよ。お前の名前はナターシャ! ちょっとは空気読めよ! プッシー三号ってなんだよ?」
「まさか主人から付けられた名前を取り違えるなど、マリオネットには決して許されません。私は死ぬまで永遠に自らをプッシー三号と名乗り続けます」
しれっと言ってのける三号。
絶対に嫌がらせだ。
まず間違いなく根に持ってやがる。
「ところで素人童貞、いいのですか?」
「はぁ? 何がだよ」
「あちらの術士が詠唱を始めていますよ」
「え?」
三号が指摘する先、ローブ姿の女性が鬼のような形相で、こちらを見つめている。詳しくは聞き取れないけど、呪文っぽいものを呟いている。エロイムエロイムエッサイムって感じだ。
そうかと思えば、頭上に掲げられた杖の先、魔方陣が浮かび上がった。そこから発せられて、大きな火の玉がこっちに向かい飛んでくる。かなり大きいぞ、ゲーセンによく置いてある太鼓ゲームの太鼓くらいある。ドンドコ。
「よくもよくもよくも! よくも私のエドワァアァァドをぉおおっ!」
あぁ、さっき死んじまったイケメンの彼女か。
彼氏が首チョンパでヒステリックなんだろう。
事故だっつーに。
「障壁を展開します」
「うぉおおぉっ!?」
三号の障壁宣言。
薄い膜状のバリアっぽいのが生まれて、火の玉を防いだ。
おぉ、良くやった。今のは普通に死ぬかと思ったぞ。
「ナイスだ、ステファニー!」
「さっきと名前が変わってますよ」
「え? あぁ、えぇっと、なんだったっけ? 今ので忘れちまったよ」
「プッシー三号です」
「もうそれでいいわ。逃げるぞ、三号!」
「嫌です。殺します」
「やめとけっつーの! あのGカップは命の恩人なんだよ!」
「なんと愚かな。そういった中途半端な思考がバッドエンドに繋がるのです。その顔立ちと年齢では、人並みの幸せなど絶対に手に入れられないのですから、下らない良心などさっさと捨てて、早急に鬼畜道へ走るべきです」
「うるせーよ! 黙ってろ!」
三号を脇に抱えて走り出すニート。
当然、リア充軍団は追い掛けてくる。
ほんの小さなすれ違いが、確執を生み、大きな争いへと発展する。人の世ってもんは、いつだって儚いものだ。同じような過ちを繰り返しては、どこからしらで必ず、無意味な血がだばだばと流れている。
むなしいねぇ。
---あとがき---
12月25日(水)に「西野 ~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年~」の最新7巻が発売されます。本巻から独自展開が本編に絡んでまいります。もしよろしければ、お手にとって頂けると幸いです。どうか何卒、よろしくお願い致します。
公式サイト: https://mfbunkoj.jp/special/nishino/
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