ダンジョンの主 二

 声を掛けてきた女児は、ニート好みの金髪ロリータだ。


 あぁ、ちなみに金髪ロリータとは言っても、イケメン騎士にお持ち帰りされたヒロインとは別物だ。あれよりも少しだけ背が小さくて、歳も幼いように見える。あと、目つきが鋭い。着ているものも小綺麗だ。


「お、おぉ、美しい……」


 死ぬ瞬間の光景がこのロリータなら、まあ、悪くないのかも知れない。


 嫌には変わりないが、訳の分からないローブ野郎よりは圧倒的にマシだ。


「相変わらず口が上手いな。ところで、そっちのヤツは知り合いか?」


「え? いや、こんなのが知り合いな訳ないでしょうに。っていうか、今まさに俺のことを殺そうとしている天敵に決まってるじゃないですか。見てくださいよ、この立派な魔方陣。絶対にHP10000くらい削ってくるって」


「なるほど、そうなのか」


 俺の言葉に少女は淡々と頷いて応じる。


 何故か俺のことを知っているようだ。


 どうしてだろう。


 どうしてなのか。


 悩んでいると、疑問は正面のローブ野郎が出してくれた。


「な、まさか、本当にエンシェントドラゴンがっ……」


 金髪ロリータを目の当たりとして慄いている。


 完全にビビっちまっている。


 つい先程までのニートと大差ない狼狽え具合だ。


「リッチか。あの町の迷宮の主と言ったところか?」


「っ……」


 少女の言葉に酷く怯えた調子で、数歩を後ずさるローブ野郎。


 っていうか、エンシェントドラゴンってなんだよおい。


 もしかしてあれか、ドラゴンが幼女化しちゃったよ、ロリロリーって展開か。たしかによくあるよな。俺も大好きだ。むしろ、それを目当てに日々を生きていると称しても過言ではないだろ。


 そうなると、この金髪ロリータはドラゴン氏ということだ。


 本当か?


 さて、困ったときはステータスウィンドウに聞いてみよう。



名前:ドラコ

性別:メス

種族:エンシェント・ドラゴン

レベル:1687

ジョブ:庭師

HP: 689000000 / 689000000

MP: 1888000000/1888000000

STR:  3299000

VIT:  6000300

DEX:  4500030

AGI: 90000000

INT:130000000

LUC:        2



 マジだ。大当たり当たりだよ。お久ですドラコちゃん。


 相変わらずの不運っぷりは間違いない。


「えっと、め、目当てに人間には、会えたッスかね?」


「ああ、良いアドバイスを受けた。ついでに色々と種ももらった」


「そ、そりゃ良かったス」


 俺の問い掛けに、ドラゴン氏はホクホク顔で答えて見せた。


 くっそ、マジ可愛い。


 中身がドラゴン氏じゃなかったらお触りしてるわ。


「どうした? そんなにジッと眺めて」


「いやぁ、あ、相変わらずの美しいお姿に、見とれていたんスよ」


「なるほど、殊勝な心がけだ。褒美に私を眺める権利をやろう」


「あ、あざっすっ!」


 普通に嬉しい。嬉しすぎる。ずっと眺めていたいわ。


 けれど、そうしたニートとドラゴン氏のラブラブトークは早々に終了。横から口を挟んでくるヤツがいる。ローブ野郎だ。依然としておっかなびっくりした態度のまま、我々に対して震え声で問うてみせる。


「く、な、何が目的だ……」


「私は土だ」


「俺は美少女」


 素直に答えるドラゴン氏と俺。


 なるほど、ドラゴン氏は園芸用の土を取りに、わざわざ森までやってきたようだ。きっと町でもらった素敵な助言とやらが、ここいらの土を指しているのだろう。予期せぬ出会いにも合点がいったぞ。


 たしかに足の裏で踏みしめた感じ、良く肥えた腐葉土って雰囲気している。これなら植物も元気よく育つに違いない。ドラゴン氏の愛を裏切って枯れたグルメな花も、この土なら満足するさ。


「……わ、分かった。用意する。しばし待っていろ」


 え? マジで? マジで美少女、用意してくれんの?


 俺とドラゴン氏に短く告げて、ローブ野郎は姿を消した。


 こう、夜の闇にかき消えるように、ふっと消えた。


「しかし、お前にリッチの知り合いがいるとはな」


「あ、いや、別に知り合いって訳じゃないんスけど……」


「土まで用意してくれるとは、なかなか良いやつじゃないか」


「そ、そっスね」


 詳しいところは黙っておこう。後が怖い。


 ドラゴン氏と共にローブ野郎を待つ。


 するとヤツは数分と経たずに戻ってきた。


 なにやら、ハァハァと息を荒くしている。


 恐らくめっちゃ急いで取ってきたのだろう。


 右手には美少女を、左手には革袋を手にしていた。


 マジで美少女持ってきやがった。


 ただし、美少女はとてもグッタリしてている。


 ぶっちゃけ死んでる臭い。


「土はこれで良いだろう。この辺りで取れる土でも一等栄養が高い」


「ほぉ、それは素晴らしいな」


「受け取ってもらえますかな?」


「そりゃもう、もらえるというならば、もらっておこう。仮にもらえないとあっても、力尽くで手に入れていたところだ」


「さ、さようで」


「うむ、貴様、名を何と言う?」


「ア、アルベルトでございます」


「そうか、覚えていよう。アルベルト、感謝するぞ」


「ありがたき幸せです……」


 ドラゴン氏、スゲェ偉そうだな。


 あと、ローブ野郎、俺の時とは態度が全然ちげぇよ。


 ドラゴン氏に革袋を渡した後、ヤツはニートに向き直った。そして、手にした美少女を差し出す。黒を基調としたゴスロリ衣装に身を包んだ女児だ。髪は銀色のロンスト。肌は真っ白。目は閉じてるから分からない。


 パッと見た感じ即オッキできるくらい可愛い。


 ただし、意識を失ってグッタリとしているのは問題だ。


「それと、これが美少女だ。受け取れ」


「いや、死んでるだろこれ」


「人形だ。そんなことも分からないのか?」


「え? マジで?」


「貴様が魂を吹き込めば、コイツはお前を守るマリオネットとなる」


「お、おぉ、マリオネット……」


 なんて心の躍る単語だろう。


 俺はマリオネットが大好きだ。


 主にセイバーマ●オネットJを愛している。


「お前ってばいいヤツだな! マジ、ありがとうなっ!」


「ふんっ……」


 ローブ野郎から、マリオネットを受けとる。


 大きさは人と大差ない。重量も相応に感じられるが、ダンジョンでステータスが軒並みアップした恩恵なのか、これといって苦労することなく抱き上げることができた。セックスすることも可能と思われる。


 まあ、マンコが付いてるかどうかは分からないが。


「用が済んだならば、私はこれにて失礼する」


 そして、渡すものだけ渡して、ローブ野郎は姿を消した。


 ドラゴン氏が怖くて逃げたな。


 ざまぁみろ。あと、マリオネットありがとう。


「ふむ、ならば私も帰るとするか」


「あ、お帰りッスか?」


「この土を使ってみたいのでな」


「たしかにそっスよね。良い花が咲くといいッスねっ」


「うむ。花が咲いたら、貴様にも見せてやるとしよう」


「マジっすか!? あざっすっ!」


 花が見れるイコール、ドラゴン氏を見れるということだ。


 そんなの素直に嬉しい。やはり、金髪ロリータは最高だな。


「ではな」


「うぃっス!」


 ローブ野郎に続いて、ドラゴン氏も魔法でどこかに消えていった。


 便利だよな、場所移動する魔法。一瞬にしてどこへともなく、魔法陣と共にさようなら。俺もいつか使えるようになりたいもんだ。そうしたら少しはアグレッシブなニートになれる気がするんだ。


「さて、目的も達成したし、頑張って帰るか……」


 よく分からないけど、美少女が手に入ったので良しとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る