リベンジ

 このダンジョンってやつは、下りの階段が下った後で勝手に消える仕様らしい。そして、上りの階段は存在しない。一連の仕組みは未だに分かってないそうだ。何故にモンスターが際限なく出現するのかも不明とのこと。


 そんでもって、一度入ってしまったダンジョンから地上へ戻るには、特定階層に設けられた移動施設を使うらしい。この施設っていうのが、五階、十階、二十階、二十五階、と、五の倍数に配置されている。


 まあ良くあるタイプのダンジョンだな。


 唯一の例外は一階で、ここは出入りが自由だそうだ。


 だから、ああも若者が沢山溢れていたのである。Gカップが言うには、なんでも冒険者志望の若者たちが、鍛錬に使う場所らしい。スライムやコウモリを相手に、剣の振り方を学ぶんだとか。


 他にもこういう場所はあるのかと訪ねたところ、無いと言われた。


 どうやら、これがオンリーワンらしい。なるほど。


 とまあ、簡単な説明を受けたところで、件の施設を利用して地上まで脱出。途中で遭遇した色々なモンスターは、どれもこれもGカップが倒してくれた。ニートは隅の方でぼけっと眺めているだけだった。


 ダンジョンを出てまず目に入ったのは、夕暮れの空。


 どうやらかなり長い時間を地下に籠もっていたようだ。


「生きてるって素晴らしい」


「これに懲りたら、二度とバカな真似はするんじゃないぞ」


 ダンジョンの入り口で、Gカップから説教を喰らった。


 相手が女だと、こういうのも悪くないな、なんて感じるよ。昨晩、イケメンが相手だとあんなにも腹立たしかったのに、本日はそれほど苛立っていない自分に気づいた。それにこっちはちゃんと最後まで面倒見てくれたしな。


「もう二度とダンジョンなんて入らないッスよ」


「それはそれで極端だとも思うがな」


「いやマジ、本当にありがとうっした」


「私は先程のロード級の件を報告しにゆく。ではな」


「う、うすっ!」


 ダンジョンの入り口でGカップと分かれる。


 そう言えば、名前とか聞いてなかったけど、まあいいか。


 もう二度と会うこともあるまい。


 あの胸は是非とも揉みたいと思う。けれどまさか、あのプライドの高そうな女がニートになびくとは思えない。そして、俺は無駄な投資はしない男だ。無理だと分かってることに労力を割くなど、アホのやることだ。


 せいぜい今晩のオナニーで脳内レイプするくらいか。


 ミノタウロスと乱交して、アヘ顔ダブルピースをキメる女騎士とか、マジで最高だな。想像しただけで堪らんわ。ロリもいけるが巨乳もいける。特定の性癖にこだわって、自ら世界の楽しみ方を狭めちまうのは、つまらないもんだぜ。


「……さて、宿屋に行くか」




◇ ◆ ◇




 宿屋で問題発生だ。


 宿賃が足りねぇよ。


 具体的には五十ゴールドくらい足りなかった。ゴールドっていうのは、この国のお金の単位らしい。そして、お宿の値段は一泊飯抜きの素泊まりで八十ゴールドだ。きっと他所に足を運んでも足りない感じ。


 まけてくれと頼んだけど、外に放り出された。クソだ。俺が美少女だったら、絶対にまけてくれる癖に。俺が美少女でフェラチオしてやったら、タダでも泊めてくれただろうに。ああ、本当に嫌な店主だぜ。


「しっかし、ついに俺も野宿かよ」


 懐には薬草採集で手に入れた金銭が幾らばかりか残っている。利用すれば、もう一晩くらいは宿泊できるだろう。けれど、これは俺のヒロイン候補生であった、あの金髪ロリータの取り分だ。


 今頃はアヘ顔でイケメン騎士のチンポでもしゃぶってるんだろう。もしかしたら、騎士の仲間と一緒に乱交しているかもしれない。だが、約束は約束だ。ちゃんと取っておかねばなるまい。


 バイト探さねぇとヤベェよ。日雇いだ、日雇い。


 夕暮れから夜へ、いよいよ薄暗くなりつつある街中を急ぎ足に歩む。


 だた、多少ばかり走ったところでふと思い直す。


 俺はなんだ? 俺はニートだ。ニート!


 日雇い? ありえないな。


 ニートが就職を決意するなんて、そんなのあっちゃいけないだろ。俺は誰かの下で苦労しながら汗水垂らすなんてごめんだ。自分の努力をピンハネして、その金で楽しているヤツがいるとか、絶対に許せねぇ。


「駄目だ駄目だ、日雇いなんてふざけんな。俺は働かねぇぞ!」


 働きたくねぇ! そもそも俺はチマチマした苦労が大嫌いだ!


 楽して女をはべらしたいんだ!


 ならどうする。どうすればいい。


 答えはドカ●ンで学んだ。


 一発逆転、赤宝箱に決まってるだろ。レアアイテムをゲットして、一足お先に次のフィールドだ。周りの連中が低レベルの雑魚とじゃれあってる時に、俺は巨大な力を持つ大魔王を相手に、世界の命運を賭けてバトってたいんだよ。


「たしか今の俺だったら、あの犬野郎より強いはずだよな……」


 ふと、ダンジョンでのレベルアップを思い出す。



名前:ワタナベ

性別:男

種族:人間

レベル:1

ジョブ:ニート64

HP:5900/5900

MP:0

STR:2400

VIT:3200

DEX:4920

AGI: 900

INT: 310

LUC: 540



 そうそう、こんな感じだ。


 で、犬はこんな感じだった。



名前:ポチオ

性別:男

種族:ハウンドウルフ

レベル:35

ジョブ:ニート

HP:1800/2000

MP:0

STR:300

VIT:150

DEX:200

AGI:330

INT: 80

LUC: 45



 いいじゃない、いいじゃない。


 これはもらったな。


 次は俺があの森で犬野郎から美少女を救い出し、見事にヒロインゲットだぜ。ついでに当面のベッドとご飯も手に入れちゃったりすれば、ほらみろ、宿屋なんて必要ないじゃん。ざまぁみろ宿屋の店主めが。


 仮に美少女が不在でも、犬野郎の毛皮とかゲットすれば足しにはなるだろう。


 少なくとも本日分、一泊二食の糧は得られるに違いない。


 割と後者の方が本音だけれど、長らく引き籠もっていたニートが動くには、そういう大義名分が必要なんだよ。凝り固まった駄目な大人の自尊心は、そう容易に世間様のご意見に迎合したりしないのだからな。。


「っしゃ、行くぞコラ」


 これで決まりだ。犬野郎にリベンジだ。

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