出会い 一

 町へはすんなりと入れた。良かった良かった。


 ドラゴン氏がどこへ行ったのかは知らないが、取り立てて騒ぎになっている様子もないので、上手いことやっているのだろう。もしかしたらドラゴンの街中への離着陸が、日常的な世界なのかもしれない。


 いずれにせよ俺には関係ないことだ。


「異世界転生といったら、冒険者ギルドでダンジョンだろjk」


 そこいらのオッサンをつかまえて、ギルドの場所を聞き出した。


 ちゃんとあったよ、ギルド。


 店内の光景はなんというか、もうあれだ。ウェブの画像検索で「冒険者ギルド」って入力すれば正解だ。酒場で飯で荒くれ共の情報な掲示板だ。それなりに儲かっているようで、駅チカの飲み屋くらいは人がいる。


 そこでカウンター越しに、店員から冒険者ギルドの仕組みを聞いた。


 するとこれまた、どこかで聞いたような説明をされた。


 ランクはFからSSSまでだそうな。Fが子供のお使い。S以上は国際的な有名人枠の達人ばかりで、お前なんか千年かけてもなれねーよ、とのこと。実情はどうだか知らないが、そういうものなのだと想像しておけばいいだろう。


 その他諸々、受けることのできる仕事は同じランクだとか、パーティーを組むと一つ上のランクが選択できるだとか、失敗すると報酬がもらえずに、損害賠償を請求されるケースもあるだとか、めっちゃ色々と説明された。


 ゲームでもなんでも、良くあるパターンだ。


 そんなこんなで、無事に冒険者ギルドの登録完了。ちなみにカネは掛からなかった。初回登録無料とか、どこのレンタルビデオ屋だよ。せめて登録料くらい取らないと駄目だろ。しょせんはファンタジーだな、ファンタジー。


 白い肌をした青色の瞳の人たちと、どうして普通に話が通じるのかとか、国家間の言語の問題はとか、そのあたりはドラゴン氏と会話が成立した時点で記憶の彼方だ。通じるんだから、それでいいじゃない。


 早速、カウンターから離れて、店の隅でステータスの確認する。



名前:ワタナベ

性別:男

種族:人間

レベル:1

ジョブ:ニート

HP:8/9

MP:0

STR:3

VIT:2

DEX:6

AGI:1

INT:8

LUC:1



 ジョブがニートのままじゃねぇか。


 しかもHPも減ったままだ。どうやったら回復するんだよ。


「冒険者ってのは職業じゃないのか……」


 騙された気分だろう。とは言え、ニートだから何が悪いかと言えば、別にどうでもいい。ニートはどこまで行ってもニートだ。心がニートなのだ。誰かに何かを宣言したところで、そう易々と脱出などできるものか。


 現に、最初の仕事を探すか? という店員の問い掛けにも、ノーと答えた後である。近所の森で薬草を探したり、動物を狩ったり、そういう仕事がランクF、今の俺に選べる仕事なのだそうだ。


 そういった肉体労働は、俺には向かない。


 俺に向いてるのは、知的なデスクワークなんだよ。なんかの本でも、できるヤツは肉体労働などせずに、指先をインクで少し汚すだけって言ってただろう。マジ名言だよ。俺はインクの汚れすら御免だけどな。


「くっそ、カップ麺食いてぇ。あとコーラ飲みてぇ」


 カネが無いから、飯を買えない。


 腹減ったのに、どうしてくれるんだ。


 唸っても出てこないけどな。


「あー、めんどくせぇ」


 ちっともやる気が出てこない。それもこれも美少女が登場しないからだよ。美少女さえいれば、美少女さえ俺のAPIを咥えてくれれば、薬草摘みだって、動物ハンティングだって、がんばれるのに。


 くっそ、美少女め。


 どうせ、どっかでイケメンのAPI咥えてんだろ?


 イケメンは頑張ったら頑張った分だけ、美少女がAPIを咥えてくれるんだよ。そんなもん、一生懸命になって成果出すなんて当然じゃねーか。そんなご褒美あるなら誰だって一生懸命になるわ。


「ふざけんじゃねぇっ! このクソガキがっ!」


「ひぃっ!」


 怒鳴り声が聞こえて、思わずその場にしゃがみ込む。


 悲鳴じみた声を上げてしまう。


 色々と酷いことを考えていたものだからな。


 けれど、怒鳴られたのは俺じゃなかったらしい。


 そもそも俺はガキじゃない。いい年した大人だ。呼ぶならクソ大人だ。


 騙しやがったな、ちくしょうが。


「いいじゃんかよ! ちょっとくらい早くたって!」


「規律は規律だ。仕事の邪魔をするなら、ぶん殴るぞっ!?」


「邪魔なんてしないから、登録してくれよっ! 冒険者に!」


「いいから黙って出てけっ!」


「ってっ……」


 カウンター越し、少女が店員のマッチョ男性に脳天を殴られる光景。


 推定十歳。どストライク。


 きた、俺のヒロインが登場だ。金髪ロリータだ。背中に掛かる長い髪と、色白の肌と、青い瞳。美形。まさに待ち望んでいたヒロインだ。こういう子にアジャイルな悪戯をするのが、人生に失敗したロリコンの悲願だ。


 貧乏くさい格好しているのも点数が高い。


 貧困というセックスへの距離感が近しいエロスが堪らない。


 最近、リーマンがJK拾ってラブコメするラノベや漫画が人気じゃん。


 以前は奴隷ハーレム全盛期だったじゃん。


 その根源がコレだと思うんだ。


 なんて卑しい話があったものか。


「おいおい、なんの騒ぎだ? いきなり大声を上げたりして」


 この機会、まさか逃してなるものか。


 大急ぎで立ち上がり、卑しいニートは何気ない素振りを装う。


 ちょっとニヒルな感じで語りつつ、少女の下に向かった。


「ん? お前はさっき登録したばっかの……」


「よければ話を聞かせてもらえないか?」


「あぁ?」


 妙な顔を見せる店員にねだって事情を聞いた。


 なんでもギルドに登録してお仕事を始められるのは十五歳から。


 対してニートのヒロインは十歳。


 どうにかギルドに冒険者として登録したいけれど、年齢が足りなくて登録できない。いやだー、ワタシ登録したいのー、お仕事ちょうだいー、とのこと。ジェットコースターの身長制限に引っかかって涙目の小学生って感じだ。


「なるほど、なるほど」


「おら、そういうことだから仕事の邪魔だ。ガキは消えろ」


「頼むっ! いいじゃんかよっ!」


 ヒロインは必死だった。何か理由でもあるんだろう。


 両手を合わせて拝みポーズだ。


「そういうことなら、この俺が力になっても構わない」


「あぁ? 何いってんだ、おめぇは」


「オッサン、アタシのこと助けてくれるのか?」


「ちょっとこっちへ来るといい。良い話がある」


「え、あ、う、うん」


 俺が腕を引くと、少女は素直にカウンター前から離れた。


 内心、ガッツポーズを浮かべて、ロリコン野郎は少女を建物の外まで誘導である。店員は終始渋い顔をしていたが、まあ、気にするもんじゃない。何か言っていたような気もするが、金髪ロリータを前としては全てが無意味で無価値だ。


 ロリの二の腕が柔らかくて気持ちええでぇ。

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