プロニート、渡辺。 ~下僕のマリオネットが最強なので老後も安心~

ぶんころり

プロローグ

 どこまでも続く広大な草原にポツンと立つ俺。


 トラックにひかれて、幼女神様に会って、お前は死ぬはずじゃなかった云々の説教を喰らって、剣と魔法なファンタジー世界へ異世界転移した。幼女神様の話によると、どうやらステータス制のテンプレ俺TUEEEらしい。


名前:ワタナベ

性別:男

種族:人間

レベル:1

ジョブ:ニート

HP:9/9

MP:0

STR:3

VIT:2

DEX:6

AGI:1

INT:8

LUC:1


 パッと見た感じロープレの魔法使いみたいな初期ステータスだ。MP0だけどさ。ニートって魔法使えない職業なのかよ。そりゃそうか。


 ステータスと同じように装備欄も出るらしい。念じたら同じようにウィンドウが開いた。SFアニメの空間ウィンドウみたいなやつだ。マジすげぇ。


 っていうかこの世界、ラノベにありがちな疑似ファンタジーじゃないだろうな?


武器:なし

防具:ユニクロ

頭:なし

足:コンバース

装飾品:


持ち物:

お金:0G

ステータス:運動不足、内臓疾患


 内臓疾患ってなんだよ。具体的にどこがどれだけ悪いか書けよ。怖いじゃんかよ。いくら何でもざっくばらん且つ抽象的過ぎるだろ。


 ニート生活ってやっぱり身体に良くないんだな。新卒カード切って就職、からの三年で退職。以後ズルズルと数年を引きこもった成果だ。


「あーくそ、チュートリアルとかないのかよ。どうすりゃいいんだよ」


 新規ユーザが草原フィールドに放置プレイ喰らって残念なことになってるぞ。


 ネトゲだったら、すぐに初期クエストが発生するだろうに、いくら待っても何も始まりやしない。どうなってんだよ、鳥さんがスクロール運んでこねぇよ。


 ちくしょう。仕方ない、歩くか。


 内臓疾患が気になるんだよな。


 回復魔法とかで治せるのかね。治したいんだが。


 いや、その前に宿とか飯とか見つけないとアウトだろ。


 こういうのって、山賊に襲われている貴族の娘とか助けて、お礼に今晩は我が家で、みたいな展開が待ってる筈だろ。なんでイベントが来ないんだよ。


 化物系の転生TUEEEだったら、ダンジョンとかで延々とレベル上げてるだけで良かったのに。そっちの方が楽そうで良かったな。フィールド移動もへったくれもない。淡々とステータス上げるだけだし。


 まあいいや、とりあえず歩くか。


 このままじゃ野垂れ死にだ。


 特に目的もなく歩く。


 町とか探して歩く。


 そして、三十分くらい歩いたところで、早々に挫ける。


 足が痛い。


 周りの風景も全然変わりやしない。飽きた。


「あーくそ、疲れてきた」


 こんなに歩いたの久しぶりだよ。


 っていうか、ステータスどうなってるの。


名前:ワタナベ

性別:男

種族:人間

レベル:1

ジョブ:ニート

HP:8/9

MP:0

STR:3

VIT:2

DEX:6

AGI:1

INT:8

LUC:1


 歩いただけでHP減ってるじゃないの。


 なんだよこのクソゲー。


 四時間歩いたら瀕死の重傷だよ、おい。


武器:なし

防具:ユニクロ

頭:なし

足:コンバース

装飾品:


持ち物:

お金:0G

ステータス:運動不足、内臓疾患、疲労


 ステータス、疲労とか、言われなくても分かってるよ。俺のことは俺が一番よーく分かってるよ。なんでお前に指摘されなきゃならないんだ。


 なんか苛立ってきたぞ。


 疲れたからだろう、普段にも増して短気っぽい。


 このままじゃ餓死コースが確定。


 けど、歩くのも疲れた。


「美少女こいよ美少女。そしたら頑張るからさぁっ」


 オナニー用のパソコンがない分、こっちの世界の方が以前よりマイナスだ。


 ところで最近の若者は、スマホを片手にオナるらしいね。あんな小さい画面でエロ動画を眺めて、何が楽しいのだろうか。


 っていうか、これのどこが俺TUEEEだよ。


 あの幼女神様、嘘つきやがったな。


「美少女ぉおおおおおおおおおおおっ!」


 あんまりにも雄大な景色。観光客呼べば金取れるレベル。


 これはもう、叫ぶしかない。


 誰か俺を捕捉しろ。自分で動くのは面倒だ。


「美少女ぉおおおおおおおおおおおおっ!」


 腹から声を出して、大声で叫んで、ちょっと気分が良い。


 遠く山に、美少女ぉおおおおおおおお、とニートの性癖が山彦する。


 ざまぁみろ。


 雄大な景色を汚してやったぜ。


 すると捕捉された。


 叫びを聞きつけたのだろうか、空の一点から何かが近づいてくる。


 かなりデカい。


 鳥っぽいけど、シルエットが違う気がする。


 ドラゴン、ドラゴンだ。


「……マジか」


 ファーストエンカウントがドラゴンとかねーよ。


 いやまてよ、これこそが俺TUEEEじゃないのか。


 序盤でいきなり強いモンスターを倒して、いっきにレベルアップとか、よくあるパターンだろ。相手がドラゴンとか王道だもん。


「っしゃ、任せろ」


 きっと上手い具合に倒せるようになってんだろ。


 そういうクエストだ。


「カモンッ! こい! こいよドラゴンッ!」


 空に向かって両手を振る。


 俺はここだ。ここにいるぞ。


 そんな感じ。


 するとドラゴンも一直線、こっちにやってくる。


 結構でかいな。ニ十メートル以上あるんじゃないか。


 ズズーンと大地に降り立つ巨大なドラゴン氏。


「このような場所に人間とは珍しい……」


「おぉ、喋った。流石はドラゴン。マジでカッケェ。スゲェ!」


 圧倒された。超絶カッコイイ。


 憧れるわ。俺もドラゴンになりたい。


 全身がゴールデンだ。


 太陽っぽい何かの光に照らされて、キラキラしている。


「あまり褒めるな。当然だ」


「当然のことを当然のようにできるのがスゲェんだよっ。俺はこれを理解するのに、二十数年も掛けたんだからな」


「人間にしては殊勝なことだ。その心意気は大切にするといい」


 ドラゴンの声は腹に響く。


 大口径のスピーカーを全力で鳴らしたかのようだ。鼻先から数メートルを挟んで、息がシャツの裾をはためかせるほど。生暖くて気持ち悪いぞコラ。


「して、このような場所に何用だ? まさか散歩に来た訳ではあるまい」


 このドラゴン氏、なかなか話せるっぽい。


 交渉の余地有りというやつだ。


「それがちょっと、ドラゴン氏に聞いて欲しいことがあるんスよ」


「……言ってみろ」


「自称神様の幼女に転移しろって言われて、気付いたらここに立ってたんスよ」


「ほう、転移か」


「ご存じで?」


「過去にも同じことを口にしたヤツがいた」


「マジっすか!?」


「生意気だったので喰らってやった。実際のところは知らぬ」


「……マジっすか」


 このドラゴンは、実はヤバいドラゴンなのかもしれない。


 めっちゃ凶暴じゃんか。


 話せるように思わせておいて、いきなりガブリ系だろ。


「俺、ナマなんて言いませんよ? いや、マジで」


「そうか」


「正直、ドラゴン氏の格好良さに惚れちまってますんで」


「惚れた?」


「一目惚れってヤツッスよ」


 俺と同じようなことを考えて、殺されたヤツがいるらしい。このドラゴンってば、初期ブースト用の倒されキャラじゃないのかよ。


 どっちかって言うと、ロープレの序盤で戦う敗北イベントだな。


 オープニング直後にラスボスがチラッと顔見せとか、王道じゃないの。


「そうだろう。そうだろう」


「もちっスよっ。マジでカッチョイイっス。その鱗の輝きとか、この世の宝石をどれだけ集めたって、勝てっこないッスよ。こうして見ているだけで、心が癒やされるッス」


「ほぅ、この良さが分かるか。人間」


「そりゃもちッスよ!」


 よいしょだ。よいしょするしかねぇ。担いで担いで担ぎまくる。まさか、喧嘩を売って勝てるとは思えない。誰だよ、初回のサービスモブとか言ったヤツ。俺だよ。


 そもそも、このドラゴンはどれくらい強いんだ。


 ステータス確認は必須だろ。


名前:ドラコ

性別:メス

種族:エンシェント・ドラゴン

レベル:1687

ジョブ:庭師

HP: 689000000 / 689000000

MP: 1888000000/1888000000

STR:  3299000

VIT:  6000300

DEX:  4500030

AGI: 90000000

INT:130000000

LUC:        2


 何コイツ、不運すぎるだろ。


 不憫に思えるステータスだ。俺よりついてない。


 あと庭師ってなんだよ。


「ドラゴン氏、最近ちょっとついてないなーって思うことありませんっした?」


「なんだと?」


 どうにも気になったので訪ねたところ、睨まれた。ギロリ。


 目玉だけでも俺の頭部よりデカいんだよ。


「あ、いやいや、ちょっと、そんな気がしただけッスよ。いやだなぁっ」


「……昨晩、ここ数週間ほど育てていた花が、枯れた」


「え? 花っスか?」


 なんか語りはじめたぞ、このドラゴン。


 お花とか言っちゃって、図体デカイ癖に乙女ってんじゃねーよ。


「気晴らしに育てていたのだがな、枯れてしまったのだ」


「そ、そりゃまた災難なことで……」


「過去にも幾度か試したことはあるが、なかなか上手くゆかぬものよ」


「…………」


 この図体でどうやって花など育てるのか。疑問に思わないでも無い。


 あるいはドラゴンに相応しい、化け物みたいな花を育てるのだろうか。


「やっぱり、日当たりとかッスかね? 気温とか」


「その点は十分に気をつけたのだがな……」


「じゃあ栄養とか。結構、土の具合によって変わるとか言うッスよ」


「土も具合の良いものを用意したつもりだったんだがな」


「となると、花の種類に環境が合わなかったんスかね……」


「うーむ。やはりこういうことは、人間共の方が得意なのだろうな……」


 グルルと喉を鳴らしては、なにやら悩み深げに呟いてみせる。


 きっと運が悪いせいだとは、後が怖いので言わないでおいてやろう。


「専門にしているヤツの一人や二人、探せばすぐに見つかるんじゃないっスかね?」


「なるほど。たしかに人間共は無駄に数が多い。さもありなん」


 ガーデニングトークで少しばかりドラゴン氏を身近に感じたぜ。


 だからと言ってなにがどうなる訳でもないが。


「久方ぶりに人の世へ混じるのも悪くない。少しばかり探しに行くとしよう」


「うほ、マジっすか。流石の行動力ッスねっ!」


 ヒキニートの俺には眩しい。


 他人との率先したコミュニケーションなんて冗談じゃないわ。俺が欲しいのは、俺だけを褒め称えてくれる一方的なハーレムだ。他はイラン。


 他人に気遣うなんて冗談じゃない。今も胃がキシキシと痛んでいるぜ。


「話を聞いてくれた礼だ、貴様も連れて行ってやろう」


「え? マジすか!?」


「その様子では、この高原に残ったところで一晩と保つまい」


「……ここってヤバイ場所なんスか?」


「滅多なことでは人間共も立ち入らないな。最後に見たのは何百年前のことか」


「おぉう、そりゃすげぇ」


 とっても危ない場所だったらしい。


 パッと見た感じ、景色の綺麗な高原なんだけどな。


「では、ゆくぞ」


「うぉっ!?」


 ドラゴンの言葉に合わせて、足下に魔方陣が浮かび上がった。


 でかい。


 ドラゴンの身体をまるまる飲み込んで、俺もその範疇に加えるほど。


 そうかと思えば、周囲の景色が暗転する。


「なんすかっ!? ねぇ、これなんすかっ!?」


「喚くな。うるさい」


「っ、すんませんっ」


 次の瞬間、再び視界に景色が戻る。


 時間にして数秒とない、束の間の出来事だ。


 先程まで立っていた高原とは似ても似付かない草原である。そして眺める先には、何やら高い壁に囲まれた、町のようなものが確認できた。


 おおよそ数キロ先。


 我々が丘の上に立っているため、これを見下ろす位置関係だ。


 それなりに規模のある町っぽい。周りを囲っている壁も結構な高さだ。しかも内側にも同じように壁があって、幾重もの層になっている。


 これはあれだ、城塞都市なんとかだ。そういう系だ。きっと冒険者ギルドとか、ダンジョンとか、その手の類いの施設があるに違いない。分かりやすくて大変によろしい。


「ここならば人も多かろう」


「あ、あざすっ!」


「ではな。人間」


「う、うぃっすっ! ありあしたっ!」


 大仰に頭を下げると、再びドラゴン氏の足下に魔方陣が浮かび上がる。


 今度は俺を残して、ドラゴン氏だけが姿を消した。


 空間移動的な魔法だったのだろう。なんて便利な魔法もあったもんだ。恐らくは眼下に眺める町へ向かったに違いあるまい。


 しかし、あの図体で入場して大丈夫なものなのか。まあ、俺の知ったことじゃないので、気にしないでおこう。いちいち考えるのが面倒だ。


「……最初のクエストは終わったっぽいな」


 よいしょしたら、よいしょした分だけ還元してくれるヤツは嫌いじゃないぜ。


 あばよ、ドラゴン氏。


 ニートも目下の町に向かうことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る