出会い 二

 冒険者ギルドを出たニート野郎は、人の少ない方に向かって貧困娘を連れて行った。腕を掴んだまま小走りで移動した。そうして訪れた細路地、周りに人気がなくなったことを確認して、彼女に向き直る。


「お、おい、こんなところまで引っ張ってきてなんだよ?」


「オジサン、さっき冒険者に登録したばかりなんだ」


「……だったら、ど、どうしたってんだ?」


「よければ君と一緒に冒険をしようと思うんだ。どうかな?」


 フヒヒヒヒヒ。


 思いの内を打ち明ける。


 僕と付き合って下さい。


「……オッサンと一緒に?」


 あからさまに訝しげな表情となる金髪ロリータ。


 まあ、当然だろう。けれど、俺は引かないぜ。


「冒険で手に入れたお金は半分こでいいから、な? どうだ?」


「うっ……それは、その……」


「ギルドとかの処理は全部オジサンがやってあげるからさ」


 なんつーか、道端で女の子に声を掛けちゃう人間の心理を、多少なりとも理解した気分だ。これは堪らない。楽しすぎる。自分好みの女と対等に話をするっていうのは、こんなにも楽しいものだったのか。


 世のヤリチン共がナンパに精を出す理由も分かった気がする。


「こんなこと、他じゃ絶対にないと思うぜ? な? いいだろ?」


「……本当に半分、くれるんだよな?」


「ああ、上げるとも。嘘なんてつかないさ」


「本当に本当か?」


「当然だって。末永く一緒に冒険して、ランクとか上げてこうじゃないか」


「…………」


 今の俺、相当にキモイ顔してるだろうな。自覚あるもの。


 けれど、今は押すべき時だ。押して押して押しまくるぜ。


「な? いいだろ?」


 するとこちらの熱意が通じたのだろう。


 しばらく悩んでから、少女は小さく頷いて応じた。


「わ、分かった。一緒に冒険者する」


「おぉっ、マジかっ! ありがとう! マジありがとう!」


「……大げさなオッサンだな」


「いやいや、オッサンも一人じゃ不安だったんだよ。マジマジ」


「ふぅん……」


 これほど嬉しい出来事が、過去にあっただろうか。


 いいや、ない。マジでない。


 生まれて初めてナンパに成功しちゃったよ。しかも金髪ロリータを。


 嬉しすぎる。小躍りしそうだ。


「でもオッサン、一緒に冒険とか言っても、どうするんだよ?」


「俺が仕事を取ってくるから、途中で合流して出発だ。仕事は薬草採集でいいよな? 他に何かやりたい仕事があれば、そっちから言ってくれてもいいけど。あぁでも、あんまり危ないのは却下な」


「そ、そうだなっ。薬草、取りに行くぞ!」


「おうよ。んじゃオッサン、さっそく仕事を取ってくるわ」


「アタシはここで待ってればいいか?」


「おうっ! 逃げるなよ?」


「に、にげねぇよっ!」


 ちょっとやる気が出てきた。


 たまには頑張ってみるのも悪くなさそうだな。




◇ ◆ ◇




 このステータスウィンドウってヤツは、毎度のこと俺を不快にしてくれる。


 理由はこれだ。



名前:ベス

性別:女

種族:人間

レベル:3

ジョブ:浮浪児

HP:6/12

MP:3

STR:4

VIT:3

DEX:7

AGI:6

INT:8

LUC:3


 この金髪ロリータ、俺よりステータスが高い。全部高い。


 俺は子供以下らしい。MP3とか、超絶羨ましいわ。


 頑張ればファイアボールくらいなら撃てるんじゃね?


「おい、オッサン。いきなり黙ったりして、どうしたんだよ?」


「あぁ、いや、なんでもない。別になんでもないから」


「……大丈夫かよ? なんか疲れてるみたいだけど」


 おぉ、俺なんかを心配してくれるのか。


 良い子だ。なんて良い子だ。


 ちなみに今は町の近所の森で薬草採集に興じている。採集すべき草の外見はヒロインが知っていた。もしも一人で来ていたら、きっと途方にくれていた筈だ。春山にヨモギを取りに行くような感覚で向かっては、泣きを見ていただろう。


 薬草の発見率も大したもんだ。


 なんつーか、割とガチでコイツを誘って良かった。


 先程の細路地で、一緒に冒険する代わりにちょっとオマンコ触らせてくれよ、とか言おうと思ったけど、我慢して良かった。マジ良かった。セフセフ。伊達に俺よりステータス高くない。でもINTって賢さだったよな。


「大丈夫、ぜんぜん大丈夫だって」


「そうか? ならいいけどさ」


「あ、あぁ、心配してくれてありがとな」


「そんなんじゃねぇよ。オッサンが倒れたらアタシが困るんだから」


 ああだこうだと言葉を交わしつつ、地べたにしゃがみ込んで薬草採集。


 取れるだけ取りまくる。


 かなり長いこと続けた。


 きっと二時間くらいはそうしていただろうな。


 冒険者ギルドで貸してもらった袋一杯に薬草が詰まった。


「こんだけ採れば十分だろ。マジで疲れたわ」


 その場に立ち上がり、背筋を伸ばして軽く身体を捻る。結構な運動になった。草むしりなど何年ぶりだろうか。身体のあちこちが悲鳴を上げている。大きく胸を反らして両手を広げると、コキリと小気味良い音が鳴った。


「オッサン、凄い貧弱だよな」


「いいんだよ。オッサンは温室育ちなんだから」


「じゃあなんで冒険者なんて始めたんだよ?」


「そ、そりゃまあ、色々と事情ってものがあるんだ」


「ふぅん……」


 物言いたげな眼差しに見つめられた。


 金髪ロリータと会話をしているというだけで、胸の鼓動が早くなってくるのを感じる。更にそんな視線を向けられたら、ちょっとキミキミ、息子がオッキしてしまうから止めてくれたまへ。


「っていうか、そっちこそなんで冒険者なんだよ?」


「ア、アタシか?」


「そうだよ。アタシだよ」


「それは、その……」


「冒険者ギルドじゃあ、随分と必死だったじゃんか」


 何か負い目でもあるのだろうか。


 なんとなく気になって訪ねる。


 するとまあ、返ってきたのは重い言葉だ。


「か、母さんが病気だからだよ。薬を買うのにカネが必要なんだ」


「マジかー……」


 面倒臭い話だ。やっぱり聞かなきゃ良かった。発言に対するフラグは十分に立ってたのに、ついつい聞いてしまったよ。むしろ今の会話の流れだと、この手の話題が続かない方がおかしいだろう。


 とは言え、それくらい鬼気迫る理由があるのなら、ニートは当分この子を視姦しながら、薬草収集を続けられるってもんだ。悪くないと言えばその通り。今晩のおかずは、採集中にチラ見した橫乳とオパンツに決定している。


「そりゃまた大変だな」


「別に同情なんていらねぇよ。それだったらカネくれよ」


「俺もカネは持ってねぇよ。無一文だし」


「んだよ、使えないオッサンだな……」


「うるせぇよ。んなことお前に言われるまでもないわ」


「報酬はちゃんと半分、こっちに寄越せよな?」


 それは暗に半分以上寄越せという催促なんだろう。お涙頂戴的な。まあ、身分が卑しければ、相応に心も卑しくなるもんだ。仕方ないさ、清貧なんてありえねぇよ。そんなもんは人が作った都合の良い作り話だ。


 けれど金持ちに限って、そういうのを求めたがるんだよな。


 俺もいつか金持ちになって、貧困家庭に清貧を無理強いしたいわ。


「分かってるよ。ちゃんと半分で分けるってーの」


「ふんっ……」


 何が気に入らなかったのか、プイと橫を向いてしまう金髪ロリータ。


 とは言え、そこまで期待はしていなかったのか、怒った様子もない。


 そんな具合で薬草採集は終了。後は嵩を増した革袋を持って帰るだけ。


「んじゃ、そろそろ町に戻るか。日も暮れそうだし」


「分かった」


 そうして記念すべきニートの最初の冒険譚は幕を閉じた。


 つもりだったんだが、ここから始まるのがアフターファイブ。残業申請してないのに、モンスターが襲い掛かってきて、タイムカードを切ってしまったOLは涙目でファイヤボール。課長! 今晩は彼氏とデートがあるんです!


「な、なんだよコイツ……」


 金髪ロリータが言った。


「すげぇデカイな……」


 俺も言った。


 ガサゴソと物音が響いたんだよ。だから、振り向いたんだ。そしたら、妙にデカい犬みたいなのが、ハァハァしながら俺らのこと見てるじゃないの。パッと見た感じ、ゴールデンレトリバーの三倍くらいある。


 しかもなんだ、熊でも殺せそうな面構えでグルルと唸っているぞ。

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