第肆章 2「敵地(カーネーション)1」

2 敵地「カーネーション」



 敵地に向かうとしても、場所は洞爺湖町。


 札幌からの距離は実に80km以上。普通に自動車で行けば、かかる時間は数時間。今すぐに到達できる距離ではないが、ここは次世代への道、最先端の組織である。


「ったく、すげぇ飛行機だな」

「バカなの? これはBK37。超音速飛行ステルス機よ、あんたほんとに暗殺者なの?」


 先ほどの言動からしてみれば、ただの団栗の背比べなのだが、この場合、クハが正解である。先日、研究機関を覗いたときには見なかったそれは、今まで使っていた超音速機の最新型。ステルス機能に、プロペラと滑走路がなしで飛ぶことができる瞬間離陸機能、瞬間加速と瞬間減速もマルチ機能ロケットエンジンにより可能になる。宇宙飛行もでき、機内で数か月間暮らせるように住宅スペース、また、武器庫には数千丁の銃が完備されていて、機体の外側にも小型ミサイルと自動追尾型機関銃、エネルギー砲に超電磁砲や空気を高密度に圧縮して強力な破壊力を出す高密度空気砲も搭載されている。他にも多くの機能が付いており、総額10兆円を超える超高級の戦闘機である。


「にしてもすごいぞ、セキュリティ装置も完璧だなぁ」

「うわ、やば。うちら大阪支部にこんなのないってのに」

「ニヨン」

「なに、ナイフ小僧」

「……って、その呼び名は勘弁してよ。てか、見た目中坊のガキに言われたくないわ」

「あらら、年は18ですけどぉ」



 機内に入ると、今度は珍しい組み合わせ、この二人が言い合いを始めた。ゴロは喧嘩の王様なのかとでも言いたいくらいの頻度で喧嘩を起こすから、他の人間も手に負えない。


(ったく、何してんのよあいつ。まあいいわ、私はライフルの整備したいし、無視っと)


「ハハ⁉ 18にしては小さいことで……笑えるな!」

「う、うるさいわよ! 大体あんた、私よりも下ですからねェーーー」

「は? 誰が下ですかー⁇」

「私たちはB2で、あなたたちはB3。これの意味、お分か⁇」



 全くもってくだらない、言い争いの間を全身真っ黒なこの男、ナナ(クロ)が横切った。


「おい、ナナ!」


「なんだ?」


「なんだじゃないわよ‼ 今わたs



「邪魔だ、仕事だぞ」



「っえ」

「っあ」


 彼の目は暗かった。


 黒く、鋭く、何かを見据える獣の目。


 そんな目と、彼を覆う覇気に周りが圧倒される。


「す、ごい、わね」

「ああ、そう、だ、な」


 その覇気に圧倒され言い争う気も失せたのか、二人仲良く武器庫へ向かった。



 ・武器庫・

「今回の敵は100人。そのうち三人はとても強い。ウイング、ハート、スペード、その他も武道の達人が多数。くれぐれも油断するな」


「所長、今回は一緒なんですね」

「ああ、そうだが」

「いえ、心強いなと思いまして」


 クハも大きなライフルを抱えながら所長を見つめながら、少しだけ赤面する。


「世界のために、頑張りましょう」


「ええ、それにしても臭いセリフね」


「全くですよ(笑)」


「なんですって?」


 またも喧嘩⁉ と言える雰囲気に持ち込まれそうになったが何とか持ち超えたのか、それとも演技なのか。二人の睨み合いが笑いの顔に変わっていた。


「ナナも、だ」

「ん?」

「……いや、何でもないよ」



「殺していいんだよな? 命令は?」


「当たり前だ、下りてるぞ、ちゃんと私がな」

「了解」



『離陸シークエンス開始。残り270秒』



「お、ようやくか」

「じゃあ、みんな武器をそろえて、各事席に着け」


 鬼我京子の指示にすぐに動く一同。

 これから行われる作戦へ、緊張感が一層増していく。




 20分前、札幌市内「PARALLEL」ビル前。


「なによ、ここ……?」


 大きなビルの麓にある木陰に隠れながら、ゆりは突っ立ていた。


 その大きさに恐怖心すら覚える。クロが見知らぬ人間と大急ぎで入っていくのを確認した彼女の頭からは何が起こっているのかは考えられなかった。彼のセリフとこの大きなビル。見るからに入ってはいけなさそうな雰囲気に圧倒される彼女。クロがいなければすぐに帰る道を選択するはずなのに、体が自らここに留まっていたいと告げている。


「どうしよう、クロ君があんなところに……でも、なんか入っちゃいけなさそうだし」


 よく見ると、自動ドアの奥に大きな銃を持っている男が二人見えた。


「銃……?」


 ここは日本、銃刀法で銃の所持は許可されていない。そのことが浮かんだと同時に、思える状況は一つ。あのビルはヤクザが所有している。もしくは、公表されていない軍事ビルの一つなのか、そのどちらかである。


「やばぃ、どうすれば」


 そう言いながらも、彼女はそのビルの前まで行こうとしたその時。



 ビビジィィィィィイイイイイイイイイイイイッッ‼‼



 首の裏、うなじあたりに強烈な痛みが走った。まるで電撃でも浴びたかのような激痛に耐えられなくなる彼女はその場に倒れて、


「っぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼」


 と大きな叫び声が、あたりに響き渡った。


 その大きな声に通行人たちは一瞬立ち止まると、木の陰からバタッと一人の女の子が倒れた。


「大丈夫ですか‼‼」

「え、うそ」

「おい、君‼‼」


 周りにいた主婦に、サラリーマン、女子高生や男子学生も数人の人間が彼女の元へと集まる。


「大丈夫ですか‼‼‼ 聞こえます⁉」


 男が耳に向かって大きな声で話しかけるが反応がない。


「心音、はある! 脈も弱いけどあるわ!」


 その知らせに一同は安心したが、彼女の脈は弱まっていく。


「君、救急車!」

「私?」


 女子高生がいきなりの指名にびっくりしたが、すぐに携帯を取り出して119にへと連絡を始めた。



 数分後、救急車が到着する。

「どいてください! はい、いくよ」

「「1、2、3!」」

 二人の救急隊員がタンカーに乗せて、救急車は緊急発進していった。



 しかし、その瞬間。



 男には、何かが目に見えた。

 触れちゃいけないような、必ずと言ってもいいほど。


 その証のようなそれが。



 そう、それが見えたのだ。

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