第肆章「未知の既知」

第肆章 1「緊急会議(侵入)」

第肆章 「任務2」



 1 緊急会議(侵入)



「おい、急げ急げ‼‼」

「はい! B班はA班のバックアップ! C班は新たなセキュリティウォールを構築に徹しろ!」


「「了解‼」」


 通信室では大混乱が起こりていた。

 鬼我所長の監視下の元、白髪が目立つ「No,010」のテンと「No,024」のニヨンが指揮に徹していた。


「おい、そこ遅いぞ‼‼」

「はい! すみません!」

「ッチ、そこ変われ」

「ですが!」

「いいからどけ‼‼」

「ハイ⁉」


 怒りと焦りを見せる丸眼鏡の向こうにある瞳は淀んだ黒一色であった。先日の優しい青年の姿をもうどこかに消えていて、B2のエースがそこにはいた。


「テン! B3が集まったよ‼」

「ああ、僕にはかまうな! 鬼我所長と一緒に会議室へ向かえ‼」

「……了解!」





 会議室1にて。


「いったいどうしたんですか⁉」


 クハが声を荒げてそう言った。


「まて、いったん落ち着いて」

「落ち着けませんよ、こんな風に集合したことなんてなかったじゃないですか⁉」

「クハ」


 ゴロが睨み付ける。


 ここで焦ってもしょうがない。


 自分たちは日本公認の裏組織の秘密部隊である。日本の特殊部隊とはレベルもすべて根こそぎ違うほどの実力を持つのだ。そんなB3のメンバーが焦ることなど言語道断。それが分かっている今日のゴロはいつものチャラついた雰囲気はどこかに消えていた。


「ああ、ゴロの言うとおりだ」

「……すみません」


「それで、突破されたんですよね?」


 ナナ(クロ)がまたしても先に答えを言い放つ。


「おい、勘弁してくれよぉ……」

「また言ったね(笑)」


 さすがの緊急事態でもすることは変わらない。


「まあ、クロの言ったとおりだ。セキュリティがすべて突破された。今、通信班のメンバーを全員とテンの構成班が処理にあたっている。だが、時間の問題だ、やられる前に奴らのアジトをたたくぞ」

「すべて、ですか?」

「まじすか」


 ゴロとクハの二人、さらに多くのメンバーはそのセリフに驚いた。


「ああ、そうだ。その説明をしている暇はない。おそらく奴らもこっちが仕掛けてくるのを分かっているだろう、だがここでやらなければ情報が漏洩してしまう可能性があるんだ」

「……そうですよね」

「でも、ここでいっても追い返されることがあったりするじゃないすか?」

「それもある。ここまでやってくる以上、あいつらもこっちの情報を多くつかんでいる可能性は捨てきれないが——あっちの目標はここの情報を広めることだ。おそらくそのことに力を固めているはずだ。死んでも情報のため、あくまでもこれが目的なのだからと動くと私は踏んでいる」


 ここでいかなければ情報が垂れ流される。だからといって、待ち構えている連中も腕の立つ、強い連中の可能性もある。そんな運ゲーの世界が彼らの目の前には広がっていた。


「でも、行くしか、ない」

「ああ、そうだな。ナナの言うとおりだ」

「そうね、私たちが何のためにあるのかを忘れてはいけないわね」


 そう、それが運命である。


 そして、使命である。


「ありがとう。では、至急武器庫で装備を固めて戦に出るとしようか!」


「「「了解!」」」





 とある地下室にて。


「こりゃすごいな」

「ああ、そうだな。チートだな」

「どうなってるんすか? ウイングさん!」


 パソコンの前にいる男たちを魅了していたのは、後ろで機械の腕を組みながら眼鏡に映る指揮を眺めているウイングと言われる体のいたるところに電子機器を埋め込んでいる男だった。


「だろ?」


「すごいっすよ、おしえてくれないんですか⁉」

「っは、ばか。こんなの教えてどうするんだ? 大体これはこの時のために作ったやつなんだよ。これが終われば捨てるだけさ」


 高笑いを浮かべながら彼は言った。


「もったいないっすよ」


 ガチャ


 すると一瞬で腕の形が変形して、レールガンのような電撃があたりを走る。


「何か言ったか?」


 師範代の称号を持つ構成員たちもさすがの技術に声が出ずに、殻をむきなおして作業を再開した。





「スペード、やはり奴らは現れるな」

「ああ、そこはリーダーの見かねたとおりだろ」


 大柄な男スペードと、全身武装のハートが入り口の前で仁王立ちをしていた。その後ろには20人ほどの小部隊が身をひそめて、その合図を待ち構えている。


「俺たちの目標は情報漏洩さ、ここにいる全員は死んでもいいんだよ」

「それは、つまり。革命、か」

「そう、成し遂げるときが今なんだよ」

「このことのために行くのさ、俺たちは」


 パンッ


 乾いた銃声が森一面に響くとともにハートとスペードの二人が地に額をつける。


(なん、だ? 胸が、あつい……う、たれたのか? はy、すぎる)


 少しずつ明かりを失っていく組織の長の目にはニコッと笑うダンディな男が写る。


「命令違反だ、死ね」



 その声は彼には届かず、地獄の銃撃戦が幕を下ろしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る