第弐章 6「現状報告2」
「ええ、まずこの組織について説明する。斎藤、よろしく」
そこで隣の秘書にファイルを渡し、後ろの壁から電子ボードが姿を現した。
「まず、この組織の名前は「過激派組織『カーネーション』」、一応、国が指定している危険な組織の一つで、組織の理念は……「自由を我らに」。構成員は総勢100人の大規模組織だ」
「まあ、そういう感じだ、おそらく我らを対象に攻撃する時点で、規制の象徴である大元を壊したいのだろう」
「自由ね、私も、それについては共感しちゃうわね」
「共感? クハは意外に普通だな」
「意外って何よ! 私だってよくわかるのよ、この組織に属していないのなら、多分似たようなことしてたんじゃないかな? だって、世界が不平等なことも、自由じゃないことも、分かるもの……」
薄くなった声でクハは言ってみせた。
この組織を、日本を、世界を牛耳る者たちの前で言ってみせた。
「でも、まあ、そんなこと知ったことではないわ」
苦しいのだろうか、彼女にも、この気持ちを知っている。
悲しみと、懺悔。
誤っても意味のない馬鹿な、愚かな気持ちだった。
「クハの言うとおりだな、こっちとしても国を背負っている。そんな組織に引けなど取っていられない」
所長の声は本気で、強かった。
「はい、で、えーっと、この組織は札幌市東区東雁来町の豊平川沿いの住宅地の地下。そこからの建物の構造は余りよく分かってはいないが、バーから入るのを目撃したとの情報が送られてきている」
「ほー、カモフラージュか」
ニヤついた可部を見て、
「ん? 何か知ってるのか?」
「いやいや、なんか、周到だなって思って」
「周到か、確かにな、札幌市にいながら郊外の地域に、そして治安が悪い地区に行くことで濁している、そんな感じかな?」
「さすが、所長。その通りですよ」
ただ、この先の疑問が一つ増えた。
「でも、これは逆に不利じゃないか?」
その話を見た通信班代表が言った。
「住宅地の地下なんだろう? 周りの市民はどうするんだ? 襲撃するのなら、警察との連携はいいとして、どうやってその地域の人たちを退かすかが問題じゃないか?」
「それは、いい質問だ、無論」
鬼我京子は笑った。それも鼻で、だ。
「無論、市長や知事、総理にも頼んでいる」
そんなつまらない質問、いらないと言うように吐き捨てた。
「あ、そうですか、失礼します」
ニコッと恐怖じみた凶器の笑顔を見せた。
「で、重要構成員の三名はウイング、ハート、スペード、の三名。リーダーがハートで、北海道大学法学部の高学歴の男だ、指揮能力があり、建築設計もできると言われている。二人目はウイング。リーダーのハートの補佐をしている。同じく高学歴であり、電子工学にたけていて今回のサイバー攻撃も彼が指揮しているだろう。そして三人目、スペード。武術の達人だ。独学で武術を学び、自分流の武術を作ったらしい。情報がなく、正直言えば未知数だ」
「強いのはそれだけか?」
「いえ、ほかのメンバーは全員、この個人流武術の師範代の称号を得ている。また、銃も調べた限りでは400丁ほどあるという情報もある」
「にしても、そんなに強いって言えるのか? ただ頭いいだけだろう?」
ゴロの発言に皆が呆れた。
「ばか、あんた、頭いいのが怖いって言ってんのよ。いいよ、べつにただの脳筋なら隙あるし、でもね、頭いいってことは奴らすべてを考えているのよ、どんなことがあるかも計算に入れて、それでいて強いのよ。これより怖いものは戦争くらいだわね」
「え、そうかな?」
「あほかよ、俺が教えたこと忘れたのか? 知力は武力であるって言ったじゃないか!」
さすがの可部師匠もお怒りだった。
「すいません……」
またしても、怒られ気分が沈むゴロ、その隣で無言を貫くナナであった。
色濃いメンバーにさらに97人の学力も、知力も、武力も申し分ない。来週、どんな戦いが繰り広げられるか予想できないほどに、気が抜けない状況だった。
「っていう感じだな、まあ襲撃についてはもう少し練っていきたい。明日明後日と会議をしてゆっくり決めていこう。やばい状況ではあるが、通信班にはもう少し粘ってもらうとしよう」
二時間にも及んだ会議終了した。
ナナもぼーっとしていたわけでない。一言居士でいる中、その危険さを肌で感じ取っていた。でも、少し引っかかっていたこともあった。
それは、情報の出どころである。
あまりにも端正としすぎている。その情報が一体どうやって手に入ったものなのか、それがナナには不思議でならなかった。
この疑問の予想が、的中しているなど知れずに、一人変えるナナ(クロ)であった。
「PARALLEL」 会議室1 男子トイレにて
「ええ、話しましたよ」
「はいはい、分かっていますよ、それも把握済みですって……ボスもうるさいなあ」
「ええ、一週間後です。行きますよ、まあ我らが組織には関係ないことでしょうに」
「ん? あーまあ、この作戦でどんどんわかっていくこともあるでしょうよ、意外に、面白いこと言った者もいましたし」
「はは、早いですよ! そんなに前のめりでもいいことないと思いますよぉ」
「とにかく、僕の情報はすんなり受け入れてくれましたよ、ありがとうございますね」
「意外とね、彼らも素直でよかったですよ」
「まあ、私たちの計画もようやく始まりますよ!」
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