第三幕


 第三幕



 その日も俺ら捕虜達は早朝から労働ラボータに駆り出され、前人未到のタイガの森を切り開く伐採作業に従事していた。そして西の地平線に夕陽が隠れ始めた頃、腕時計でもって現在の時刻を確認したソ連赤軍の警戒兵カンボーイの一人が、マンドリン短機関銃を頭上で振り回しながら叫ぶ。

「ようし、今日の作業は終了だ! 収容所ラーゲリに戻るぞ! 全員、さっさと整列しろ! ダワイ! ダワイ!」

 どうやら既に、終業時刻である午後四時を迎えていたらしい。そして警戒兵カンボーイの言葉に俺らは作業の手を止めると、伐採に使ったのこぎりと斧を回収してから整列し、収容所ラーゲリへの帰途に就いた。

「ああ、今日もまた疲れたなあ」

 疲労困憊の捕虜達が、ある者は項垂れ、ある者は溜息を漏らしながらとぼとぼと歩き始める。

通訳ペレボーチク! こっちに来い、通訳ペレボーチク!」

 不意に、ソ連赤軍の将校が叫んだ。見ればその将校はこちらを見据え、手招きしながら俺を呼んでいる。

「何の用でしょうか、将校殿」

「これから我々とお前らとで、来週以降の作業に関する打ち合わせを行う。我々と一緒にここに残り、通訳せよ」

 疲れ果てた身体に鞭打って駆け寄ろうとする俺に、将校が命令した。見れば彼の隣には作業大隊の監督を務める須田中隊長のほか、ドイツ軍の将校や、通訳のルッツ兵長も雁首を揃えている。ロシア語が堪能な俺やルッツ兵長などは、こうして通訳の職務を命ぜられる事も少なくない。

「それじゃあ壮太さん、僕らはお先に失礼します」

 そう言った矢三郎は他の捕虜達と一緒に収容所ラーゲリへと足を向け、通訳としてその場に残る事になった俺と別れた。

「ああ、また後で会おう」

 俺もまた別れの言葉を口にすると、将校らの打ち合わせとやらに参加するために雪道を急ぐ。昨夜から降り続いていた小雪は陽が傾くにつれてその激しさを増しつつあり、その場に居合わせた全員の肩や頭にはうっすらと雪化粧が施されていた。ちなみに打ち合わせの面子はソ連赤軍の将校とそれを警護する警戒兵カンボーイが二名、それに須田中隊長とその従卒、更にドイツ軍将校とルッツ兵長の七名に俺を足した、計八名である。

「幸いにも伐採作業が順調なので、来週からはこれと平行して、鉄道を敷設するための整地作業を行う事になった。そこでまず、測量の技術を有する捕虜を、他の収容所ラーゲリから招集する手筈を整える。その上で我が収容所ラーゲリの作業大隊を二つの班に分け、これらの作業に当たらせるように命ずる。班員の選別はお前らに一任するから、今週中にリストにして提出せよ」

 ソ連赤軍の将校はロシア語でそう言うと、俺やルッツ兵長と視線を合わせながら、顎をしゃくった。どうやら彼の言葉を、日本語とドイツ語に訳せと言う事らしい。

「彼は何と言っているのだ?」

 作業大隊の監督である須田中隊長が、被っていた防寒帽ウシャンカを一旦脱いで禿げ頭に浮いた汗を拭ってから日本語で尋ねたので、俺は答える。

「はい、中隊長殿。来週より、他の収容所ラーゲリから測量士を呼んで、鉄道を敷くための整地作業を開始すると言っております。そして、伐採作業と整地作業とで作業大隊を二つに分けるので、その人員の一覧を今週中に作成せよとも言っております」

 俺は即座に、日本語に訳して聞かせた。隣に立つルッツ兵長もまた、自国の軍の将校に、ソ連赤軍の将校の発言をドイツ語に訳して聞かせている。

「なるほど、作業大隊を二つに分ければいいのだな」

 再び禿げ頭の汗を拭った須田中隊長が、うんうんと頷きながら得心した。そして通訳である俺とルッツ兵長を間に挟みつつ、ソ連赤軍の将校と日本軍の須田中隊長、それにドイツ軍の将校らを交えた打ち合わせは順調に執り行われる。

「よし、これで大体の事は決まったな。通訳ペレボーチク、ご苦労だったぞ」

 やがて一時間ばかりも経過した頃になって、ようやく打ち合わせは終了した。気付けばすっかり陽も暮れ、小雪が舞うタイガの森はとっぷりと宵闇に沈んでいる。

「ああ、やっと帰れるのか」

 俺は小声で呟くと、ホッと安堵の溜息を漏らした。陽が暮れると同時に気温はぐっと下がり、あまりの寒さにぶるっと背筋が震える。

「それではこれより、収容所に帰還する。車を回せ」

 ソ連赤軍の将校がそう命じると、部下である警戒兵カンボーイの一人が運転する軍用車輌、GAZ-67が発動機を唸らせながらこちらへと近付いて来た。GAZ-67は米国のフィアット・クライスラー・オートモービルズ社製のジープを参考にして開発された小型軍用車輌で、俗に『ソ連版ジープ』とも呼ばれる四輪駆動車である。しかしここで問題になるのは、このGAZ-67が四人乗りな事であった。

「この車では、全員は乗れない。将校でも下士官でもない者は乗車せず、歩いて帰れ」

 須田中隊長が高圧的な口調でもってそう言うと、俺とルッツ兵長をじろりと睨みつける。この場に居合わせた者で下士官以下の者となれば、それは俺とルッツ兵長、それにソ連赤軍の二名の警戒兵カンボーイだけだ。しかも警戒兵カンボーイの一人はGAZ-67の運転手を務めているので、自然とこの場に残される者が決まる。

「後部座席に三人乗せれば、五人まではなんとか車で帰れる筈だ。申し訳無いが、通訳ペレボーチクの二人は徒歩でもって収容所ラーゲリまで帰還せよ。監視として、フルマノフ二等兵も二人と行動を共にするように」

 若干恐縮しているソ連赤軍の将校の命により、通訳である俺とルッツ兵長、それに警戒兵カンボーイの一人であるアントン・オレーゴヴィチ・フルマノフ二等兵が徒歩で帰還する事になった。つまり要約すれば、立場の弱い者から順に三人が置き去りにされる格好になったのである。

「それでは、我々は先に帰還する。後藤一等兵、ルッツ兵長、言っておくが、くれぐれも脱走しようなどと言う気は起こさないように。そんな事をすれば、我が作業大隊全体に連帯責任が生じるのだからな」

 そう警告した須田中隊長はGAZ-67に乗り、ソ連赤軍の将校ら四人と共に、収容所ラーゲリの方角に向かって走り去って行ってしまった。取り残された俺とルッツ兵長、それにアントン二等兵の三人は、小雪が降りしきる闇夜のタイガの森にぽつんと立ち尽くす。

糞野郎ヨッポイマーチめ」

 貧乏くじを引く格好になったアントン二等兵が、遠退いて行くGAZ-67の後姿を睨み据えながら忌々しそうに呟いた。彼が言う糞野郎ヨッポイマーチとは、きっと俺ら三人に徒歩での帰還を命じた須田中隊長の事だろう。俺だって、許されるのであれば、あのいけ好かない禿げ頭の中隊長を大声で糞野郎と呼んでやりたい。

 アントン・オレーゴヴィチ・フルマノフ二等兵はブラーツク第二十三収容所に所属する警戒兵カンボーイであり、また同時にソ連赤軍の兵卒でもあった。ぱっと見は長身で体格が良くて厳つい顔立ちの屈強な兵士だが、どうにも頭が悪くて動作が鈍いために、同僚達からは『のろまのアントン』と呼ばれている。

 警戒兵カンボーイ達と捕虜達との関係は、どうにも微妙であった。互いに恨み合ってもいないが、かと言って必要以上に馴れ合いもしない。最初の頃こそ警戒兵カンボーイ達は捕虜達を文字通り警戒し、逃亡の気配をうかがわせれば躊躇無くこれを射殺したものの、この二年間で両者の距離感は否応無しに縮まって来ている。つまりソ連赤軍の兵卒が捕虜である日本軍やドイツ軍の将校の命令に従うなどの逆転現象がそこかしこで起こり、指揮系統に若干の矛盾が生じているのだ。

 まあ何にせよ、俺達三人が徒歩でもって収容所ラーゲリへと帰還しなければならない事に変わりはない。

「災難だったな、アントン」

 そう言ってアントン二等兵の肩を叩いたのは、ルッツ兵長であった。ルッツ・アルトマイアー兵長はドイツ軍の捕虜の快活な青年で、俺よりも二年半余りも早い昭和十八年の二月から、他のドイツ軍捕虜達と共にこのシベリアの地に抑留されている。

「とにかく、歩いて帰れと言われたからには歩いて帰ろうじゃないか、なあ」

 アーリア人らしい端正な顔立ちのルッツ兵長は笑いながらそう言うと、タイガの森の一本道を歩き始めた。

「そうは言うけど、収容所ラーゲリは遠いぜ。しかも俺達は、灯りのカンテラも持っていないじゃないか」

 俺はそう言って溜息を漏らすが、ルッツ兵長は挫けない。

「まあそんな事言わずに、歩こうや。歩けばその内、どこかには辿り着くさ」

 やはり笑いながらそう言ったルッツ兵長は、軽快に雪道を歩く。そしてマンドリン短機関銃を手にしたアントン二等兵と俺の二人もまた、彼に続いて雪降る一本道を歩き始めた。

「寒いな、壮太」

「ああ、寒いなルッツ」

 俺達三人は互いに声を掛け合いながら、真っ暗な宵闇に包まれたタイガの森の雪道を、ねぐらである収容所ラーゲリ目指して歩き続ける。空から舞い落ちる小雪は次第にその激しさを増し、吹雪の気配がひしひしと迫り来つつあった。このままでは遠からず、吹き荒ぶ風と雪によって視界が遮られてしまうだろう。

「ああ、糞! このままじゃ俺ら全員、ここで凍え死んじまう! あの糞野郎ヨッポイマーチの腐れ少尉め!」

 最初にそう言って音を上げたのは、ソ連赤軍のアントン二等兵だった。彼は身体は大きいが学が無く、根は純朴な好青年なのだが、気が短くて堪え性が無い点が珠に瑕である。そしてアントン二等兵は彼が言うところの「糞野郎ヨッポイマーチの腐れ少尉」、つまり須田中隊長を口汚く罵りつつ、忌々しそうに唾を吐き捨てた。

「そうカッカするなよ、アントン。幾ら怒っても、却って疲れるだけだぞ」

 俺はそう言って宥めようとするが、アントン二等兵は興奮冷めやらぬ様子で地団駄を踏み、周囲に降り積もった雪を蹴散らかす。

「糞、もう我慢出来るもんか! こうなったら近道するぞ! おい日本人ヤポンスキー! ドイツニェーメツ! こっちに来い!」

 アントンはそう叫ぶと踵を返し、モミやカラマツの大木が生い茂る森の中に足を踏み入れようとした。どうやら手付かずの原生林であるタイガの森を横断する事によって、収容所ラーゲリへの路程を短縮しようと言う魂胆らしい。

「やめておけよ、近道なんて。こんな真っ暗闇の中をわざわざ森の中になんて入ったら、迷子になって遭難するのがオチだぞ」

「そうだそうだ、このまま道沿いに帰ろうぜ」

 ルッツ兵長と俺は抗議するが、自分の提案を否定される格好になったアントン二等兵はますます興奮し、意固地になる。

「うるせえ、俺に指図するな! 俺は赤軍の兵士で、お前らは捕虜だ! その事実を理解したら、さっさと俺について来い! ダワイ! ダワイ!」

 アントン二等兵はそう言うと、ずかずかと大股でもってその場を歩み去り、森の中へと姿を消した。そこで俺とルッツ兵長もまた仕方無く、彼の後を追って、吹雪に煙る木々の狭間へと足を踏み入れる。ちなみにソ連赤軍兵がやたらと口にする「ダワイ」とは、ロシア語で何かを「やれ」とか「しろ」とか言う意味の抽象的な言葉で、他人を急かす際や鼓舞する際などには必ずと言っていいほど耳にした。

「おいアントン、これ本当に大丈夫なんだろうな?」

 ルッツ兵長は訝しげにそう言うと、寒さに震えながら顔色を曇らせる。もともと色白の彼の顔は降りしきる雪にまみれ、眉毛も睫毛も真っ白に氷結し、唇からは血の気が失せ始めていた。俺ら三人が森の中に足を踏み入れた頃から更に天候が悪化し始めたので、彼が身の安全を危惧するのも至極当然の帰結と言える。

 しかし先導するアントン二等兵は口を閉じたままであり、こうなってしまっては、彼の後について黙々と歩き続けるしか選択肢は残されていない。下手に逆らったり逃走を図ったりすれば、マンドリン短機関銃によって蜂の巣にされる事すらも、決して有り得ない話ではないのだ。事実、ソ連赤軍の警戒兵カンボーイの機嫌を損ねたと言うだけで射殺された捕虜も、過去に例が無い訳ではない。

「なあ、収容所ラーゲリは未だ見えて来ないのか?」

 時間的にも距離的にももう収容所ラーゲリに辿り着いている筈の頃になって、ルッツ兵長に続いて俺もまた、ようやくアントン二等兵に疑問を呈した。夜の森は暗く寒く、しかも折からの吹雪と強風によって、まるで視界が利かない。降り積もる雪と木の根に足を取られて何度も転びそうになりながら、俺もまたルッツ兵長と同じく、自らの身の安全を危惧する。

 すると不意に、前を歩いていたアントン二等兵が足を止めた。

「どうした、アントン?」

 俺が尋ねると、やや狼狽した表情の彼はまるで他人事のようにぼそりと呟く。

「迷った」

 その一言だけで、状況は充分に伝わった。どうやら俺らは、本格的に遭難してしまったらしい。

「迷った? こんな吹雪の森の中で? このままじゃ俺達三人とも、凍死しちまうぞ!」

 ルッツ兵長がアントン二等兵に詰め寄るが、そんな事をしたからと言って事態は好転しない。それどころかこうして立ち止まっていると、あっと言う間に体温を奪い去って行くほどの雪と風による寒さでもって、ぶるぶると震えながら凍えるばかりである。

「それで、これからどうするよ? 前に進むか? 来た道を引き返すか? それとも、雪濠でも掘ってここで一夜を明かすか?」

「前に進んでも、更に森の奥へと迷い込むだけだ。足跡を辿って、来た道を引き返そう」

 俺の問いに、ルッツ兵長が答えた。しかし背後を振り返ってみると、俺らの足跡は既に雪に埋まっていて、それを辿って元来た道に引き返す事も出来そうにない。

「どうするんだアントン! こうなったのも、全部お前のせいだぞ! このままこんな所で凍死するなんて、俺は御免だからな!」

「うるせえ、黙れ! 俺は何も悪くねえ! がたがた文句ばかりぬかしてやがると、撃ち殺すぞ!」

 ルッツ兵長とアントン二等兵とが、激しい口論になる。俺もまた遭難の原因を作ったアントン二等兵に言いたい事が幾らもあったが、口論に加わったところで腹が減るだけなので、寒さに震えながらジッと黙っていた。ルッツ兵長とアントン二等兵との口論は、俺が黙っている間も絶え間無く続く。

 その時、何やら聞き慣れない音が俺の耳に届いた。

「何だ?」

 俺は眉間に皺を寄せながら視線を巡らせ、周囲の様子を伺う。俺の聞き間違いでなければ、耳に届いたその音は風が森の中を吹き抜ける際の天籟などではなく、ごうごうと地の底から響き渡るような獣の唸り声に相違ない。そして眼を凝らせば吹雪に煙る木々の狭間から、その声の主がゆっくりと姿を現した。唸り声はより大きくなり、まるで耳元で発されたのかと思うほどはっきりと聞こえる。焦げ茶色の体毛に覆われたそれは身の丈三mにも達する巨大な獣、つまりシベリアの象徴の一つたる、ひぐまそのものであった。そのひぐまが至近距離から、体躯に比べてやけに小さな眼をぎらぎらと輝かせながら、こちらをジッと睨み据えている。

「熊だ!」

 俺は思わず、日本語で叫んだ。しかしその意味を理解出来ない筈のルッツ兵長とアントン二等兵の二人も、口論を中断してこちらを振り返る。

「блядь《ブリャーチ》!」

 巨大なひぐまの接近に気付いた二人が、ロシア語でもって驚嘆と侮蔑の言葉を叫んだ。しかしその間もごうごうと唸り声を上げて眼を輝かせながら、ひぐまはゆっくりのしのしと、こちらに近付いて来る。どうやら脆弱な人間である俺ら三人を、冬眠のために必要な栄養源としか考えていないらしい。

「アントン! 撃て!」

 ルッツ兵長にそう命じられたアントン二等兵がハッと我に返ると、手にしたマンドリン短機関銃に銃弾を装填しようとした。しかし気ばかりが焦って手元が狂い、なかなかボルトを引く事が出来ない。

「早く撃て、アントン!」

「うるせえ、黙れ! 俺に指図するな!」

 ひぐまが残り二十mばかりまで接近したところで、ようやくアントンはボルトを引いて初弾を薬室に装填する事に成功し、射撃の準備が整う。そして急いでマンドリン短機関銃を構えて引き金を引くと、眩い閃光と共にパパパパパパンと連続して銃弾が射出され、その内の数発がひぐまの巨大な体躯に命中した。

「やったか?」

 しかし硬く分厚い毛皮に覆われたひぐまの巨体は、短機関銃から射出された拳銃弾程度ではびくともしない。むしろ興奮したひぐまはより獰猛な獣と化し、天に向かって咆哮しながら更なる速度でもって接近して来る。

「逃げろ!」

 誰ともなくそう叫ぶと、俺ら三人は我先にと、その場からの逃走を開始した。しかし雪が降り積もった森の中を走る速度は人間よりもひぐまの方が早く、しかも背中を向けるとひぐまはこちらを自分よりも弱い存在だと判断して、確実に仕留めようと襲い掛かって来る。こうなってしまってはいつ追いつかれるかも分からず、それはまさに、絶体絶命の状況としか言いようがない。

「!」

 すると次の瞬間、夜の吹雪の森に一発の銃声が轟いた。それと同時に、今にも俺らに襲い掛からんとしていた巨大なひぐまが、殴られた野良犬の様な悲鳴と共にその動きを止める。そして更に二発目の銃声が轟いたかと思えば、今度はひぐまの頭部に真っ赤な血飛沫が飛び散るのがはっきりと見て取れ、白い雪が鮮血に染まった。

「早く逃げろ!」

 不意に聞き慣れない声が木々の狭間に反響したので、俺は振り返る。するとそこには、銃身が黒光りする小銃を構えた小柄な人影が、一匹の犬を付き従えながら立っていた。声と体格からして、おそらくその人影は女性である。そしてその女性が小銃のボルトを引き戻し、薬室に装填された三発目の銃弾を射出すると、それを喰らったひぐまは悲鳴を上げて怯み、後退った。流血しながら唸り声を上げる巨大なひぐまと、小銃を構えた小柄な女性とが、互いに睨み合ったまま対峙する。

 最終的に根負けしたのは、ひぐまの方であった。口惜しそうに一鳴きしてから踵を返したひぐまは、森の奥深くへとその姿を消す。どうやらオレとルッツ兵長、それにアントン二等兵の三人は、ひぐまの餌にならずに済んだらしい。

「大丈夫か?」

 女性は構えを解き、小銃の薬室に装填されていた銃弾をボルトを引いて抜きながら、俺らに尋ねた。身に纏った外套シューバの頭巾の下から垣間見えるその顔立ちは幼く、どうやら彼女は未だ十代か、せいぜい二十代前半の年端も行かない少女らしい。

「ああ、大丈夫だ。助かったよ」

「礼を言うよ、ありがとう」

 安堵の溜息を漏らしながら感謝の言葉を述べる俺らの方に歩み寄って来た少女は、幼さの残る声で「どういたしまして」と言った。見たところ彼女は肌の色が薄い白人種で、風になびく長い金髪と、南国の大海原さながらに深い青色の瞳が美しい。そして彼女の背後に付き従う大きな犬は、まるで野生の狼の様にも見える。いや、もしかしたらそれは犬などではなく、少女によって飼い慣らされた狼そのものなのかもしれない。

「それで、あなた達はこんな所で何をしているの? この辺には人家も無いのに」

 小銃を肩に担ぎながら、少女が尋ねた。そこで俺らは、自らの素性を語る。

「この先に、ソ連赤軍の収容所ラーゲリがあるだろう? 俺はそこに収監されている日本軍の捕虜で、名前は後藤壮太。こっちは同じく捕虜で、元ドイツ軍兵士のルッツ。それで、あっちにいるのは赤軍の警戒兵カンボーイのアントンだ」

収容所ラーゲリ? そう言えば、そんな施設もあったかしら。あたしはイエヴァ。この子はプラーミャ。この森に住んでいるの。よろしく」

「住んでる? この森に?」

 こんな辺鄙な森の中に人が住んでいるなんて話は、聞いた事がない。

「そう、この森に。それで、その収容所ラーゲリが在るのはこことは反対の方角だけれど、どうしてあなた達はこんな所にいるの?」

「反対の方角って……ああ、畜生、やっぱりそうか。実は俺達はこの吹雪で道に迷ってしまって、困ってたんだ。だからイエヴァ、もし良ければ、収容所ラーゲリまで道案内してくれないか?」

 俺が要請すると、イエヴァと名乗った少女は暫し逡巡してから答える。

「もう暗いし、この吹雪では凍えてしまうから、それは出来ない。その代わり、あたしが住んでいる別荘ダーチャまで案内しよう。そこで吹雪が止んで朝になるまで、お茶でも飲みながらゆっくり休んで行けばいい。それでどうだ?」

「いいね、そうしよう」

「そうだな、それがいい」

 イエヴァの提案に、俺とルッツ兵長の二人は即答で同意した。しかしアントン二等兵だけは、首を横に振りながら俺らの言葉に異を唱える。

「いやいやいやいや、駄目だ駄目だ駄目だ! 民間人と捕虜とを所長の許可無く交流させる事は、収容所ラーゲリの規則で禁止されているんだぞ! もしお前らが勝手にその女の別荘ダーチャとやらに行った事がバレたら、俺が所長から処罰されちまう!」

「堅いなあ、アントンは。そんな事、この中の誰かがわざわざ上官に報告しなきゃバレやしないって。だから夜が明けて収容所ラーゲリに帰ったら、森の中で雪濠を掘って俺ら三人だけで一夜を明かしたって事にして、全員で口裏を合わせればいい」

「まあ、そうなんだが……」

「お前だって、こんな所で凍死したくないだろ?」

 俺のその一言が決め手となり、アントン二等兵も渋々ながら、首を縦に振った。

「分かった、分かったよ。確かに俺だって、こんな暗い森の中で野垂れ死ぬのは御免だからな」

「よし、決まりだ。それじゃあイエヴァ、悪いけれどその別荘ダーチャまで案内してもらえるかい?」

 ルッツ兵長が要請すると、イエヴァは「ついて来い」とだけ言って歩き始めたので、俺ら三人はその後を追う。すると不意に、降り積もった雪の上に残された自身の足跡を辿りながら、彼女は外套シューバのポケットから何か小さな物を取り出した。そしてその小さな物を口に咥えると、ぴいと吹き鳴らす。つまりそれは、表面に細かな細工が施された、動物か何かの骨で出来た美しい笛であった。

「それは?」

「これは『導笛しるべぶえ』だ。これを吹けば、帰り道が分かる」

 最初はイエヴァが何を言っているのかまるで理解出来なかったが、すぐに俺の疑問は氷解する。と言うのも、彼女が笛を吹く度に、雪に覆われた地面がぼんやりと青白く光り輝きだしたのだ。そしてその光が一本の道となり、夜の森の奥深くへと続いて行く。

「この光の先に別荘ダーチャが在るから、これを辿れば迷う事はない。さあ、凍える前に早く帰ろう」

 一体どんな仕組みや仕掛けなのかはさっぱり分からないが、この光る道を辿って行けば良いと言うのなら、こんなに楽ちんな事はない。

「これは、どうなっているんだ?」

 訝しげに、ルッツ兵長が光り輝く雪を手で掬い上げてみた。しかし掬い上げた雪はそれ以上輝く事はなく、どうやら雪そのものが光っているのではないらしい。つまり雪や土と言った物体ではなく、もっと抽象的な、足元の空間が光を発しているかのような状態なのだ。

「まあ、どうだっていいじゃないか。細かい種明かしは後回しにして、とにかく今は先を急ごう。いつまでもこんな所につっ立っていたら寒くてかなわんし、それに何よりも、腹が減った」

 そう言った俺ら三人は、イエヴァの後について森の中を歩き始める。夜の森は相変わらず暗く、吹雪が止む気配は一向になかったが、導笛しるべぶえの音色と別荘ダーチャまでの道を照らし出す青白い光に導かれるまま歩き続ければ、道に迷う事はない。

「さっきの熊は、死んだのか?」

 最後尾を歩くアントン二等兵が、誰に尋ねるでもなくぼそりと呟いた。

「いや、わざわざ殺す必要もないから、敢えて急所は外しておいた。だからたぶん、あの程度の傷で死ぬ事はない筈だ」

 先頭に立つイエヴァが律儀に答え、彼女がプラーミャと呼んだ狼犬が周囲をうろうろと歩き回り、鼻をくんくんと鳴らしながらしきりに俺らの匂いを嗅いでいる。どうやら珍客である俺とルッツ兵長とアントン二等兵の三人が、主人であるイエヴァにとって危険な存在ではないかどうか警戒し、その安全性を匂いによって判断しようとしているらしい。

「それはKar98kか。懐かしい銃だ。俺も昔使っていた」

 今度は、ルッツ兵長が呟いた。彼が言う『Kar98k』とはイエヴァが担いでいる小銃の名称で、大東亜戦争以前からドイツ軍が正式採用している主力小銃である。

「この銃か? これは、魔女から手渡された物だ。たぶん、どこかのドイツ兵の死体から奪い取って来た物だろう」

「魔女? 何だ、魔女って?」

 イエヴァの口から聞き慣れない単語が漏れたので、俺はその『魔女』と言う単語を繰り返した。しかし彼女は、今は未だ明言を避ける。

「それは、後で説明する。ほら、別荘ダーチャが見えて来たぞ」

 吹雪に煙るタイガの森の先の、木々が伐採された開けた土地を指差しながら、イエヴァが言った。するとそこには一軒の大きな屋敷が建っており、どうやらそれが、彼女が言うところの別荘ダーチャらしい。

「なんだ、想像していたよりもずっと立派な建物じゃないか」

 そう言ったルッツ兵長の言葉通り、その別荘ダーチャは堅牢かつ荘厳な煉瓦造りの屋敷で、俺ら捕虜達が寝起きしている収容所ラーゲリの粗末な兵舎とは比べ物にならないほどの威容を誇っている。

「それじゃあイエヴァ、さっそく中に入れてくれ。早く身体を温めたい」

 俺はそう言うと、凍えた身体をさすって温めながら別荘ダーチャの出入り口らしき門扉に近付いた。するとイエヴァは、そんな俺の肩を掴んで行く手を遮る。

「待て、こっちの母屋は駄目だ。魔女が起きてしまう。悪いが、裏の離れの方に廻ってくれないか? そっちにも暖房設備と毛布があるから、寒さは凌げる筈だ」

「あ、ああ」

 イエヴァに促されて、俺とルッツ兵長とアントン二等兵の三人は、母屋の裏の離れへと移動し始めた。彼女がまた『魔女』と言う聞き慣れない単語を口にした事を不審がるも、俺らは敢えてその事については尋ねない。

「これが離れか」

 荘厳な煉瓦造りの母屋に比べるといささか見劣りするが、それでも木造平屋建ての離れも、それなりに堅牢な造りの立派な建築物であった。その見た目と規模から察するに、おそらくは母屋の管理とそこに住む住人の世話をする、下男や下女と言った使用人が住むための小屋として建てられたのだと推測される。

「すぐにペチカに火を入れる。少しだけ待ってくれ」

 離れに足を踏み入れたイエヴァはそう言うと、ロシア式の暖炉であるペチカに火口の松ぼっくりと薪を放り込み、マッチを擦って火を点けた。すると瞬く間に薪が煌々と燃え上がり、さほど広くはない離れの空気がじんわりと温まり始める。

「ああ、助かった」

 燃え上がるペチカの火を見つめながら、俺はホッと安堵の溜息を漏らした。これでもう、暗く冷たいタイガの森の奥深くで惨めに凍え死ぬのではないかと怯える心配はない。

「ありがとう、イエヴァ。それで、その、出来れば何か食べる物を分けてもらえると助かるんだが……」

「ああ、そうか。それじゃあ、母屋の台所から何か持って来る。ここでちょっと待っててくれ」

 そう言って、イエヴァは離れを後にした。薄暗い離れの中には、俺とルッツ兵長とアントン二等兵、それに狼犬のプラーミャの三人と一匹だけが残された。攻撃的な外見の狼犬であるプラーミャは、その大柄な体躯に似合わず人懐っこい性格らしく、俺ら三人に甘えるようにくんくんと鼻を鳴らしながらしきりに身体を擦り付けて来る。

「こんな所にこんな屋敷が在るなんて、聞いた事がないぞ。アントン、お前は知っていたか?」

「いや、俺も聞いた事がない」

 プラーミャの頭を撫でながらの俺の疑問に、アントン二等兵がぶっきらぼうに答えた。

「言っておくが、俺も知らなかったぞ」

 ルッツ兵長もまた首を横に振りながらそう言ったので、どうやら俺ら三人の中の誰一人として、この別荘ダーチャを知らなかったらしい。つまりブラーツク第二十三収容所に俺が収監されてから二年、ルッツ兵長が収監されてから実に四年半が経過していると言うのに、その間誰も、この別荘の存在に気付かなかったと言う事になる。

「待たせたな。今すぐプロフを温めてやるぞ」

 大きな鍋と皿を抱えたイエヴァが、小走りでもって離れへと戻って来た。そして鍋をペチカの上に置くと、その中身を温め始める。すると次第に湯気が湧き上がり、米が炊かれる際の甘く香ばしい匂いが、狭い離れの中に漂い始めた。

「さあ、食べてくれ」

 そう言ったイエヴァが鍋の蓋を取ると、美味そうで懐かしい匂いが室内に充満し、俺の口からはだらだらと涎が溢れ出る。鍋の中身はプロフ、つまりロシア流の炊き込みご飯であり、こんな贅沢な料理が収容所ラーゲリで供された事は一度もない。

「米だ!」

 俺の口から、日本語で感嘆の言葉が漏れた。なにせシベリアに抑留されてからこっち、炊き立ての米と対面するのは実に二年ぶりの事なのだから、思わず日本語で叫んでしまったのも致し方のない事と言える。

「本当に、米だ」

 ルッツ兵長とアントン二等兵の二人もまた、鍋の中身に驚きを隠せなかった。そして陶器の皿に盛られたプロフをイエヴァから手渡されると、俺ら三人は恥も外聞もなく、我先にとがっつき始める。

「美味い、美味い」

 炊き立てののプロフは、本当に涙が出るほど美味い。しかも俺らが収監されている収容所ラーゲリでは滅多に食えない、食えたとしてもほんの僅かな欠片ほどでしかない獣の肉がたっぷりと混ぜ込まれているのだから、尚更だ。

「この物資不足のご時勢に、よくこんな米と肉が手に入ったな」

 アントン二等兵が、口の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれたプロフをごくりと嚥下してから怪訝そうに尋ねた。すると尋ねられたイエヴァは、離れの室内が充分に暖まったためか、羽織っていた外套シューバを脱ぎながら答える。

「米は、魔女がどこからか調達して来た。たぶん、どこかの軍か党の食糧貯蔵庫に忍び込んだんだと思う。肉は、昨日あたしが仕留めたばかりのユキウサギの肉だ」

「兎の肉か……」

 野生の兎の肉を食べるのは生まれて初めての経験だが、これが野趣溢れる味で、米の甘味との相乗効果もあってなかなかに美味い。そしてふと見れば、外套シューバを脱いだ事によって露になったイエヴァの首周りから胸元にかけてには、植物のつたを象ったかのような複雑な模様の刺青が彫られているのが見て取れた。若い女性の柔肌にはあまり似つかわしくない、高圧的で威圧的な意匠の、いかつい刺青である。

「まさか、こんな所で米と肉が食えるなんてなあ。ああ、美味くてたまらん」

 二年ぶりの米と肉の極上の味わいに、俺は歓喜の声を上げた。米は甘く、肉は香ばしく、とにかく収容所ラーゲリでの粗食に慣れ切った今の俺ら捕虜達にとっては、これ以上のご馳走はない。

「美味いか、それは良かった」

 首周りに刺青が彫られたイエヴァが、そう言って微笑んだ。

「ふう、美味かったよ。ごちそうさん」

 そう言った俺はげっぷを漏らし、空になった皿をペチカの上に置く。俺に続いてルッツ兵長とアントン二等兵の二人も、やがてプロフを食べ終えた。

「もういいのか? なんなら、未だ他にも食べ物はあるぞ?」

「ああ、もう充分だ。久し振りに腹一杯米が食えたんで、満足だよ。本当にありがとう」

 俺が礼を述べると、イエヴァは空になった鍋と皿を片付けながら尋ねる。

「壮太とルッツの二人は、日本軍とドイツ軍の捕虜だと言ったな。戦争はとっくの昔に終わったのに、未だ祖国に帰れないのか?」

「そうなんだよ、俺らを収監しているソ連赤軍と共産党の連中が意地悪でね。戦争はもう二年前に終わったって言うのに、俺もルッツも、こんなシベリアの僻地にいつまでも抑留されたままだ」

 イエヴァの素朴な問いに、俺は自嘲気味に笑いながら答えた。

「それでイエヴァ、キミはこの別荘ダーチャに住んで永いのかい? ご家族は母屋に? それともここを別荘ダーチャと呼んでいるって事は、普段はここ以外の、どこか別の場所に住んでいるって事なのかな?」

 俺が問うと、イエヴァは寂しげな顔をする。

「あたしも戦争が始まったばかりの頃から、ずっとここに住んでいるの。魔女によって、この森から外には出られない呪いを掛けられてね」

「呪い? 呪いって?」

 聞き慣れない単語が増えたので、俺は問い返した。

「そう、呪い。この別荘ダーチャと森に縛られる、魔女によって掛けられた呪い。この呪いが解けない限り、あたしはここで、魔女の下僕として生きて行くしかないの」

 魔女だとか呪いだとか、イエヴァの言っている事はさっぱり意味が分からない。

「ほら、これ。あなたも気付いていたでしょう?」

 そう言いながら、イエヴァはシャツの第一ボタンを外して襟を拡げ、彼女の首周りから胸元にかけて彫られた刺青を露にする。

「これは、従属の首輪。魔女によって呪いが掛けられた事の、動かぬ証拠。この首輪が消えるまで、あたしが自由になる事はないの。そしてそれはきっと、あたしが死ぬまで続くんでしょうね」

「はあ……」

 如何に解説されても、やはりイエヴァが言っている事の意味が分からず、プロフを食い終えたばかりの俺ら三人は困惑するばかりだ。だいたい、魔女だとか呪いだとか言ったふわふわとした非現実的な単語は、子供の頃に読んだおとぎ話の中でしか聞いた事がない。

 するとその時、何かの気配を感じ取ったのか、狼犬のプラーミャが離れの出入り口に向かって吠え立て始めた。

「いけない! 魔女が起きて来た! あなた達は隠れて!」

 そう叫んだイエヴァに促され、何が何だか分からないまま、俺らは離れの隅に置かれたベッドの陰に急いで身を隠す。そして大の大人の男三人が狭い部屋の隅にぎゅうぎゅうになりながら身を隠した直後、離れの出入り口の扉がゆっくりと開き、何者かが入室した。狼犬のプラーミャが、更に大きな声でもって吠え、唸る。

「イエヴァ、そこにいるの?」

 唸るプラーミャを無視して、入室した何者かがイエヴァの名を呼んだ。その声は意外にも、穏やかで優しそうな大人の女性の声である。

「はい、ヴァレンティナ様。ここにいます」

 イエヴァがかしこまるようにそう言って、彼女の名を呼んだ女性にうやうやしく頭を下げた。俺は身を隠したベッドの陰から、声の主の様子をそっとうかがう。

「白い……」

 ヴァレンティナと呼ばれたその女性は、最初は人間大の雪の塊が立っているのかと勘違いしたほど、全身が真っ白だった。長身で豊満な彼女の肢体は染み一つ無い肌も長く艶やかな髪も透き通るほど真っ白で、その上白い絹のドレスを身に纏っているものだから、まるで頭の天辺から足の爪先までが発光しているのかと見紛うほどの白さである。しかもその白さの中で、爛々とした両の瞳と紅が引かれた唇だけが真っ赤に輝いているのだから、それはこの世のものとは思えないほど妖艶な絶世の美女と言う他に表現する言葉が無い。

「何かご用でしょうか、ヴァレンティナ様」

「ええ、ちょっと町まで出掛けて来るから、お留守番していてちょうだい。今日はもう、食事の用意はしなくても構わないから」

「かしこまりました」

 再び、イエヴァがうやうやしく頭を下げた。彼女の足元では、狼犬のプラーミャがヴァレンティナに向かって恨めしげに牙を剥き、ぐうぐうと唸り声を上げ続けている。どうやらプラーミャは、ヴァレンティナの事が嫌いらしい。

「ああ、ところでイエヴァ」

 踵を返して離れを出て行こうとしたヴァレンティナが、思い出したように振り返る。

「ここに誰か、男の人がいなかった? なんだか男臭い匂いがしたのだけれど」

「いえ、ここにいるのはあたしとプラーミャだけです。他には、誰もいません」

「ふうん、そう。だったら、そこに転がっているのは何かしら?」

 ヴァレンティナはそう言うと、ペチカの上の、空になった鍋と皿を指差した。言うまでもなく、俺とルッツ兵長とアントン二等兵がプロフを食べるのに使った鍋と皿である。

「これは……お腹が空いたので、昨夜の残りのプロフをあたしが食べました」

「一人でお皿を三枚も使って?」

「……はい」

 そう言って、イエヴァはヴァレンティナの追及をかわそうと試みた。しかしこんなばればれの嘘に、大の大人が騙されるとは思えない。

「そうなの……まあ、そんな事は今はどうでもいいんじゃないかしらね。それじゃあ、あたしは出掛けて来るから、お留守番よろしく」

 明らかに嘘と分かるイエヴァの言葉を信じたのか、それともこれ以上追求する必要もないと考えたのか、ヴァレンティナはそう言い残すと離れから姿を消した。開け放たれたままの扉の向こうでは、吹雪の空に大粒の雪が舞い続けている。

「もういいぞ、三人とも出て来い」

 イエヴァに促された俺ら三人は、ベッドの陰から這い出て来た。

「今のは?」

「あれが、魔女。大祖国戦争が始まった六年前からあたしを下僕として使役しながら、この別荘ダーチャに住み着いている魔女ヴァレンティナだ」

 そうは言われても、未だ俺ら三人は、魔女だとか呪いだとか言った非現実的な単語の意味を理解出来ない。

「いくら魔女とは言っても、それはその、何かの例え話みたいなもんなんだろ? まあ確かに、この世のものとは思えない風貌の女だったがな。でもまさか、おとぎ話に出て来るバーバ・ヤーガみたいに、本当に魔法を使う訳でもあるまい」

 ルッツ兵長は笑いながらそう言うが、イエヴァは至って真剣だ。

「違う! 例え話なんかじゃない! あれはこの地でもう何百年も生き続けている魔女なんだ! 勿論、そんな話は簡単には信じてもらえないだろうが……。だがそれでも、信じてくれ! あれは本当に魔術を操る、正真正銘、本物の魔女なんだ!」

「そ、そうか」

 必死なイエヴァの剣幕に、俺ら三人は気圧けおされる。彼女が何の根拠も無い法螺を吹いているとも思えなかったが、かと言って、その発言の全てが真実であると認められるほどの担保も無い。

「……まあいい。今夜は魔女もいなくなったから、あなた達はここで寝ろ。そこの箪笥の中に何枚か毛布があるから、それを被って寝ればいい。ペチカの薪を絶やさなければ、凍える心配もないだろう」

 離れの壁際に置かれた箪笥を指差しながら、イエヴァが言った。骨董品と言ってもいいほど古びたその箪笥を開けると、確かに薄い毛布が数枚、丁寧に折り畳まれた状態で収納されている。

「ああ、ありがとう。それでイエヴァ、キミは?」

「あたしとプラーミャは、母屋で寝る。深夜に魔女が町から帰って来た時に、留守番している筈のあたしがいなかったら、怪しまれるからな。それじゃあまた明日、陽が昇ったら迎えに来る。おやすみ」

 そう言い残すと、Kar98k 小銃を肩に担いだイエヴァは狼犬のプラーミャを連れて、離れを後にした。出入り口の扉が閉まり、離れには俺とルッツ兵長とアントン二等兵の三人だけが残される。

「……寝るか」

 プロフを食って腹も膨れたし、俺らは今夜はもう、さっさと寝る事にした。部屋を温めるためにペチカに新たな薪を放り込むと、アントン二等兵はベッドの上で、俺とルッツ兵長の二人は板敷きの床の上で、それぞれの毛布に包まって床に就く。

「おやすみ」

 俺は日本語でそう言うと、そっと眼を閉じた。すると程無くして、アントン二等兵はごうごうと豪快ないびきを掻き始める。どうやら仲間内からは『のろまのアントン』と揶揄される彼も、寝る時ばかりはのろまではなかったようで、誰よりも早く夢の国へと旅立って行ってしまったらしい。自分のせいで吹雪の森で遭難して死に掛けたと言うのに、まったく呑気なものだ。

「壮太、未だ起きてるか?」

「ああ、起きてる。何だ、ルッツ?」

 やがて一時間ばかりも経過した頃、離れの床の上で横になったまま、ルッツ兵長が俺に尋ねる。

「さっきのイエヴァの話、本当だと思うか?」

「あのヴァレンティナって女が魔女だとか言う話か? それに関してはイエヴァには悪いが、正直言って、そんな現実離れした話は信じられないな」

「まあ、常識的に考えれば、そうだよな。だが俺は、イエヴァが嘘を吐いているとも思えないんだ。だからきっと、あの真っ白な女は本物の魔女なんだと思う」

「その根拠は?」

「根拠は、特に無い。だがそれでも、俺はイエヴァを信じてやりたいんだ」

 そう言ったルッツ兵長の横顔をちらりと眺めてみれば、ペチカの灯に照らし出されたその瞳は、やけに感傷的な色味を帯びていた。

「そうか、そうだな。だが今は、そんな事はどうでもいい事だ。明日に備えて、早く寝よう」

 俺はそう言うと、再びそっと眼を閉じる。


   ●


 何か生暖かくて湿った物が頬を這いずり回る感触に、俺の眠りは妨げられた。

「?」

 眼を覚ましてみれば、狼犬のプラーミャがその長く柔らかな舌でもって、床の上で寝る俺の顔面をべろべろと舐め回している。

「起きろ壮太、もう朝だぞ」

 プラーミャを従えたイエヴァにそう言って起こされた俺は、毛布に包まったまま半身を起こした。そして俺と同じようにプラーミャの熱烈な愛撫によって起こされたらしいルッツ兵長とアントン二等兵の二人もまた、大口を開けてあくびを漏らしながら眠い眼を擦っている。どうやら出入り口の扉から一番離れた場所で眠っていた俺が、三人の中でも一番最後に起こされたらしい。

「おはよう、イエヴァ。吹雪はもう止んだのかい?」

「ああ、止んだ。今日は良い天気だ」

 イエヴァの言葉を裏打ちするかのように、板ガラスが嵌め込まれた窓からは眩い朝の陽光が浅い角度で差し込みながら、離れの室内を明るく照らし出している。

「朝食を持って来た。大したものじゃないが、食べろ。身体が温まるぞ」

 そう言うと、イエヴァは消えかけていたペチカに新たな薪をくべ、昨夜のプロフとはまた別の鍋を火に掛けた。すると時を置かずして、微かに甘味のある芳醇な匂いが室内に充満する。

「キャベツのシチーか。美味そうだ」

 鍋の中を覗き込んで立ち上る湯気の匂いを嗅ぎながら、アントン二等兵がうっとりと嬉しそうに呟いた。彼が言う『シチー』とは、キャベツを中心とした野菜や肉などを煮込んだスープで、代表的なロシア料理の一つである。

「パンも食え。さあ」

 三人分のスープ皿にシチーをよそってくれたイエヴァが、更に黒パンも切って渡してくれた。その黒パンは収容所ラーゲリで一日に配給される黒パンよりも大きかったので、粗食に耐え忍ぶ捕虜の身の俺とルッツ兵長は涙が出るほど喜び、熱々のシチーに浸しながら貪り食う。

「どうだ、美味いか?」

「ああ、美味い。昨夜のプロフと言い、こんな美味い飯を食うのは本当に久し振りだ」

「そうか、それは良かった」

 イエヴァに二杯目のシチーをよそってもらい、それを黒パンと一緒にむしゃむしゃと食んで、やがて俺ら三人は朝食を食べ終えた。

「ごちそうさん」

 食事を終えると、イエヴァが俺ら三人に命じる。

「食べ終えたなら、一刻も早くあなた達の収容所ラーゲリに帰った方がいい。陽が出ている内に出発しないと魔女が起きて来てしまうし、ぐずぐずしていると、また天候が荒れるかもしれない」

「分かった。すぐに出発しよう」

 そう言った俺らは、別荘ダーチャの離れを後にした。吹雪が過ぎ去った後の早朝の戸外は空気が澄み渡り、さんさんと降り注ぐ穏やかな陽光が肌に心地良い。

「それじゃあイエヴァ、収容所ラーゲリまでの道案内を頼む」

「ああ、こっちだ。ついて来い」

 狼犬のプラーミャを連れたイエヴァに先導されながら、俺らは雪道を歩き始めた。昨夜の内に降り積もった新雪を踏み締める感触が軍靴の靴底から足の裏へと伝わって来て、少しだけくすぐったい。冬場の雪は寒くて鬱陶しくて厄介なものだが、この感触だけは嫌いではなかった。

「イエヴァ、ここから収容所ラーゲリまでは遠いのかい?」

「ああ、そこそこ遠い。それに、収容所ラーゲリまでは、あたしは行かない方がいいのだろう? だから、収容所ラーゲリの近くまで続いている道まで案内する」

「ああ、そうだな。確かにキミと一緒にいるところを赤軍の関係者に見られたら、後々面倒だからな」

 そんな会話を繰り返しながら、俺とルッツ兵長とアントン二等兵、そしてイエヴァとプラーミャの四人と一匹はタイガの森を切り開いて造成された雪道を歩き続ける。そして半時ばかりも歩き続けた後に、一行は新たな雪道と交錯する地点へと辿り着いた。ここまで歩いて来たそれよりも幅が広い、森の中の未舗装道路である。

「この道を真っ直ぐ行けば、そのうち収容所ラーゲリが見えて来る筈だ。雪が積もっていて見通しは悪いが、天気が良いから迷う事もないだろう。あたしが案内出来るのは、ここまでだ」

 地平線の向こうへと消え行く雪道の先を指差しながら、イエヴァが言った。

「そうか、ありがとう。本当に助かったよ。それじゃあここでお別れしよう。さよなら」

「ああ、さよなら」

 別れの挨拶を交わし合って歩き始めたところで、ルッツ兵長がふと足を止める。

「……なあ、イエヴァ」

「ん?」

 立ち去り掛けていたイエヴァが、ルッツ兵長に呼び止められて振り返った。

「何だ、ルッツ?」

 振り返ったイエヴァに、踵を返したルッツ兵長が歩み寄る。

「また今度、改めてキミと会えないか?」

 突然何を言い出すのかと俺は驚いたが、ルッツ兵長の表情は至って真剣で、どうやら本気でイエヴァと再会したいと考えているらしい。

「ああ、構わないぞ」

 ルッツ兵長の突然の申し出を、イエヴァは事も無げに、あっさりと了承した。そして彼女は身に纏った外套シューバのポケットから導笛しるべぶえと呼ばれる笛を取り出し、それをルッツ兵長に手渡す。

「森の中でこれを吹けば、あたしが住む別荘ダーチャまでの道を照らし出して、導いてくれる。だから、いつでも訪ねて来るといい。ただし、あまり大人数では来るな。それと、来ていいのは陽が出ている間だけだ。夜になると、魔女が起きてしまうからな」

「そんな大事な物を、貰ってもいいのかい?」

「ああ、大丈夫だ。この導笛しるべぶえは、魔女が作った物だ。森の中で落として失くしたと言えば、また新しいのを作ってもらえる」

「それじゃあ、貰っておこう。また会えるのを楽しみにしているよ、イエヴァ」

「あたしも、楽しみにしている。また会おう、ルッツ、壮太、アントン」

「ああ、またな」

 イエヴァとの再会を約束し合った俺ら三人は、改めて収容所ラーゲリの方角へと足を向けた。そして早朝の雪道を歩きながら、今後の事に関して話し合う。

「いいか、お前ら。イエヴァと会った事は誰にも内緒だぞ? もしも民間人と交流した事が所長にバレたりなんかしたら、俺が処罰されちまうからな」

 マンドリン短機関銃をちらつかせながら、アントン二等兵が言った。勿論俺もルッツ兵長も異論は無く、首を縦に振る。

「分かってるよ。俺だって、面倒事には巻き込まれたくない」

「俺もそうだ。わざわざ揉め事の種を蒔く事もない」

「よし、決まりだ。今回の一件は、俺達三人だけの秘密だ。だから収容所に帰ってから誰に何を聞かれても、昨夜の俺達は森の中で雪濠を掘って吹雪をやり過ごしたと答えろ。いいな?」

 こうして俺ら三人は今回の一件を口外せず、口裏を合わせるように示し合わせた。

「ルッツ、イエヴァに貰った笛を失くさないようにしておけよ」

「ああ、分かってるよ。そんな簡単に失くしたりなんかしないさ。むしろ怖いのは、所持品検査で何も知らない警戒兵カンボーイどもに没収される事かな」

 そう言ったルッツ兵長が、手袋を履いた掌の中で、イエヴァから手渡された導笛しるべぶえを弄ぶ。捕虜に対する所持品検査は不定期に抜き打ちで行われ、腕時計や万年筆と言った貴重品だけでなく、ソ連赤軍兵の気紛れでもってあらゆる私物が没収された。特に剃刀や鋏と言った刃物類や、脱走行為を扶助すると考えられる食料品の類は、発見されればほぼ間違いなく没収される。

 やがて雪道を歩き続けて小一時間ばかりも経過した頃、前方の木々の狭間に、何やら人工の建造物らしき物が見え隠れするようになった。それは丸太と板材を組んで造られた屋根と櫓であり、その見慣れた形状からするに、収容所ラーゲリの敷地の四隅に建てられた望楼である事は間違いない。

「あれは、収容所ラーゲリか?」

「ああ、そうだ。あれは収容所ラーゲリだ」

 目的地である収容所ラーゲリの位置が確認出来た事によって、俺ら三人の足取りはやにわに軽くなった。ここまで来ればもう道に迷う事もないし、暗い森の中で吹雪に悩まされる事もない。そして望楼の上から捕虜を監視する警戒兵カンボーイ達の姿が見える箇所まで接近すると、彼らの同僚であるアントン二等兵が手を振りながら大声で呼び掛ける。

「おおい、帰って来たぞ! 営門を開けてくれ!」

 アントン二等兵の言葉を聞き届けたらしい望楼の上の警戒兵カンボーイ達が、こちらに向かって手を振り返した。そして収容所ラーゲリを取り巻く板塀と有刺鉄線の前まで辿り着くと、ぎいぎいと鈍い音を立てながら営門が開き、俺ら三人を迎え入れる。

「ああ、やっと帰って来れた」

 収容所ラーゲリの敷地内に足を踏み入れると、ちょうどこれから午前の作業に出るために、全ての捕虜達が営庭で点呼整列している最中であった。そして当然ながら、整列していた総勢千名余りの捕虜達やそれを監視する警戒兵カンボーイ達が一斉に、俺とルッツ兵長とアントン二等兵の三人に注目する。急に注目された俺らはまるで見世物にされているようで、どうにも居住まいが悪くて仕方がない。

「壮太さん!」

 俺の無事を確認した矢三郎がこちらに駆け寄って来ると、ホッと安堵の溜息を漏らす。

「大丈夫ですか? 一晩中帰って来ないから、皆、心配していたんですよ」

「悪いな、心配掛けた。吹雪で道に迷っちまっったし、暗くて方角も分からないから、三人で雪濠を掘って一夜を明かしたんだ」

「まったく、こっちはどれだけ心配したか分かってるのか、壮太? 昨夜は天候が悪くてお前らを探しに行く事も出来なかったから、これから大隊の一部の人員を割いて、捜索隊として出発させるところだったんだぞ?」

 飯塚一等兵もまた、相変わらず顔色が悪いなりにそう言って俺の肩を叩き、嬉しそうに微笑んだ。そしてどうやらルッツ兵長とアントン二等兵の二人もまた、それぞれの上官である各軍の将校に、俺と同様の報告でもって状況を打破しようと試みているらしい。まあ勿論、雪濠を掘って一夜を明かしたなどと言うのは真っ赤な嘘なのだが、その辺りを追求するのは野暮と言うものだろう。

「後藤一等兵!」

 すると怒気に満ち満ちた声でもって、誰かが俺の名を呼んだ。見れば作業大隊の監督を務める須田中隊長が、防寒帽ウシャンカを脱いだ禿げ頭に浮かぶ汗を外套シューバの袖で拭いながら、ずかずかと大股でもってこちらに近付いて来るのが眼に留まる。そして彼は眼前に迫り来るなり、いわゆるビンタ、つまり平手打ちの要領でもって、無防備な俺の頬を力任せに引っ叩いた。

「貴様、一体何をしておるか! おむつも取れない糞漏らしの餓鬼でもあるまいに、迷子になって帰って来れないとは何事だ! 貴様の様な腑抜けた兵士は大日本帝国陸軍の面汚しであると同時に、軍規を乱す亡国の輩であると心得よ! 恥を知れ! これならば、森の中で凍死していた方が、未だましであったではないか!」

 そう言い放った須田中隊長と、彼に引っ叩かれた事によって地面に跪いた俺の二人は収容所ラーゲリ中の耳目を集め、全ての捕虜達とソ連赤軍兵達がしんと静まり返る。

「……申し訳ありませんでした、中隊長殿!」

 半ば破れかぶれでもって、俺は謝罪の言葉を叫んだ。するとそれで満足したのか、須田中隊長は得意満面な笑みを漏らしながら、ふふんと鼻を鳴らす。

「……」

 無言で跪いたまま、俺はぺっと地面に唾を吐いた。頬の内側の粘膜が切れた事によって唾に混じった鮮血が、真っ白な新雪の降り積もった収容所ラーゲリの営庭に、赤く小さな染みを残す。

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