第38話 今後の為に②
【ベラティナ】の魔導師・ギノグレスとの戦いから数日。
猛は、リンガランド家の自室で、今後の事を考えていた。
────はたして、自分は。
このまま、護衛騎士団としてこの街に居続けても良いのだろうか?
────第38話 今後の為に②────
猛は、今分かっている事を紙に書き出し、情報を整理した。
テラフォートさんの話によれば、僕はこの世に迫る危機を救う為に創造神にこの世界に呼ばれた【救世を託されし者】で。
この【導きの石】には創造神の絶大な魔力が宿っているらしい。
きっと、言語の翻訳とか、あのギノクレスの火の玉を消し去ったのも、その絶大な魔力によるものなんだろう。
けれど、僕がちっとも魔法を使えない事からも分かるように、その絶大な魔力を自由自在に扱える訳ではないみたいだ。
それが出来れば、きっと魔法も使えたんだろうけど……
創造神なんていう、聞くからに格の高そうな神の力はそう易々と使えないって事なんだろうか。
分からない事は、2点有る。
まず、「世界の危機」っていうのは、具体的にどんな事なんだろうか?
そこでまず思い当たるのが、【ベラティナ】と名乗る、悪人の集団。
人を殺す事を何とも思わない悪辣非道の集団で、僕もこの世界に来て、もう3度も戦った。
世界を混乱に陥れそうで、且つ僕ともそこそこ関わりが有る。これは、割と妥当なセンではないだろうか?
そして2つ目に、何故【ベラティナ】達がこの【導きの石】を事を知っているか、についてだ。
思い返せば、イルメラは僕の胸元のこの石を見つけてから明らかに態度が変わっていた。
それに、まだカイガと出会っていない頃の僕を襲ったあのならず者3人組も石を狙っていた事から、やはり僕を殺すよう命じたのは【ベラティナ】である可能性は高いんじゃなかろうか。
しかし、そうなると【ベラティナ】達は、この【導きの石】の事をずいぶん詳しく知っている事になる。
この石を持つ者が【救世を託されし者】であり、かつこの石に絶大な魔力が秘められているとなれば、奴らが僕を殺して石を奪おうとするのも道理が通る。
邪魔になりそうな者を殺し、かつ創造神の絶大な魔力を我が物に出来るとなれば、奴らにとっては一石二鳥な話だろう。
けれど、そもそもこの【導きの石】については、マギティクス家の伝承だったはずだ。
何故【ベラティナ】が、この石についてのあれこれを知っているんだ?
まず疑ったのが、あまり考えたくないセンだが、『マギティクス家の誰かがベラティナと内通している』という可能性だ。
けれど、これはすぐに否定された。
その可能性をテラフォートさんに話したところ、すぐに使用人含め全員を徹底的に調査したが、誰も【ベラティナ】との繋がりは認められなかった。
という事は、マギティクス家の伝承とは別の筋から、奴らも情報を仕入れたという事だろうか?
はっきりとした答えは分からないが、この石の事を既に奴らにある程度知られているというのはあまり良くない事であるというのだけは分かる。
────そして、これらの話と、今自分が置かれている状況を総合して、1つの大きな疑念が生まれる。
果たして、自分はこのまま護衛騎士団の任務を続けていても良いのだろうか?
もし、『世界の危機』とやらが【ベラティナ】であると仮定し、奴らとの対決姿勢を明確にした場合。
ここに留まり続ける事は、ハッキリ言って悪手だからだ。
奴らが、ここセタン国マルシャ地区リンガランド領でのみ活動しているのであれば問題は無い。
しかしそんな事があろう筈もなく、騎士団が把握しているだけでも、既に中央大陸の各所で『妙なベルトを着けた謎の犯罪者集団』が目撃されているらしい。
現地の騎士団達も然るもので、大きな被害は防げているらしいが、
残念ながら数人の命が奪われる結果となった事例もいくつか見つかった。
奴らの活動範囲が少なくともこの大陸全土である事が分かった以上、このままここに留まっているだけでは『奴らが襲ってくるのを待つだけ』に等しい状態であり、あまりに後手後手だ。
基本、戦いとはよほどの実力差がないかぎり攻める側が有利だと思う。
事前に相手の事を把握し、計画を立てて、攻める。その時点で、既にアドバンテージを握っているようなものだ。
しかし、護衛騎士団とはその特性上、守りに徹するタイプとなる。
とはいえ、味方に頼れる人間が大勢居る今の環境の方が危険は少ないだろう。
だが、それも今後僕をピンポイントで狙ってきたりする場合は必ずしもそのメリットが発揮されないと言える。
たとえば深夜に襲われた場合、仲間の護衛騎士団員とてそう迅速には駆け付けられないだろう。
だから、それを防ぐには『こちらから攻める』。
奴らの事を調べ上げ、把握し、こちらから不意を突いて攻めて倒す。
そうする事で、多少なりの実力差なら覆せるかもしれない……
それに、1箇所に留まり続ける事で、『親しくなった誰かが人質に取られる』ようになる可能性も有る。
そうなれば、『自分が【ベラティナ】と敵対する事で他人に迷惑をかける』事になってしまう。
そうならない為にも、1箇所に留まり深い関係を築くのではなく、
各所を転々とし、一期一会の関係で済ませる。これが一番じゃなかろうか。
そう考えれば、『冒険して最後に魔王を倒す』RPGの王道は意外と理に適っていると思えた。
各所で魔王の勢力の事を調べ上げて削って行き、最後に本拠を突き止めて突撃するというオーソドックスな形は、少人数で『対悪の組織』と戦う形としては理想的な形ではなかろうか。
…………それに。
自分も、『やってみたい』というのは、否定し切れない。
せっかく、こういう世界に来たのだから。
1箇所に留まるのではなく、色々な場所を巡ってみて。
色んな『異世界あるある』を、実体験してみたいという、ささやかな望みが……
けれど。
いったい、どうやってアイシャさんに切り出す?
中央大陸だけでも、1箇所に留まらず各所を見て回るというのであれば、護衛騎士団の任務はほぼ不可能となる。
アイシャさんに命を救われて。
アイシャさんに恩返しがしたくて。あの人の役に立ちたくて、入った護衛騎士団。
それを辞めるという事は……彼女への恩を仇にする事に等しいのではないか。
もし、正直に理由を話せば理解してくれるだろうか?
あの人は、そんなに頭がカタい人じゃない……
────────いや。
やっぱり、出来ない。
アイシャさんには……話せない。
この先、【ベラティナ】達と戦っていくには、『
けれど、素直に活動内容を話してしまえば、いずれ『穂野村猛=
僕が行くと告げた先々で
決めた。
アイシャさんには、言わない。
何も告げずに、ここを出て行く。
そうすれば……僕ひとりが汚れるだけですむ。
ひとりの恩知らずが忽然と姿を消した、それだけで済むんだ。
そうすると決めたならば、色々と準備を整える必要が有る。
お金……は、これまでの給金に殆ど手を付けてないからしばらくは大丈夫。
でもそれ以上に……今の僕には、まだ足りない物が色々と有る。
人知れず出発する前に……その足りない物を、全ては無理だとしても、少しでも、1つでも減らしておかなければならない。
もう、肚は決まった。
猛は、生まれてこの方した事のない程の、人生を左右する大きな決意を固めたのであった。
─────────────────────
あとがき
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