第34話 予言と真実
テラフォートに呼ばれた猛は、イリカに連れられてテラフォートの部屋へと入室した。
「申し訳ありませんお父様!遅れました!」
イリカが父親に謝る。
「いえ、僕のせいです。僕のせいで、少し話し込む事になっちゃって……」
僕を呼びに来ただけのイリカさんだけに謝らせるわけにはいかない。原因は僕の不甲斐なさに有るんだから。
「うむ、構わないよ。君達全員にしっかり聞かせたい事だからね」
そう言うテラフォートの眼前には、美しい水色の水晶玉が置かれていた。
ん?もしかして、テラフォートさんって……
────第34話 予言と真実────
「そう言えばホノムラくんは知らなかったね。私は魔法は得意ではないが、その代わりに占術に長けていてね。今回、君達が追っている魔導師の行方について、占っていたのだ」
猛の視線の意図を読み取ったかのように、テラフォートが猛の疑問に答えた。
「お父様の占いは、よく当たると評判なのよ〜?きっと私達の助けになる答えが出たのよね、お父様?」
エリネの問いに、テラフォートは重々しく頷いた。
「ああ、これが明確な答えとなるかどうかは分からぬが、私にはある1つの光景と、ある1つの啓示が見えた。それを見せ、そして聞かせよう」
そう言うとテラフォートは、手元の水晶玉に手を翳し強く念じ始めた。
すると……水晶玉から、ぼやけた映像のようなものが空中に映し出された。
灰色のローブを纏った男が、手から炎のようなものを出し誰かと戦っている。
その男と戦っているのは……大きな黒い盾を持った黒い鎧の騎士と、ダークブラウンの髪の魔法使いが2人。
これは、ひょっとして……
「お父様?これは……ギノクレスと、私とイリカちゃん。そして、この黒い鎧の人は、もしかして……」
「ま、まさか!『
娘2人の言葉を、テラフォートは頷いて肯定した。
「左様。今はこうして空中に投影する事でぼやけてしまっているが、水晶玉の中にはもっとハッキリ映っていた。そう、恐らくはお前たち2人。そして、最近噂の……『
「それでお父様、啓示というのは?」
イリカが話の続きを促す。
「慌てるな、今言う。それは……『異なる世界より出でし少年が鍵を握る』との事だ。つまり……ホノムラくん、君が鍵を握っているらしい」
アイシャとマギティクス姉妹の視線が、一斉に猛に集まる。
だが、当の猛はあまり驚いてはいなかった。
何せ、先に自分が対峙している光景を見せられたのだ。自分が直接関わる事になるのは先に知らされたからだ。
「コイツが……鍵を?どういう事、お父様?」
イリカが怪訝そうな目で猛を見ながら言う。
「詳しい事は私にも分からぬ。だが、この光景とセットで見出した啓示だ、自分で言うのも何だが、信憑性は低くはないと思う。いつ奴と戦うことになっても良いように、各自心がけていてくれ」
「ううむ、私が居なかったのが気がかりだがな……」
一人だけ全く占いの結果に関わらなかったアイシャが、訝しげな表情で手を顎に当て考え込んでいる。
「そうよね……鍵を握るのがコイツで、アーちゃんが蚊帳の外って……お父様の占いを疑う訳じゃないけど、なんか……」
正直、僕もそう思う。
カイガの力や防具の力を加味しても、まだまだアイシャさんの方が僕よりずっと強いはず。
そのアイシャさんが全く関わらず、僕とイリカさんエリネさんだけが戦う?何故だろう?ただ単に合流が間に合わなかっただけとか?
「まあ、考えても仕方あるまい。皆の内誰かが奴を見つければ、私も出来る限り、警戒をしつつ急いで合流しよう」
……まあ、アイシャさんに限ってどうこうなるなんて事は無いよな。
僕は僕の出来る事を、地道に積み重ねて行こう。
「まあ、私の回復魔法とお姉ちゃんの攻撃魔法が有ればそこいらの魔導師には負けないわよ」
……えっ?
イリカさんが回復魔法で、エリネさんが攻撃魔法?
強気な性格のイリカさんが攻撃魔法が得意で(特に炎とか派手そうなヤツ)、あらあらうふふ系おっとりお姉さんなエリネさんが回復魔法が得意だと思ってたんだけど……
「……何よアンタ。驚いた顔して」
イリカがじとっと猛を睨み付けてくる。
「うふふ、タケシちゃん。魔法ってね、その人の人格が色濃く出るのよ?イリカちゃんは本当は優しいから、回復魔法が得意なのよ〜」
猛の意図を読み取ったエリネが、イリカの頭を撫でながら猛に説明する。
「ちょっとやめてよお姉ちゃん!ていうか『本当は』って何よ!?私は優しいわよ!もう、学園にいた頃もしょっちゅう驚かれたわね。どうしてなのかしら」
不満な顔のイリカを見て、猛は『あ、あはは……』と苦笑いを返すので精一杯だった。
この人、自分の印象ってものに気付いてないんだな……
「……でも、その理屈で言うと、どうして私は回復魔法は平凡で攻撃魔法はイケイケなのかしらね〜」
エリネが首を傾げる。
「それはお姉ちゃんが案外腹ぐr……」
「イ・リ・カ・ちゃ〜ん?」
イリカの指摘は、不自然に甲高い猫なで声のエリネの言葉によって途切れた。
な、なんだか、空気がぞわっとしたのを感じたぞ。
こわい。エリネさんの今の笑顔が、今はなんだかちょっぴり怖く見えるぞ……?
イリカが、やや涙目で猛に無言の訴えを視線で送ってくる。
『ほら!もう分かったでしょ!?アンタ話を逸らしなさいよ!』とでも言いたげな視線だ。
「き、きっとイリカさんと上手く組み合わさる為にそうなったんですよ!すみませんヘンな事考えて!それでは明日からも頑張りましょう!」
よし、エリネさんも納得してる様子だし、強引に話を纏めたぞ。
……それにしても。
女の人って、見た目じゃ分からないものなんだなあ、って……
猛は、少し前のイルメラの件と今のエリネを鑑みつつ、少し身を震わせるのであった。
そして、翌日。
テラフォートからの話で、このまま捜索を続けて行けばギノクレスと戦うことになるとは分かったものの。
相変わらず捜査は、何の進展も得られていない。
それでも、無駄に終わる可能性が低くなったと分かっただけマシというものだが。
「ふぅ……」
小休止の為、街中に設置されたベンチに腰掛ける猛。
その猛の前を、2人の子供達が通り過ぎて行く。
「うおー!おれのサンダーをくらえー!」
「なんのー!おれのアイスのほうがつよいもんねー!」
幼い子供2人で、威力のとても微弱な基礎魔法を披露し合いながら遊んでいる。
あっ、確かこの子達……青空魔法教室に来てた子だ。
あのおばあさん……ミックさんの教えを受けて、こんな感じの微弱な魔法なら出せるようになって喜んでたよね。
こんな子達でも少しは魔法が……と一瞬妬みの念が湧きかけたが、
無邪気にじゃれ合う子供達の微笑ましさの前には、そんな後ろ向きの気持ちはすぐに雲散霧消した。
だが、猛はふと、その子供達が服に着けているあるモノに目が留まった。
「……あれっ?」
「?どーしたのおにいちゃん?」
猛の視線と声に気付き、子供達が話しかけて来た。
あれ?これって……
いや、でも確かに……
「ごめんね。君達の着けてる、その丸いバッジ……良ければおにいさんに、よく見せてくれないかな?」
「あっ!おにいちゃんごえいきしだんのヒトだよね!いーよ、みせてあげる!」
子供の1人が、胸のバッジを外し猛に手渡してくれた。
猛は、受け取ったバッジをじっと凝視する。
このバッジ……どう見ても。
イリカさんとエリネさんが、ミックさんから貰ったっていう、連絡用のバッジとそっくり……ていうか、そのものじゃないか?
「ねえボク。これをどこで貰ったのかな?」
子供と同じ目線の高さに合わせ、出来るだけ優しい声で猛が問う。
「んーとね、まほうきょうしつのせんせーから!きねんひんに、ってくれた!」
やっぱり、ミックさんからか。
「ありがとね。それで、このバッジで何か特別な事が出来るって聞いてたかな?」
「んーん、なにも」
もう1人の子供が、大きく首を横に振る。
うーん、どういう事だろう?
子供達に渡したのはただの記念品で、イリカさん達に渡したのは特別に連絡機能を付加させたものって事かな?
思い当たるフシはある。実はギノクレス捜索にあたり、猛達4人はある魔法道具を渡されている。
それは、事前に魔法で『同一の集まり』として登録した者に、声を送れる魔道具だ。
ただし、効果は数時間で切れてしまう使い捨てな上、電話のようにお互いに話し合う事は出来ず、一方通行に声を送るだけのものとなる。
その割には高価で貴重品なのだが、テラフォートが融通してくれているのだ。
だから、それを考えればその推測も合ってるはず。何故魔法教室の参加記念品に付加したのかは分からないけど……
「ありがとね、貸してくれて。魔法の練習、頑張ってね」
猛は、バッジを渡してくれた子供にバッジを返した。
「うん!おにいちゃんもがんばってね!」
「じゃーねー!」
子供達は、笑顔で手を振りながら走り去って行った。
そんな事が有りはしたが、時間は平和に過ぎて行き、夕方となった。
皆それぞれの住まいに帰り、街中の人通りのまばらになってきた頃。
イリカから、猛の魔法道具に連絡が入った。
「聞こえてる!?ミック先生から連絡が入ったわ!ギノクレスに関する重要情報をキャッチしたから、東の通りに大至急来てくれって!みんな来てよね!」
とうとう、何か動きが有ったのかもしれない。
北の通りを散策していた猛は、東の通りに急行した。
「あ、来たわね」
猛が東の通りに到着すると、マギティクス姉妹は既に揃っていた。
「アイシャさんは?」
「まだ来てないのよ〜。どうしたのかしらね」
エリネが心配そうな声で首を傾げる。
「まあ、アーちゃんの事だから心配はらないでしょ。それよりも、どうする?大至急来てくれって言うんだから、私達だけでも先にギノクレスの情報を聞いちゃう?」
「ええ、そうした方が良いかもしれませんね」
4人中3人が聞いておけば、後の1人には正確に伝えられるはずだ。
向こうに勘付かれて逃げられでもしたら台無しだ。ここは、先に聞いておこう。
「けれど、ミックさんはどこに?」
人通りがまばらになった東の通りを見回すも、それらしき人物は見当たらない。
「まあ、呼んだのは向こうだし探せば見つかるわよ。さあ……」
イリカが言いかけたところで、3人の魔法道具が鳴った。
「聞こえるか?アイシャだ!西の通りで、灰色のローブを纏った魔導師を発見して追跡した所、十数人の同じような魔導師と遭遇した!どれがギノクレスかは分からないが、ヤツは複数の人間を連れて動いている!今は物陰に隠れて発信している!私一人でどうにか出来なくはないが、皆も早めに来てくれ!」
アイシャからの緊急連絡だ。
「みんな聞いた!?西の通り!ミック先生には悪いけど、すぐ行くわよ!」
エリネと猛は頷き、皆で西の通りに向かおうとした、その時。
「おや、お前達。こんな所にいたのかい」
どこからか、腰の曲がった老婆がひょこひょこと歩いて来た。
あの青空魔法教室で指導をしていた、ミック先生だ。
「あっ!ミック先生居た!けどごめんなさい、ギノクレスは西の通りで見つかったの!今からすぐに行かなきゃならないわ!」
イリカが慌てて捲し立てるが、ミック先生は至って平然としている。
「おやまあ、それは大変だね。じゃあ、これから戦いに向かうお前達に私が強化魔法をかけていってやろう。ほれ、こっちへおいで」
ミック先生はイリカの腕を掴み、グイッと引き寄せた。
「えっ?あ、ありがとうございます」
「ほれ、力をお抜き。少し脱力感を感じるようになるけど、すぐ身体が軽く楽になる。よく動けるようになるからね」
そんなやり取りを、猛は……とこかもやもやしながら観察していた。
何かが。
何かが、引っかかる。
これまで何も起きなかったのに、ミック先生が情報を掴み、その直後にギノクレス本人が真逆の通りで発見され……
いくら何でも、急転しすぎではないか?
イリカさん達が連絡用に貰ったあのバッジと同じデザインを着けていた子供達。
そして、あのおぼろげな予言……
何か、何かを見落としていないか。
猛は、頭脳をフル回転させた。
────猛の脳内に、ひとすじの光が一閃した。
そして、考えが纏まるより先に。
猛は、イリカの身体を強引に抱き寄せ、ミック先生から引き離した。
「ちょっ!?あ、アンタ急に何するのよ!?」
突然猛に抱き寄せられ、イリカが頬を赤らめながら猛を非難する。
だが、猛は腕の中のイリカには目もくれず、ミック先生を凝視していた。
「(……うむ、今のは良い直感だったな。あ奴が左の薬指に着けている指輪を、よーく見てみろ)」
カイガの言葉が脳内に響き、猛はミック先生がイリカに翳していた左手を掴み、その指輪を見た。
はたして、その指輪には。
両の先端に、髑髏と、苦悶に叫ぶ顔が描かれたVのマークがあしらわれていた。
「……あなたは何者ですか?ミック先生。いや……【ベラティナ】の構成員!」
そのマークは、あのイルメラのベルトにもあしらわれていた、【ベラティナ】のマークに他ならなかった。
「ちっ……カンの良いガキだね」
そう言うとミックは、ふわりふわりと宙に浮き始めた。
その身体の周りを、紫の渦が覆っていく。
そして、渦が解かれた時……そこに、先程までの老婆は居らず。
灰色のローブを纏った、魔導師が宙に浮いていた。
「そう。俺は【ベラティナ】構成員。そして、貴様達が探し求めていた男……ギノクレス様だ」
事態は、予想以上に急転した。
─────────────────────
あとがき
読んでくださってありがとうございます♪
エリネは見た目の雰囲気と裏腹に腹黒です。けどそこがたまりません(ドM並感)
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