第24話 明かされた弱点
勤務中の猛は、不審者の発見及び対処にあたる為の見廻り任務にあたっていた。
本来見廻り任務の際は、新人は2人以上で固まって行動するのが基本的なルールである。
だが、猛は入団後から早くもいくつかの実績を残してきた為、単独で任務にあたる事が早々に決定された。
不安も有ったが、アイシャからの『お前は真面目で優秀だから、何も問題あるまい?』というお墨付きの言葉を貰った事で気が楽になり、ほんの少しの自信を持って取り組む事が出来た。
そして、今。
猛は、領内の見廻りがてらカミスの工房にやって来ていた。
────第24話 明かされた弱点────
「やあ、来たね。業務中だと思うけどここで油売ってて良いのかい?『
「いや、これも仕事の範疇に入りますよ……それに来るよう言ったのはジェンマさんじゃないですか」
ここに来るのだって、一応『領内の見廻り』の範疇に入る。
それに、ここは少し前魔物の襲撃を受けた経緯が有る。その後標的になっていないかの確認も兼ねる、とでも言えば建前としては充分だろう。
「ふふ、冗談だよ。さ、掛けてくれ」
猛は、勧められるがまま着席する。
「どうしてまた呼び出しを?ジェンマさん」
これまで、ジェンマさんの方から呼び出す事など無かったのだが。
「うん、防具のメンテナンスと……ちょっと、話しておかなきゃいけない事が有ってね」
話しておかなきゃいけない事?
そう言うからには……何か重要な話なのだろうか。
「……うん、防具の方はまだメンテナンスの必要が無いね。『
鎧や兜を目視で手早くチェックしながらカミスが言う。
「結構強い人と戦ってきてると思うんですけど……ジェンマさんの防具が凄いんですよ」
事実、この防具を賜ってからダメージらしいダメージは受けた憶えが無い。
……あ、アリオの鎧徹しの技だけは受けたけど、あれは防具の性能関係無さそうな技だもんなあ。
「まあね、地球で蓄えた知識、こちらで蓄えた知識と経験を全て注ぎ込んだ逸品だからね。そう簡単にダメージを受けてもらっちゃ困る……でもね?」
「でも?」
ちょっぴり得意気に語っていたカミスの顔付きが変わったのを、猛は感じ取った。
「この防具にも、弱点は有るんだ。穂野村くん、魔法を使う敵とは戦ったかな?」
この防具に弱点?
第2部隊の騎士達の攻撃や、アリオの拳も防いだこの防具に?
魔法を使う敵……そういえば、レンド隊長の部下の魔法を使える騎士に2人居たっけ。だけど……
「ええ、戦いました。けれど、氷の魔法は殆ど僕を凍らせるに至らなかったですし、炎の合体魔法みたいなのは完成前に手を斬り落として自爆させちゃったので、別にダメージは……」
「うん、一応受けた経験は有るんだね。『殆ど』ということは、少しは凍った訳だ。それはひょっとして、足元に受けなかったかい?」
「あ、はい」
「まずそれが弱点その1だ。君に渡した防具は高い魔力が込められていて、魔法攻撃に対して魔力のバリアを張って防いでくれる効果が有る。けれど、鎧に比べてレガースはどうしてもサイズの関係上内包出来る魔力が少ない。だから、完全に防ぎ切る事はできずに少しは魔法のダメージを受けてしまうんだ」
「あ、なるほど……」
だから、少しだけ凍ったのか。まあ、僕の脚力で壊れる程度にしか凍らなかったから問題無いんだけど。
でも……
「『その1』って事は、まだ1つ以上有るって事ですよね?」
「うん、流石に察しが良いね。さて、どんなのだと思う?と言っても推測は難しいだろうからヒントをあげよう、ズバリ、『アイシャ・リンガランド』だね」
……アイシャさんがヒント?
うーん……アイシャさんといえば。
気高くて、美人で、凛々しくて、優しくて、胸も……
っていや、違う違う!今は戦闘の話なんだから!
ええと、アイシャさんの戦闘スタイルといえば……
「魔法剣……いや、つまり……『魔法を纏った物理攻撃』?」
「大正解だ」
カミスが猛の回答に満足そうに頷く。
「この防具の魔力バリアは、『純粋な魔法攻撃』にしか反応しない。だから、アイシャさんのような『物理攻撃に付随しているような魔法』には、反応してはくれないんだ。物理攻撃の威力は、鎧の硬さが和らげてくれるだろうけど……付随する魔法の方はそうはいかないんだよ」
「な、なるほど」
猛は、ポケットに入れていたメモとペンを慌てて取り出しつつメモを取り始めた。
「ふふ、勉強熱心だね」
「いや、こういう『自分の出来ること、苦手なこと』の情報はちゃんと把握しておかなきゃならないと思って……それでこそ、僕みたいなのが生き延びれるんじゃないかなーって」
そう、何の縁か武具には恵まれた僕だけど、僕自身はてんで弱いままだ。
だからこそ、装備の強みと弱みをきっちり把握して戦闘のプランを立てないといけない。それこそが、僕が生きる道だ。
「うんうん、その慎重さが有る限り僕も安心だよ。そうだ、ついでにもう1つ。何故あのアイシャさんは、【英雄】と呼ばれる程強いか分かるかい?僕が地球で生きてた頃から、それこそテレビゲームなんかでも『魔法剣士』はメジャーな存在だったというのに、だよ」
確かに、言われてみれば。
某勇気ある者が民家に押し入って物色していくRPGなんかでも、魔法剣士って職業は有ったし。
魔法も剣も現役バリバリのこういう世界では、それこそ魔法剣士なんて珍しくないものなんじゃないか?
「それはね、この世界では武器に魔法を纏わせる事によって威力が飛躍的に上がる事が1つ。そしてそもそも、それを為すのがかなり難しく、出来る者が世界中探しても簡単に数えられる程度しか居ないのが理由だ」
そうだったのか。ゲームと違って、そもそも魔法剣士自体が稀有な存在だって事か。
「だから、さっき言った弱点を突けるような人は、そう多くは居ない。頭の片隅に置いておく程度に覚えておいてくれれば、キミなら何とかするだろう」
「いや、何とかって……」
確かに、これまでは何とかなってたけど。
出来れば、そんな敵に出くわさないことが第一だ。
後から思い返してみれば。
この時のやり取りは、まさに『フラグ』だったとしか言いようがないように思えた。
今また、猛の知らない所で。
猛の以外に身近な場所で、牙が剥かれようとしていた。
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あとがき
読んでくださってありがとうございます♪
アイシャが【英雄】と呼ばれる所以はまだ有りますが、それはもう少し後で……
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