第23話 親交と親友
「よっ、『
リンガランド家の使用人に『お客様がお見えになってますよ』と言われ、屋敷の入り口まで来た猛の目の前に居たのは。
先日出会い、戦い、共闘し。
そして、『
────第23話 親交と親友────
「ちょ、それを言わないでくださいよ!誰が聞いてるか分からないんですから!ていうか何の用です!?」
笑顔でとんでもない事を言うアリオに、猛が慌てて咎める。
「ははっ、悪い悪い。いやな、オレがこの街にしばらく厄介になることは伝えたろ?」
そうなのである。先日のヌドロクの人身売買騒動の解決に一役買ったアリオは、領主であるザルフに認められ、ちょうど空き家となっていた家に住む権利を頂戴したのだ。
『強さを極める為の旅をしている』とはいえ、定住が許される場所を1つは確保出来て助かった、との事だ。
「で、まあしばらく居る以上、街を見て回っておこうかなーと思ったんだけどよ。せっかくだから、お前と一緒に回っておこうと思って」
……え?
「な、何で僕と?」
彼は悪い人ではなさそうだし、何かと一緒になる機会が多かったが、別に仲が良くなったわけではない。
何故、一緒に街を見て周ろうなどという誘いが?
「いや、一人で周るより誰かと周る方が楽しいだろ?」
何ともシンプルな理由。そして……僕には、完全には理解できない理由だ。
「そ、そういうものですかね……」
「そういうものだろ?今日お前非番って聞いたからよ。もし良ければ、街を案内してくれねぇかなーと思ってさ」
……うーん、正直、いきなりそんな事を言われても困る。
けれど、上手く断る理由も無いし……今日が暇なのは確かだ。
この街に滞在するとなれば、今後も関わる事になるのかもしれないし……
「はい、分かりました。じゃあちょっと準備するので、待っててください」
猛は、アリオの急な提案を受け入れる事にした。
「……で、ここが……えーと、パン屋ですね」
「おお!ここは変わってねーなぁ!」
1時間後。
猛とアリオは、猛の案内のもと二人で街を見て周っていた。
案内といっても、猛もここに来てひと月程度なので完全に把握している訳ではない。
だからこそ、この案内には意味が有ると猛は感じた。
確実に憶えるには、人に対面して教えるのが良い手段のひとつと聞いたことがある。
これは、僕もこの街の事を憶えきる良い機会だ。
「ガキの頃、あの義賊団の世話になってた時期さ……よくここのペリアの実のパイを食べさせてもらってたんだよな。アレがまた美味くてな……良かったら、喰ってくか?」
「ええ、いいですよ」
こんな風に、耳寄りな情報も聞けるしね。
「へぇ……これが、ペリアの実のパイ」
パン屋のオープンテラスで、オレンジジュースと共に『ペリアの実のパイ」とやらを食してみた。
ひと口かじると、中の実から甘酸っぱい果汁が……なんか、アップルパイに似ていて……
「美味しいです」
「だろ?ていうか、ここに来てからこのパン屋利用してなかったのか?」
「いや、2度くらいは来たんですけど……カレーパンとか、ホットケーキとか選んでたので」
慎重派の猛は、地球にも有った見知ったメニューのみ手を出しており。
初めて聞くモノが使われたメニューは、なんとなく手を出す気にはなれていなかったのだ。
「そうか。まあ、今日はコイツの美味さが分かっただけでも収穫だったろ?」
「ええ」
「そりゃ良かったぜ。……きっと、アイツも喜んでるな」
「『アイツ』?」
ふとアリオが物憂げな表情になったのが気になって、猛が尋ねた。
「ん、ああ……俺の幼馴染でな。アイツも、このペリアの実のパイ、好きだったんだよ」
……なんだか、ひょっとしてシリアスで重めな話だったかもしれない。
この言いぶりだと、その人は、もう……?
「ああ、まだ死んだりはしてねぇぜ?けど、ちょっとな……俺が旅してんのも、ある意味そいつが理由ってのもある」
猛の表情が暗くなったのを見て、アリオが付け加えた。
『好敵手を求めて』的な理由で旅してたんだと思ってたけど、それだけじゃないのか。
いったい、どんな理由なんだろう?
幼馴染の為に続ける旅って……
でも、何となくだけど。
今はまだ、聞かない方が良い気がする。
話せるようなら、たぶん今のタイミングでもっと詳らかに話してたはず。
微妙にはぐらかしてる辺り……きっと今は、まだ言えないんじゃないかな?
「……実ると良いですね。この旅が」
……あれ?悪い返事をしたつもりはないのに、アリオさんの表情が険しい。
……ように見えたけど、今は元の表情だ。見間違いかな?
「なあ、少し休んだら……あそこ行かねぇか?前居たときはあんな建物無くてさ」
「……え?」
アリオが指を指した先は────。
「よっしゃぁー!!ストライクー!!」
「うわぁ……」
猛とアリオは、ボウリング場に来ていた。
なんと、こちらの世界にもボウリングが有った。
カミスさんみたいな
ルールも単純だし、そんなに体育会系じゃなくても楽しめるからね。
……けれど。
「お、お客さまー……その、ピンを粉々にするのはちょっと……」
「わ、悪ぃな」
球を転がさずに豪快にアンダースローしてピンに直撃させて、ピンを粉々にする人は想定してないスポーツだよね……
ちなみにこの世界はプラスチックはまだ無いようなので、ピンもボールも少し軽めの石を使用し、それを魔法で強化しているのだとか。
魔法、便利だなあ。そういうの出来たら職に困らなさそうだ……いや、僕はもう騎士団に就いてるけど。
しかし、改めて思うけどアリオさんのパワーは凄い。
軽めの石って言ったって、球の方はそこそこ重め、地球のボウリングの球でいう11ポンドくらい……つまり5キロ程は有る。
それをアンダースローで地に触れることなくピンまで投げて、ピン全部を粉々にするってスゴイ。
ま、まあ、気を取り直して僕も一投。
ゆっくりと助走をつけて……腕をしならせて……それっ。
「……おお、ストライク!お前も上手いじゃん?」
「はは……結構好きだから、昔からちょくちょくやってたんだよね」
一応一人でも出来るスポーツであり、そう運動が得意じゃなくても楽しめるということで、猛はそこそこボウリングが好きだった。
とはいえ、この建物がボウリング場であった事には気付かなかったけども……
地球のボウリング場みたく、ピンと球の看板が設置してある訳じゃなかったから見逃してたよ。彼と来てなかったら、知らないままだったかもしれない。
……お誘いに乗って、良かったかも。
「よっしゃ!負けてらんねぇぜ!俺も……よっしゃーもういっちょストライクぅー!」
「お、お客さまー!ですからピンを粉々にするのは……」
「や、やめてあげましょうよアリオさん……」
最終的には、結構なスコア差で負けてしまった。
アリオさん、一応手加減する事を覚えてちゃんと転がすようになったけども、それでも球の勢い凄いんだもん……少しコース外れても、球威で持ってったケースが多かった。
ちょっとコントロールが良さげかなーってくらいの僕では勝ち目が無かったよ。
……けど、楽しかったな。
いつも一人でやってたから……誰かと一投ごとに一喜一憂するのなんて、すごく久しぶりに感じて。
帰り道、そんな事を考えながら少し心が暖かくなったような気分に浸っていた。
「アリオさん、今日はありがとうございました。僕も案内する事で改めてこの街をよく知れましたし、楽しめましたよ」
……ところが、アリオの表情を伺うと。
また、険しい表情になっていた。
あれ?また何だか顔つきが険しい。
やっぱりさっきの見間違いじゃなかったのかな?ていうか、どうしてそんな険しい表情に?
猛が疑問に思っていると、その険しい表情のまま、アリオが口を開いた。
「なあ。変な事聞くかもしれないけど、お前って歳いくつだ?」
「え?17ですけど……」
「なんだよ、俺もまだ18だぜ」
ええ?なんか、場数踏んでそうで自信家で堂々としてるから、てっきりもっと上だと……
「ホノムラ……いや、タケシ。何かと一緒になる事が多くて、俺はお前の最大のヒミツを知っちまった。んで、今日お前と過ごしてみて、結構楽しかった。そんで、トシもほぼ同じと来た……なあ、これもなにかの運命って事でさ。俺達、ダチ同士にならないか?」
「……えっ?」
猛は、アリオの思わぬ言葉に思考が止まった。
「……まあ、俺の都合なんだけどよ。俺、ここ数年は修行漬けで、友達なんて居なかったからな……今日、久々に修行以外で同年代のヤツと過ごせて楽しかった。今日お前を誘ったのも、
少し照れくさそうに話すアリオからは、ウソをついている様子は見受けられない。
「だから……お前が良ければ」
そう言ってアリオは、この前と同じように右手を差し出して来た。
────いつ以来だろう?
こんな風に、ストレートに『友達になってくれ』なんて誘われたのは。
別に、コミュニケーション力が絶望的な訳じゃない。
むしろ初見の人とはそれなりに喋れるし、共通の趣味で話せる間柄の人くらいは居た。
────けれど、それ以上。
『友人』とか、『親友』という関係には、踏み込めないでいた。
どこか、怖かった。
自分で自分のことを、よく分かっていたから。
……何の魅力も無い自分を、分かっていたから。
付き合いが深くなって、そんな自分を知られるのが、怖かったから。
だから、自分の殻に閉じこもる事が当たり前になってしまって。
全ての人に、敬語や丁寧語で話す事が当たり前になってしまっていた。
────いつ以来だろう?
こんな風に、ストレートに『友達になってくれ』なんて誘われたのは。
……いや、ひょっとして。
初めてだったのかもしれない……
「……って、お、おい!何で泣いてんだ!?泣くほど嫌だったか!?そ、それなら悪かった!タケシが嫌なら別に……」
猛の目から一筋の涙が流れている事に驚いたアリオが、仰天している。
「ち、違うんです!嫌とかじゃくて!ちょっと……その……嬉しかったというか……っ」
「お、おお。それはそれでまた結構驚く事だけどよ」
アリオは戸惑いながらも、嫌がっているという誤解は解けたようだ。
「じゃ、じゃあ!よろしくです、アリオさん」
「おいおい、ダチ同士になるってのに、敬語は要らねえだろ?違和感有りまくりだぜ」
ああ、そっか。
それで、何度か険しい顔してたり、年齢聞いてきたりしてたのか……
「は……いや、うん。分かったよ、アリオ。えーと……よ、よろしく」
「ああ、よろしく頼むぜ」
猛は、心が揺れてぎこちないながらもアリオと親交の握手を交わした。
カイガが、己の武器という意味での『相棒』とするならば。
信頼できる友人であり、戦友となる『相棒』である人物は、今ここに生まれたのであった。
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あとがき
読んでくださってありがとうございます♪
アリオの旅の理由は、かなり後になってから明かす予定です。
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