第21話 急襲と急転(中編)

急襲をかける……ということは、黒幕の根城が判明したのだろうか?


「アイシャさん、つまり……」


「ああそうだ、一連の誘拐事件、並びにヌドロク氏邸からの窃盗犯が判明した。どちらも『疾風の盗み屋』という盗賊集団の仕業で、一般の家屋に装ったアジトが領内に有る事も確認された。混成部隊で深夜、急襲を掛ける」



────第21話 急襲と急転────




アイシャ曰く、捕らえられた誘拐未遂犯の一人に自白を促す魔法を使用したところ、犯行グループの正体、及び居所を白状したとの事だ。

この世界は猛の居た日本より犯人に対する取り調べはずっと厳しく、検察官と裁判官立会の元、『拷問と認定されない軽微なレベル』のものであれば自白を促す特殊な魔法の使用が許可されているとの事だ。

今回、頑として情報を吐かない誘拐未遂犯に業を煮やし、自白魔法の使用に踏み切ったところあっさりと吐いたとの事だ。


ともかく……やっと判明したんだな。

盗賊集団、か……全員アウトローですばしっこくて、罠とかが小手先の技が得意そうなイメージだ。

カイガと鎧の力が通用しやすいタイプじゃないなあ。少し不安だ。

だけど、誘拐された子供達の為にも。……あとついでに、あのヌドロクとかいう人の為にも。ここは僕が、いや僕達が頑張らないといけない。


「アイシャさんも参加するんですか?」


「いや、私は参加出来ないのだ……何ともタイミングが悪い事に、王都の方で武装集団の反乱が起きたらしいとの連絡が父に入った。援軍として、私が指名されてしまった。故に私は今回の作戦には参加出来ぬ……タケシ、武運を祈るぞ」


武装集団の反乱だって?

確かに、盗賊集団を一網打尽に出来るこの機会にアイシャさんが参加出来ないのは何ともタイミングが悪い。

けれど、嘆いてばかりもいられない。他の部隊員の先輩達も充分強いし、やり遂げられる可能性は決して低くはない。


「はい、分かりましたアイ……リンガランド隊長。頑張ります。隊長の方も、ご武運を」


「うむ。しっかりな」








そして、深夜。

第2部隊と第1部隊の混成部隊20名が集められた。


「皆さん、今日は集まってくれてありがとうございます。今回の作戦の陣頭指揮を取らせていただく、第2部隊長のラヴァです。

今回、長らく空き家となっている西の邸宅の近にアジトが有る事を突き止めました。自白した盗賊集団の一員曰く、誘拐された子供もそこに居るとの事です。

ですので、盗賊集団の捕縛もしくは討伐をする班と、子供達の捜索及び救出・並びにヌドロク氏の盗まれた物品を探す班に別れます。ただし、討伐をする最中に子供達を発見する事もあるでしょうし、子供達を探す中で盗賊達と戦闘になる事もあるでしょう。なので、役割に固執し過ぎず、臨機応変に動くようよろしくお願い致します」


ラヴァの説明を聞く猛は、緊張で逸る胸を押さえていた。

元居た世界でも……警察の特殊部隊の突入前って、こんな感じだったのかな。

犯罪者の群れに飛び込み、人質を救出する……難しくて、責任重大だ。僕なんかに役割が務まるだろうか?


と、そんな不安がる猛の肩をポンポンと叩く者があった。


「まあ、そんなガチガチになるなや。オレらもついてる、死ぬような事にはなりゃしねえよ」


そう声を掛けるのは、第1部隊のベテラン隊員・エクサ。


「そーそー。気楽に行こうよ、第1部隊の期待のルーキーくん」


何とも弛緩な空気を漂わせる、第2部隊の魔法使い・サダも追従する。

こんな雰囲気だが、仕事はキッチリ成果を挙げるタイプで、誘拐未遂犯の一人を捕えたのも彼の仕事だ。


「まあコイツは気楽すぎるフシがあるが、お前さんは見習った方が良いかもしれんな。足して割りゃちょうど良い感じにならぁ」


豪快に笑いながら猛の背中をバンバンと叩くエクサに、猛の気分は少し楽になった。


そうだ。決して、僕一人でやるわけじゃない。

頼もしい先輩達がついてる。僕は、主役にならなくて良い。先輩達の足を引っ張らない程に頑張れれば良いんだ。

……勿論、責任感は忘れてはいけないけど。



そして、数分後。

猛達混成部隊は、空き家となっていた街の西の邸宅の前に来ていた。


「ええ、ここね……ここを……こうして……うん、開いたわよ」


第2部隊の元盗賊の女性・フィジーが、庭口にある地下へと繋がる階段への鍵を解錠した。

フィジーの言葉に、指揮を執るラヴァがゆっくりと頷く。


「……皆さん、心の準備は良いですね?では、突入します。私に続いて。突入後は、各々割り振られた役割に従って動いて下さい」


そして、深夜2時35分。

猛達護衛騎士団の混成部隊は、『疾風の盗み屋』のアジトへと突入した。



そして、突入した猛達が目の当たりにしたものは。

待っていましたとばかりに戦闘態勢で待ち構えていた、盗賊集団であった。


危ない。エクサさんから事前に『心構え』を聞いていなければ、この状況に泡を食っていたかもしれない。




「お前さん、こういうのは初めてだろ?なら教えといてやる」


「は、はい」


「突入作戦ってのはな、必ずしも相手の不意を突ける訳じゃねぇ。裏切り者だったり相手の情報収集で、突入が漏れてる場合も多分に有るって事だ。だから、突入して目の前に迎撃体勢ばっちりの敵が居ても、慌てふためくんじゃねえぞ」




エクサさんの言った通りだ。

作戦が誰かから漏れたのか何なのか、原因は分からないけれど。

『疾風の盗み屋』の面々は、こちらの襲撃に対抗する手はずが整っていたようだ。


「オラぁ!盗賊共ぉ!殺さねぇよう手加減はするがな、手足の一本失っても文句は言うんじゃねぇぞぉ!」


盗賊の捕縛及び討伐班のエクサが、豪快に斧を振り回す。


「お前らは行け!子供達を必ず見つけろよ!」


「はい!」


エクサの言葉に、猛は大きな声で返事した。

先輩が、体を張って僕達を進ませてくれているんだ。

必ず、救い出してみせる。





子供達を探索する猛は、妙な違和感を覚えていた。

1つは、アジトの構造がシンプルな点である。


普通、こういう盗賊のアジトって、もっと罠だらけなんじゃないのか?

所々、お邪魔虫のように湧いてくる盗賊団員以外は、行く手を阻むトラップのようなものは何も見当たらない。

そして、もう1つ。

拐われていた子供達の反応がおかしい点だ。

そう、拐われていた子供達は割とすぐに見つかったのだ。

しかし、全員鍵のかかっていない一室に集められていた上に。

『助けに来た』と言っても、全員『今は出て行けない』と首を横に振ったのだ。

いったい何故なのか理由を聞いても、幼い子は『いうなっていわれたからいわないの』と口を固くつむぐばかり。

これではラチが明かないので、一番歳上らしき少年に何とか問い詰めたところ、『ボスの人に会えば話してもらえるかもしれません』との言葉を引き出せた。


「……うーん、ハッキリとした事はよく分からないけど」


捜索班が次々と足止め要員の盗賊との戦闘で居残る中、猛と2人でアジトを探索し続けていた女性隊員・フィジーが少し困ったような表情で猛に声をかける。


「どうも、私達が想像していたより状況は悪くはないみたいね。この子の言い方だとボスも話は聞けそうな相手だし……ホノムラくん、行って聞いてみてくれるかな?私は、もし何か有った時の為にこの子達の所に残るから」


色々と腑に落ちない点だらけだが、ボスの元に行けば何か分かるかもしれない。

先程話を聞けた少年によると、ボスの部屋は目の前の通路を先に進んだ所にあるらしい。


「分かりました。じゃあ、僕が行きます」


盗賊集団の首領。正直、アウトロー極まれりといった存在であり怖さしかない。

だけど、捕らわれていた子供達の扱いを見るに、そこまで極悪非道の人間ではないのかもしれない。

……子供を拐うのは悪い事だし、相変わらず動機は分からないけれど。


猛は、目の前の通路を進んで行った。

そして、曲がり角を曲がる前に……猛の頭の中に、ふとある考えが浮かんだ。


今、僕は一人だ。先輩達には見られていない。

ならば……『変幻のバリアブル・騎士メタル』として動いた方が、良いのではないか?

変幻のバリアブル・騎士メタル』としてボスの元に出向けば、広まりつつある名に恐れをなして有利に話を進める事が出来るかもしれないし。

仮に戦闘になった時も、カイガの変形能力を遠慮せずに使える。

決めた。口調を変えなきゃならないのは、ちょっと恥ずかしいけど……広まってしまった知名度は利用させてもらう。『変幻のバリアブル・騎士メタル』になってから、ボスの元に出向こう。


「よし……【チェンジ】」


猛は、第1部隊の金のブレスレットに触れてそう呟く。

すると、鎧と兜の偽装が解け……元の、黒い光沢が光る鎧と兜へと変貌を遂げる。


「(ほう。また『変幻のバリアブル・騎士メタル』として行動するつもりなのだな。やはり、悪党をノリノリで成敗するのが趣味なのだな?)」


猛の脳内に、カイガの茶々が聞こえてきた。


「ち、違うよ!ボスに話を聞くにしても、たかが新人団員よりも、『変幻のバリアブル・騎士メタル』としての方が向こうもまともに話してくれるかなって!」


「(ふむ。まあそういう事にしておこう)」


むう。本当に他意は無いのに……


「そ、それよりも。カイガも剣に変形デフォームしといてね」


そしてカイガを変形デフォームさせ、『変幻のバリアブル・騎士メタル』姿に変身した猛は、ボスの部屋へと続く一本道を進んだ。

そして……見付けた。ボスの部屋に通じるであろう、一枚の扉を。

────だが、その扉の前には。

一人の、見覚えのある男が立っていた。


「……黒い光沢の鎧と兜。へぇ……アンタとは、確かに戦ってみたいとは思ってたけど……こんな形で戦うとは思ってなかったぜ」




扉の前には、自らの右拳を左の掌にパシンと当て笑顔で立つ、アリオ・メラクが居た。





─────────────────────────

あとがき


読んでくださってありがとうございます♪

次回、アリオが盗賊の味方をする理由は……

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