第18話 今後の為に
カイナ達との戦いから数日。
『
休日を利用して、今後の為の情報整理を行っていた。
「……よし。こんな所かな?」
猛は自室の机の上で、紙にひと通りメモをし終えた。
────第18話 今後の為に────
猛は、突然この世界にやって来た日から今日までの事をふと振り返っていた。
学校帰りに、突然こちらの世界に飛ばされて。
お風呂場でアイシャさんに出会っ……あっ、ダメだ思い出しちゃいけない。いけないんだ。
で、その数日後には悪人達に襲われて……
確か、僕のような身なりの者を殺せって言われたとか、この紫の宝石を狙ってるとか言ってたよね?
んで、アイシャさんが助けに来てくれて。
そのお礼に何か出来ないかって言ったら、護衛騎士団の入団試験を受ける事になって。
その前の夜に、リンガランド家の武器庫みたいな所でカイガと出会ったんだよね。
……誰がカイガをあんな所に置いたんだろう?カイガ、誰にも持ち上げられないはずなのに。
それで、試験の後にアイシャさんに頼まれて第1部隊に入る事になって。
壮行パレードでは、ラピスさんのお隣さんの兄妹を殺そうとした『鉄球のロンボ』を追って倒した。
そしてカミスさんと知り合って、防具を造ってもらう話になったら……あれよあれよという間にレンド隊長の謀略に巻き込まれる事となって。
この槍……カイガの真の力を知って、レンド隊長達を倒して、アイシャさんを助けたら。
アイシャさんが大々的に宣言しちゃったおかげで、その時カイガに言われて演じた『
それで、今に至る訳だけども。
……振り返ってみると、短い間に色々有ったんだなぁ。
『町民A』で居たいのに、何故か『期待の新人』とか『新たな英雄』とか言われる羽目になっちゃってるし……
しかも、あの時のカイガの言葉。
『いずれ、重要な戦いに巻き込まれる』って言ってた。
……なんだかもう、『町民A』路線には修正出来ない気がする。そんな予感がする……
でも、どうしよう?
確かに、カイガの力やジェンマさんが造ってくれたこの防具の性能は素晴らしいけど。
それを装備する中身の僕は、素人に毛が生えた程度のレベルでしかない。
でも、そんな僕でもこんな感じに命を懸けた戦いが続く以上、それを乗り越えて生き延びて行かなければいけない。
なら、今僕が出来る事は……
情報整理だ。
え?『自分を鍛える事』じゃないのかって?
いや、勿論それは前提で。でもそれは日々の訓練である程度やってるし、
そもそも、すぐに効果が表れるものじゃない。
だったら、現時点で自分が出来る事、出来ない事を詳らかに明らかにして。
その情報を元に、頭を使って色々と工夫するしかないんだ。
僕は元々、肉体派でも行動派でもない。頭脳派、慎重派なんだ。
という事で、猛は紙とペンを借りて人気の無い場所まで赴いて。
カイガの性能を、色々と検証してみた。
その結果分かった事と、今までに分かっていた事を纏めるとこんな感じだ。
①僕以外にはとてつもなく重く感じるけれど、僕には普通の武器以上に軽く扱える。
②様々な武器や防具の形状に変化出来る。
これは今まで分かっていた事だけど、今回の検証である程度制約が有る事も分かった。
まず1つ目に、『あくまで武器か防具にのみ変形出来る』点だ。
つまり、この手の『自在に変形出来る』モノで想像されがちな『人の姿に変形させてムフフ……』などという事は出来ない。
……まあ、たとえ出来てもやらないけど。
僕は『中身があってこそ』派だから、例えアイシャさんに変身させられたとしても嬉しくはない。
そもそも、カイガには自我が有るんだからそんな事させらんないよ。
2つ目に、『変形出来ない武器もある』点。
具体的に言えば、ムチとか弓矢とかだ。
ムチや弓矢はあまりガチガチの金属製ってイメージが無いし、これは仕方が無いかも。
杖やロッドも一応変形自体は出来るけど、別に魔法が使えるようになる訳じゃないし実質無意味と考えて良いだろう。
あと、鎧や兜にも変形できるみたいだけど、既にジェンマさんが造ってくれた優秀な物が有るからこれも使わないかな?盾くらいしか使わないだろう。
③どんな武器に変形させても僕が感じる重さ、他の人が感じる重さは変わらない。
小さなナイフだろうが大剣だろうが、僕の感じる重さは変わらないみたいだ。
それと同じく、相手に与える一撃の重さも変わらない。
変わるのは僕にとっての扱いやすさと、相手に当たる面積と体積……かな?
例えば、いくら重さが変わらないったって、大剣じゃ物理的に大きいから投げたりする事には向いてない。けど、ナイフなら片手で扱える訳だから先日の戦いの時みたいに投げて飛び道具として扱う事も出来る訳だ。あのコウモリの魔物には逃げられてしまったけど……
④簡単な傷は変形時や時間経過で直る。
ジェンマさんですら『見た事が無い素材で出来てる』らしいカイガがもし損傷しても、直せそうな人なんて見当たらないから少し心配していたんだけれど、これは助かった。
頑丈なカイガをわざと傷付けるのは難しいし、そもそも自我が有るって分かってるのにそんな事をするのは忍びないと思って直接聞いてみたら、
『軽い傷やヒビは変形時に無くなるか、そのまま放置していれば直る』のだそうだ。
ただ、粉々になるとか真っ二つになるとか、著しい破損は修復不可能らしい。『そうなったらカイガの自我はどうなるの?』と聞いても、黙ってしまって答えてくれなかった。
という事は、きっと……
『そんな事にならないように気を付けるよ』と言ったら『まあ、そんな敵には出会わないだろうがな』と言ってくれたけど……大丈夫かなあ。フラグにならない……よね?
⑤カイガの意思で、重さの調節は可能。
これは意外だったけれど、言われてみればふと思い出した事がある。
レンド隊長と最初に決闘した時、肘を打ち付けられて僕はカイガを取り落とした。
もし常に重たいのであれば、あの時も入団試験の時のように地響きが起きていたはずだ。
今にして思えば、あの時はカイガの意思で重量を軽くしたんだろう。
……けれど、『じゃあ僕以外の人でも持てるように出来るんだよね?』と聞いたら『今の所、猛以外に私を扱わせるつもりは無い』と頑なに拒否されてしまった。
うーん、変な所でガンコだ……まあ、きっと何か事情が有るんだろう。
カイガの性能についてはこんなところだ。うん、やっぱり紙に書いてみると出来る事・出来ない事がハッキリ分かるんだね。
今後はこの情報を元に、戦闘の展望を組み立てていこう。
……あとは、僕自身が置かれている状況、だ。
アイシャさんに斬られた、あのならず者3人組はこう言っていた。『僕のような身なりの人間を殺せ』、『紫の宝石を持っていたら奪え』と頼まれた、と。
……つまり、僕はその依頼主に何故か知らないけれど狙われてるって事だ。
考えただけで恐ろしいけれど、相手の素性が全く分からない以上僕にはどうしようもない。
そりゃ、安全を取るならリンガランド家の屋敷に引きこもるとかでもすれば良いのかもしれないけれど。
姿の見えない物に怯えながら生活する日々を続けていたら、いずれは精神が参ってしまうだろう。
だから、出来るだけ対策出来る環境を整えつつ暮らしていくしかない。
その点、アイシャさんと一緒に暮らし、勤務は強者揃いの第1部隊内という今の状況は悪くないと言える。
……そう思えば、今みたいに人気のない所に一人で来てるのって危ないよね。今後は控えるようにしよう。
それと……もう1つ不穏な連中が居る。
『組織』と称される、悪人や魔物達が属する集団が居るって事だ。
根拠としては、『鉄球のロンボ』が今際の際に口にしたのがひとつ。
そしてもう1つ……先日のレンド隊長達との戦いで、最初に殺さずに吹き飛ばしただけで生き延びた男……名前は、ロミンとか言ったかな?ソイツがが目を覚まし、取り調べを受けた時に口にしたそうだ。
あんな事をした動機として、『組織』に与しいずれこの世を支配する側に回る為……と。
あと、去り際にあのコウモリの魔物が口にした事から、そいつらのリーダーは『首領』と呼ばれているらしい。
ただ、ロミンは『組織』の名と首領の情報は吐かなかったようだ。
そして、更に悪い事に……一昨日の朝、そのロミンの死体が発見されたそうだ。
申し訳程度の換気穴しか空いていないほぼ密室に閉じ込められていたにもかからわず、血が全部抜かれた状態で発見されたらしい。
猛は、犯人がなんとなく分かっているような気がした。
『依頼主』と『組織』。
同一なのか、それとも別なのか?
多いなら多いだけ面倒なので、出来れば同一であってほしいけれど。
肝心なのは、僕はこの短い間にこの両方と敵対してしまったという事。
そして……こんな、命を何とも思わない悪逆無道な奴らを、放っておくわけにはいかないという事、だ。
自分が生きていく為には、この連中との戦いは避けられないような気がする────。
猛は、そんな予感を感じていた。
─────────────────────────
あとがき
読んでくださってありがとうございます♪
ここまでの情報整理みたいな回です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます