第17話 とある部隊長の後悔と無念
まえがき
今回は15話の戦いをカイナ視点で書いた話です。
─────────────────────────
私は、『彼ら』の力を思い知った。
膨大な戦力。それを圧倒的なカリスマ性で纏め上げる『首領』の存在。
私は確信した。いずれ、この者達がこの世を支配する時が来るだろう、と。
この者達の前では、我ら護衛騎士団の力など形無しだろう。
我らが唱える形ばかりの平和など、この者達を差し置いて成し得るはずがないのだ。
────ならば、そうなる前に『彼ら』に取り入り。
支配が済んだ暁には、我々も重要な位置に居れるよう取り計らっておこう。
上手く行けば幹部になれるかもしれないし、悪くとも警察部隊を指揮する立場くらいにはなれるだろう。
圧倒的な力と権力を嵩に、我々なりの『平和』を維持するのだ。
────第17話 とある部隊長の後悔と無念────
事前の仕込みは完璧だ。
市民を脅してリンガランドの小娘にガセネタを流し、魔物共が待つ荒野に誘い込む。
来た時から我々が魔物と共に居ては、余計な疑念を持たれてしまおうが……遅れてやって来れば、何も疑われず『加勢しに来た味方』と判断されるだろう。
そら……案の定、この小娘は何の疑いも無く、我らを味方と思い込んだ。
その油断が、命取りだったな。
第2部隊が抱える屈指の吹き矢使いであるこ奴の吹き矢の精度を以てすれば……今の気の緩んだ貴様の速度なら、捉えられるぞ。
……よし、命中したようだな。手が痺れてきたようで、あの小娘は剣を落とした。
普段なら、【英雄】とまで呼ばれるこの小娘を真正面から殺す事は出来ぬ。
だが、まともに動けぬ今の状況なら私一人でも容易に命を奪えるだろう。
だが、私は油断はしない。事前に魔物共から奪わせたジェンマ製の防具を着け、更にこれだけの戦力を整えたのだ。
最早どこをどう見ても、この計略に一部の隙も無い。
さあ────契約通り、この小娘を殺し、『彼ら』の勢力の一端として迎え入れてもらおうではないか。
そう、思っていた矢先。
一人の見慣れぬ騎士が、場違い甚だしくこの場に流れ込んで来た。
「……私は
『
……しかし、一応は警戒しておかねばなるまい。
コイツは、一部の隙も無かったこの計画に突然紛れ込んだイレギュラーな存在だ。
能力次第では……この計画を狂わせる事になるやもしれん。
そう考えていると、その騎士は私の事を詰ってきた。
フン、バカめが。情報を渡す事は、巡り巡って敗北に繋がる。誰が答えるものか。
「これから死に行く者が知る必要は無い。のこのことこの場に現れたのを後悔するが良い」
綺麗事を講釈垂れるだけの無能ならば、すぐにでも私が始末してやる。
その時、部下の一人が私の前に進み出て来た。
ロミンか……コイツは、私の部下の中でも野心家だ。
ここで私にアピールしておき、『彼ら』の一部になった後も良き地位に就けるように……といったところであろう。
まあ、丁度良い。ロミンが始末出来るのならそれで良いし、仮に負けたとしても奴の力を測る試金石くらいにはなる。
さて……見せて貰おうか?
……やはり、ロミンがしゃしゃり出てきたのは私にとって幸運だったか。
奴は、斬りかかったロミンの攻撃をものともせず。
逆に、ロミンを一撃の元に吹き飛ばした。
小柄な見た目から、何という凄絶な一撃を放つのだ、コイツは……
「……殺してはいない、打ち付けただけだからな。今これを見て降伏するなら、この場は最も平和に収まる。考えてみろ」
……フン、どうやら力はあるようだが、思考はどこまでも綺麗事をのたまう甘ちゃんらしい。この期に及んで、降伏をしろなどと提案してくるとは笑止な。
攻撃力と堅牢さには自信があるようだが……コレはどうだ?
魔法使い二人の、凍らせて足止めしてからの焼却攻撃。
剣を振るう事しか能の無い無能ならば、逃げる術は無いぞ!
……みくびっていた、か。
奴の防具は、氷の呪文を殆ど受け付けず。
合体魔法の用意に入っており動けなかった2人の腕を、一撃の元に斬り飛ばした。
腕で支えられていた頭上の火の玉が魔法使い達を焼き……これで3人が戦闘不能となった。
無名の騎士だが、どうやら大層な名を名乗るだけの力は有るようだ。
このまま少数でかかり続けても、こちらの犠牲が増えるだけであろう。
確実に【英雄】をここで仕留めておく為にも……コイツも、ここで今すぐ始末せねばなるまい。
私は指示を出し、全員で奴を取り囲んだ。
こういう時注意するのは、敵のリーチに入らない事だ。
リーチが敵より長く取れる者はギリギリの距離から攻撃し、それが出来ぬ者は素早いヒットアンドアウェイを心掛ける。
これは、常日頃の訓練で部下には周知してある。それを忘れる部下達ではない。
幸い、奴のエモノは普通の大きさの剣……そう特別にリーチがある訳ではない。斬られるのはせいぜい1人か2人程度で、正面を担う私が狙われるのなら私が躱せば被害は無いも同然。後はタイミングの問題だ。
じっくりと、焦らず見計らい……来た!ここだ!
「……今だッ!」
私は合図を出し、部下や魔物共と共に奴に飛びかかった。
『
しかしその瞬間、私は目撃した。
奴が、何やら叫ぶと同時に。
奴の持つ剣が、みるみる内にその形状を変え……大きさ2メートル以上はある大剣へと姿を変えたのを。
いきなり、リーチが倍以上になった。引いて躱さねば危険だ!
だが、咄嗟に反応出来たのは……私と、あのコウモリの魔物だけであった。
他の者は皆、突然リーチの伸びた奴の大剣の餌食となった。
間一髪のところで避けられたが……クソッ!何だ、あの武器は!
ふざけた威力を誇る上に、変形するだと?聞いた事すらない武器だ!
「貴様も……逃さんぞ」
奴が、大剣を構えてこちらに詰め寄ってくる。
……いや、落ち着け。やりようはある。
私の成し得る最高速度で奴の懐に入り込み、装甲の薄い部分を狙い斬り裂く。
あの大きさの大剣ならば、懐に入れば逆に安全なはずだ。
変形する間もなく、斬り刻んてくれる……!
狙い通りだ。一瞬で、奴の懐に飛び込んだ。
そして、比較的装甲の薄い部分に斬撃を浴びせた。
……何故だ。何故奴は、倒れるどころか全く効いていないのだ!?
この動揺が、私の命取りだったのだろう。
攻撃が効かなければ、すぐに退いて距離を取るべきだったのだ。
動揺した私の目に入ったのは。
いつの間にか元の剣へと戻っていた奴の武器が、私目掛けて振り下ろされる瞬間であった。
なるほど……部下達や魔物共が、ただの一撃で倒れたのも……頷ける威力だ。
ジェンマ製の鎧を、私の身体ごと易々と斬り裂くとは。
内臓のあちこちが、真っ二つに斬り裂かれた。
数多の戦いを経験してきたから分かる。私はもう……助からないだろう。
霞んできた目で見たところ……あのコウモリの魔物は逃げを決めたようだ。私は……見放された、か。
クッ……やはり、魔物共など信用ならなかったか……
いや、一番信用ならぬのは。
あの魔物共でも、第1部隊の連中でもなく……
いつの間にか、ここまで道を惨めに踏み外した……私自身、か…………
意識が朦朧とする中、私に引導を渡したあの騎士が私の元に歩み寄ってきた。
「レンド隊長……残念です」
奴はそう言って、その顔を隠していた兜を脱いだ……
き、貴様は……!
ついこの前、私が軽くいなした第1部隊の新人。
そうか……貴様は、爪を隠していたのだな。
来たるべき、この時まで……
「ああ……無念……だ」
ああ、本当に無念だ。
こ奴の強さを見抜けず、仲間に引き入れておけなかった事が。
────いや、違うか。
本当に、無念なのは……
これほど強く、無垢で愚直な者が……もう2年、早く現れていれば。
あの鉄屑男などに。
勇敢だった我が親友、ラトイも。
……私にやすらぎをくれたただ一人の女性……ケーネも。
あんな目に……遭わされる事は…………
ラトイよ。ケーネよ。
私も今、そちらへ行く。
…………いや、行けぬ、か。
騎士の道を踏み外し、因果応報を受けた者の行く先は。
お前達が居るところではなく……地獄の底、だろう…………
その思考の通りに。
目を閉じたカイナの意識は、深く深く、地の底へと……沈んでいった。
─────────────────────────
あとがき
読んでくださってありがとうございます♪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます