第10話 記憶者
カミスの言葉に、猛は呆然となった。
「う……生まれ変わった?」
俗に言う、『異世界転生』ってやつだろうか?
僕は元の世界で……たぶん死んだわけじゃないだろうから、『異世界転移』?
猛に問うカミスの目は、いたって真剣そのものであった。
──────第10話 記憶者──────
「ホノムラくん。僕の言う事が……信じられるかい?」
カミスが真剣な眼差しで猛を見据えつつ再び問い掛けた。
「え、ええ……信じられます。驚きはしましたけど、僕も心当たりが有りますし」
こちらの世界ではまだ見た事が無いレーザーという言葉を知っている事。
僕と同じような形式の名前の人間が沢山居る国を知っている事。
僕の元居た世界の事を知っでいると仮定すれば、全て辻褄が合う事だ。
「良かった……信じてもらえた、か……」
猛の返答を聞いて、カミスは心底安心したかのように胸を撫で下ろした。
「よし、もう少し踏み込んだ事を聞こう。キミは地球という惑星の、日本という国に住んでいた。間違い無いね?」
「ええ、その通りです」
決まりだ。この人の言う事はウソではない。
元の世界を知っていない限り、地球だとか日本だとかの単語が出てくるはずがない。
「そして、地球で死んでこちらの世界に生まれ変わった……そうだね?」
んっ?
「いえ、僕は生まれ変わってはいないです。日本から、そのままここに来たというか……」
「何だって?」
カミスは驚いた表情を見せると、手を顎に当てしばらく考えに耽った。
そしてしばらくして、そのポーズを解き話し始めた。
「ホノムラくん、少し遠回りな話になるかもしれない。最初は少し関係の無い話になるかもしれないが、恐らくキミにとっても知っておいて損はない話だ。聞いてくれるかい?」
「はい、大丈夫です」
むしろ、地球の事を知りこちらの世界のことも知っている大先輩だ。こちらから頼みたいくらいだ。
「ありがとう。ではまず……この世界の大人なら誰もが聞いたことのある話だ。『創世神話』というのが有ってね……
【彼の世界にて非業の御霊となりし魂、その神は憐れみけり。
その神、憐れなる御霊達に今一度機会を与える世界を創りけり。
忘れるな。我らはその神の大いなる聖心の元に存在する事を……】
……この世界の成り立ちとされる、古くから伝わる詩だ」
ええと、それってつまり……
「この世界は、地球にて非業の死を遂げた者の転生先として、とある神が創った……という事ですか?」
「確証は無いけど、詩の内容はそれで合ってるね。まあ、今となってはあまり気にする人は居ない。前世が悪かったからって、それにクヨクヨしていても始まらないし、そもそも……皆、前世の記憶なんて覚えていないんだ」
「覚えていない?でもジェンマさんは……」
ところが、カミスは人差し指をチッチッと振った。
「ホノムラくん。キミは疑問に思わなかったかい?この世界は、妙に地球の文明と似ているという事。そして、イチから発明したにしては、いくつか歴史をすっ飛ばしたような順序で文明が開花しているという事に」
猛は、はっと息を呑んだ。
確かにそうだ。数字や時間の数え方は地球とまるで同じで。
基本的に『剣と魔法の世界』な文明の中に、不自然に混ざる銃器や水洗トイレや簡易的な電化製品……
偶然にしては多過ぎるし、地球では有り得なかった時代の物が共存しているじゃないか。
「こんな仮定をしてみたらどうかな?『稀に、地球での記憶と知識を保持したままの人間が生まれてきて、こちらの世界の文明にブレイクスルーをもたらしている』……辻褄が、合うと思わないかい?」
猛に、否定する要素など見付けられなかった。
現にその『前世の記憶と知識を保持したままの人間』と思われる人物が、目の前に居るのだ。
「僕は確信している。一足飛びな発明や文明・文化をこの世で創り上げた者は……みな、僕と同じ【
勝手な名称を作るカミスに、猛は思わずズッコケた。
せっかくシリアスな話だったのに……
「な、なるほど。それで?」
気を取り直して猛が続きを促す。
「うん、それでね?気になった僕は、以前【記憶者】だと思われる人物や、あと念の為にその周りの人物について色々調べた事があるんだ。けれど、僕もそうだったけど、ちゃんとこの世の母親から産まれ、赤ん坊から育ってきた。この世にいきなり現れたような人は、一人も居なかったんだよ」
カミスは、猛の目をじっと見つめた。
「つまり……死んでもないのに、いきなり地球から生きたまま、記憶もそのままやって来た僕は……異端な存在って事ですか?」
「理解が早くて助かる」
カミスは、うんうんと頷きながら言った。
「僕達【記憶者】も異端な存在だよ。だけど、キミはもっと異端な存在と言えるだろうね。何せ、記憶を完全に保持したままこちらに来れている。僕でも、地球での自分の名や、何をして死んだのか、などは覚えていないんだ」
【記憶者】と言えど、完全に記憶がそのままな訳じゃないのか。
「それに、そのとてつもなく重い槍を、何故か難無く扱えるという所もそうだ。キミには何か……創世神話に出てくる神のような、大きな力が働いているのかもしれないね」
「…………」
猛は、なんと答えて良いのか分からなかった。
自分は、何かそんな大きな力に見出されてこの世界に来たのか?
本来は、地球にて非業の死を遂げた魂がやり直す世界として用意された、この世界に生きたまま……
「まあ、こんな話をしておいてなんだけども、今は深く考えても仕方が無いよ。ただ、今後僕に出来るサポートが何かあったら、頼ってくれ。同郷のよしみとして、全力でサポートするよ」
カミスは、両手で固く握手してきた。
「……は、はい!」
カミスの頼れる言葉に、猛の気持ちも少し楽になった。
確かに……今は何も分からない以上、あれこれ不安がっていても仕方が無い。
精一杯生きれるよう、頑張っていくだけだ。
それから、カミスについての話をいくつか話してもらった。
曰く、彼も昔は日本で生きていた、軍事系コンテンツが好きないわゆる『ミリヲタ』であった事。
二十歳の誕生日にその記憶を殆ど思い出し、こちらの世界での実家が鍛冶屋であった為、蘇った記憶を役立てる為に実家の鍛冶屋を継ぎ、前世での知識と融合させる道を選んだようだ。
そして、アイシャが戻ってきて別れを告げる時には。
必ず抜群の性能のモノを作り上げる事を約束してもらった。
────アイシャさんに強引に誘われた形で来たけど、ここに来て良かった。
善き人と知り合えた事に、猛はちょっぴり喜びながら帰路に着いた。
心強い味方が出来たおかげか、帰路の太陽の日差しはいつもよりも眩しく、輝かしい光に思えた。
しかし、猛は知る由もなかった。
喜びがあれば悲しみもあり。
光があれば闇もある事を……
猛が帰路に着いたその頃。
とある場所で、『闇』が牙を剥く体勢を整えた所であった。
「ふん、貴様か……俺達の準備は整ったぞ」
その者は、光る牙を剥き出しにしながら醜悪ににやりと笑った。
「ああ。あとはあの鍛冶屋の完成を待つのみだ」
その者の前に現れた男はそう言うと、鋭い目付きで目の前の者を品定めするように見つめた。
「……もう一度問う。本当に貴様らと組めば……我々の目的は達成出来るのだろうな?」
「ああ。細工は粒々……そもそも、貴様らの目的は俺達の目的でもある。まあ……これが成功すれば貴様らも晴れて俺達の一員となるのだがな」
その者は、ククッとこらえたような笑いを浮かべた。
「しかし、貴様も黒き男よ……いや、目的の為なら、手段を選ばぬ狡猾な男と言うべきか」
「そういう事だ」
男はその者に背を向け、腰に携えた武器に手を掛け戦意をみなぎらせながら呟いた。
「待っていろ。貴様らの失墜の為に……消えてもらうぞ、【英雄】よ」
猛の預かり知らぬ所で、黒い企みが進められていた。
─────────────────────────
あとがき
読んでくださってありがとうございます♪
次のパートで導入編が終わります。ここまでお読み頂けた方は、もうしばらくお付き合い頂ければ幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます