第6話 狙われた壮行パレード

第1部隊の新人団員による壮行パレード。

将来的に国防の根幹を担う期待の存在達の勇姿を民衆に知らしめると同時に、

犯罪を犯そうとせん悪人達に対し『国防はこれだけ厚くなったぞ』と見せつけ牽制する目当ても有る。


だが、もしそんな思惑が有る壮行パレードが、何らかの原因で台無しになったらどうなるだろうか?

民衆は護衛騎士団に不信を抱き始め、悪人共は調子付くだろう。

……つまり、そんな事を狙って壮行パレードを妨害しようとする悪人が現れてもおかしくはない、という事だ。


今ここに始まった、第1部隊の壮行パレード。

その進行を、影からにやついて見つめる一人の男の姿が有った……



─────第6話 狙われた壮行パレード─────



「見ろ!第1部隊のパレードが来たぞぉ!」


民衆のひとりが、街道に現れた第1部隊の一団に歓声を上げた。

その声を皮切りに、街道の端に並ぶ民衆達から次々に歓声が上がる。


「護衛騎士団!今年もしっかり護ってくれよ!」


「いつもお疲れ様!今年もしっかりね!」


「今年も良いのが集まったな!この国の防御は安泰だな!」


そんな感じの声が、民衆から次々と第1部隊の新人達にかけられる。


しかし、新人達にかけられる声は全体の半分ほどだ。

もう半分はと言うと……


「うおお!先頭を見ろ!!【英雄】アイシャ様だ!!!」


「アイシャ様ぁぁぁぁぁ!!いつも凛々しいですわぁ……!」


「アイシャ様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!最高ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


この国の【英雄】たる、アイシャに向けられていた。

アイシャもそんな声を掛けられ慣れている様子で、しっかりと民衆に向かって手を振って応えている。

セタン国において【英雄】アイシャを知らぬ者は殆どおらず、またその人気も絶大であった。

このパレードの見物人の半分ほどは、アイシャを間近に見られるチャンスという理由でやって来ていると言っても過言ではなかった。


「凄い人気だ……アイシャさん」


猛にとって、アイシャは確かに尊敬すべき人物ではあるが、同居(居候)している為にそれほど『別世界の人』という印象は抱いてはいなかった。

しかし、今のこの民衆の反応はまさに、『お伽噺の中の英雄』に向けられるようなレベルの称賛と憧憬そのものであり、猛は圧倒されていた。


すると、隣に居た猛と同じく新人の団員が声を掛けてきた。


「お前……セタン国に居ながら【英雄】アイシャの人気ぶりを知らないのか?」


猛が振り向くと、信じられないといった表情をした銀髪の男が居た。


「は、はい。ちょっとその……かなり遠い所から最近来たばかりで」


異世界から来たのだから、あながち嘘ではない。

銀髪の男は、そう答えた猛の顔をまじまじと見つめる。


「へぇ……アイシャ・リンガランドの名は他国にも広まってるらしいが、よっぽど遠くから来たんだな?いきなり遅刻かますし、結構変わった奴だな」


「それは……」


ギリギリまで第1部隊への入団をするか否かを考えていたのが理由だが、そんな事は情けなくて言えない。


「ま、その後にしっかり謝ってたから悪い奴では無さそうだけどな?おっと、自己紹介まだだったよな。俺は『ラピス・ランケア』、名槍術士の家系ランケア家の長男。以後よろしくな」


「は、はい」


不意に差し出された手を、ぎこちなく握り返す猛。


「おいおい、そっちも名乗ってくれよな」


「あっ……すみません。僕は『ホノムラ タケシ』と言います。えっと……特に他に名乗ることは無いです」


ラピスに比べ紹介出来る事の少なさに、猛は少し居心地の悪さを感じてしまった。


「謙遜するなって。その背中に背負ってる槍……お前も槍術士なんだろ?第1部隊に入団出来たんだから、既にそれなりの腕前が有るはずだぜ。どっちがより強い槍術士になれるか、楽しみだな」


「あ、あはは……」


猛は思わず変な愛想笑いをしてしまった。

自分はまだ、槍術士なんて名乗れるほど槍を扱えるレベルではない。

たまたまこの槍を渡されて、それが何故か自分にマッチしてしまった、というだけの浅い経歴でしかない。

名槍術士の家系の長男などというエリートな血筋の彼とは、比べ物にならないだろう。


「いやぁ、しかしこの国は元々剣士が多かったんだが、ここ数年はアイシャの活躍でますます剣士志望の人間が増えた反面槍術士がどんどん減ってんだよなぁ。そんな中で他の槍術士に知り合えたのはラッキーだったぜ」


ラピスが晴れやかな笑顔で言う。


「お前のその槍……なんというか、黒くて重厚でカッコいいな!こんな槍見た事無いぜ、ちょっと触らせてもらってもいいか?」


猛の背に掛かっている槍を、興味津々な眼差しで見つめるラピス。


「良いですよ。けど、多分コレが終わってからの方が良いと思います。今はちょっと、マズいというか……」


この不思議な槍は、自分以外には鉛のように重たく微動だにさせられない特性を持つ。

今渡してしまえば、持った瞬間突然両腕を持っていかれそうになりラピスが混乱し、最悪パレードの進行が止まりかねない。


「ん?よく分からんが……まあ後でも良いや」


ラピスもパレード中という事も有り、食い下がる事なく素直に受け入れた。


そんなやり取りをしていると、ふいに民衆の中から彼らに声を掛ける者が居た。


「槍使いのおにーちゃん!」


猛とラピスが声のする方を振り向くと、そこに居たのは。

目をきらきらと輝かせた、幼い少年と少女が居た。


「おっ、お前らかー」


反応を見るに、どうやらラピスの知り合いのようだ。


「あぁ、お前は知らないだろうけどコイツらはな?まあ俺ん家のお隣の兄妹だな」


お互いにはぐれないよう手を繋いだ兄妹は、まじまじと猛を見つめている。


「ラピスにーちゃん以外にも、ヤリ使いの人っていたんだー」


幼い少女が、珍しいものを見るような眼差しで猛の顔をじーっと見ながら言った。

ラピスが言った通り、この国では今や槍使いはかなり珍しいようだ。


「にーちゃん、がんばれよ!」


活発な幼い少年が、にこにこ笑顔で猛に激励の声を掛ける。

そんな少年に、猛も思わず笑顔になった。

子供は好きだ。良くも悪くも素直で、分かりやすくて、可愛らしい。


「うん、頑張るよ」


幼い兄妹の微笑ましさに、緊張が解れた猛は自然な笑顔で応えられた。



────その時。

猛の背中に、悪寒が走った。

まるで、背に掛けられたあの槍に警告を受けた。そんなような感覚。

その奇妙な直感に従って、視線を向けたその先。

人目につきにくい暗い路地裏から、鎖の付いた鉄球が……幼い兄妹に向けて、放たれた。


「危ないっ!」


猛は我を忘れて絶叫し、背中の槍を引き抜いた。

そして兄妹と鉄球の間に身体を入れるように、パレードの隊列から飛び出て跳んだ。


ただ盾になるだけじゃ、きっと僕ごとこの兄妹は吹き飛ばされるはず。

間に合え……間に合え!


猛は跳んだ勢いそのままに、力いっぱい、飛んでくる鉄球に槍を振り下ろした。


グシャっと、鉄球がひしゃげる鈍い音が響き。

ドスンと、ひしゃげて半壊した鉄球が地に落ちる音が周囲に響き渡った。

猛の一撃は、兄妹に鉄球が届く前に撃ち落とす事に成功した。


一瞬の出来事に殆どの者が呆気に取られていたが、次第に理解が追い付き周囲がざわめき始める。

そして、路地裏から鉄球を放ったと思われる何者かが、壁を蹴って上に登り、民家の屋根に駆け上がって行くのを猛は目の当たりにした。


「待て!!!」


猛は、怒りの赴くまま犯人を追い始めた。


「お、おい!」


「待て!ホノムラ、慌てるな!」


ラピスとセルジェントの声も、怒り心頭の猛に耳を貸す余裕は無かった。


いきなり、何の罪も無い無垢な幼い兄妹を殺そうとするなんて。

そんな奴を野放しにしたら……あの兄妹が、あんな幼い内から世間に怯えながら過ごしていく事になってしまう。


そんな事は、絶対に駄目だ。

野放しにさせるもんか。絶対、捕まえて引き渡してやる!!





─────────────────────────

あとがき


読んでくださってありがとうございます♪

今回は少し短め。

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