第3話 運命の出会い
「ふむ……何か出来る事、か」
猛の言葉を受けて、少し考え込むアイシャ。
「……そうだ、1つあるな」
「はい、どんな事ですか?」
「お前も、セタン国護衛騎士団に入ってもらう事だ」
「えっ」
──────【第3話 運命の出会い───────
「ま、待ってください!僕、スポーツすら全然で、戦う事なんてとても!」
どだい無理そうな難題を吹っかけられ、思わず抗議してしまう猛。
だが、アイシャは涼しい顔だ。
「心配するな、今の私のような任務は、私が率いる『第1部隊』の仕事だ。ひとくちに護衛騎士団と言っても、全員が全員、悪党と命懸けの死闘をする訳じゃあない」
「え……じゃあ、僕にやってほしい事って、一体?」
「お前に頼むとしたら、街の警邏とか、その辺りの事になるかな……平たく言えば、街中のちょっとしたトラブル解決人、と言ったところか」
トラブル解決?幅広すぎて、ピンと来ない。
そんな猛の表情を察してか、アイシャが更に説明を続ける。
「具体的に言えば、騎士団の名前を出せば収められるような市民同士のいざこざや、迷子の対応とかだな。今まではその辺りも我々がこなす事に問題は無かったのだが……」
「……そうか。さっきのようなヤツが増えてきていて……軽度の問題解決の方に回せる人手が足りない、って事なんですね?」
「そういう事だ。察しが良いな」
なるほど、一見ムチャな頼みに見えたが、理由と内容は分かった。
正直、それだって上手いことやれる自信は無い……けど、説明された内容くらいであれば僕にも……?
それに、『何か出来る事は無いか』と申し入れたのはこっちだし、アイシャさんもちゃんと僕の能力を考慮して答えてくれた。
これを無碍に断るのは……気が引ける。
「……分かりました、やってみます!」
とりあえず、やれるかどうかを決めるのは、やってみてからにしよう。
「感謝するぞ、タケシ!さて、これで晴れて護衛騎士団の一員……と、言いたいところなのだが」
ん?
「残念ながら、団員の加入は団長の私ですら一存では決めてはならない事になっている。タケシにはまず、2日後にある『護衛騎士団入団試験』を受けてもらわねばならない」
し、試験!?そんなのが有るのか……っていや、むしろ有って当然かもしれない。しかし、そんなモノが有るのだとしたら僕は……
「すみません、自分で言うのもなんですけど……僕じゃとても試験に受かりそうには」
だが、アイシャは予想していたとばかりに即座に答えを返した。
「ああ、よほど人格難だったり、やる気の無い姿勢を見せでもしない限り『受かる事』自体は確定なんだ、何しろ人手が無いのでな。ただ、受験者同士の1VS1の模擬戦闘を行った結果と、本人の希望を照らし合わせてどの部隊に配属するかを決める事になっているんだ。ちなみに、武器も魔法も有りでな」
せ、戦闘!?しかも武器も魔法も!?つまりそれって、相手が火の玉を飛ばしてきたり、剣で斬りかかってきたり……さっきみたいな目に遭うって事じゃないか?
不安の色が隠せない猛の顔を見て、アイシャが慌てて付け加える。
「安心しろ。セタン国の抱える魔道士部隊が、殺傷力を半分以下にする対刃・対魔特殊結界を展開する。人手が足りないというのに、試験で大怪我や命を落とさせるような事をする訳が無かろう?戦闘の形を取る理由は、一人で特技をアピールさせるよりも、戦闘形式の方が発揮しやすいだろうと考慮されての事だ」
よ、良かった……いや、まだ良くないかも。
「とりあえず、そんなに危険は無い事は分かりましたが……さっきも言った通り、戦いも武術も全く心得の無い僕は、試験で何をすれば?」
「まあ、お前に任せたい『街中の簡単な警ら隊』に就く者にとっては、ただの形式的なものになるから……まあ、戦闘は適当にやり過ごせば良い。じきに審判員が戦闘終了の合図を告げるだろう。あまりにも不遜な態度、全くやる気の無い態度では印象が悪くなる事もあるだろうがな」
「は、はあ……」
腑に落ちない所はあるが、とりあえず大怪我や死ぬような事には至らないのであれば、まあ……
「ありがとうございます、分かりました。では、2日後の試験、参加させていただきます!」
「うむ、よろしく頼むぞ」
アイシャが笑顔で頷いた。
そして2人はアイシャの乗ってきた馬に乗り(もちろん猛に配慮したゆっくりめのペースで)、帰路につくこととなった。
────【翌日、夜】────
「はぁ……」
猛は貸し与えられた自室で、緊張と不安極まって大きなため息をついていた。
『試験』というもの自体好きではないのに、明日自分が挑戦するのは選りに選ってバリバリの体育会系な内容。
アイシャさんは、適当にやり過ごせば良いと言ってくれたが……どうすれば良いんだろうか。
とりあえず逃げ回る?いや、いくら『ほぼ全員採る』とはいえ、そんな姿勢で大丈夫なんだろうか?
しかし、仮にまともな勝負の形を取ろうとしたところで……僕には何も出来ない。
自分の武器を持たない者には、試合前に武器を貸してくれると聞いたが……持ったところで、まともに扱えないだろう。
やり過ごすか。戦うか。
どちらの方法を取るにしても、見る者の嘲笑を誘いそうな様になってしまいそうなのが、猛にとって辛かった。
(僕は……どうしたら良いんだろう)
悩む猛が、もう1つため息をつこうとした時、部屋の扉がコンコンと叩かれた。
「はい?」
「タケシか?入ってもいいかな?」
アイシャの声だ。
「は、はい。どうぞ」
タケシの返事に応じ、アイシャがガチャリと扉を開けて入ってきた。
「タケシ。ちょっとついて来てくれ」
「は、はい?」
廊下や階段を歩き回ること数分、僕はアイシャさんの先導である部屋に来ていた。
剣や斧や槍……武器が部屋中に置いてある。武器庫のような部屋だろうか?
「……あっ、もしかして、明日の試験に使う為の武器の話ですか?」
しかしそれなら、試験場でも貸し出しが有ると聞いた。何故今わざわざ?
「そうだ。父上にタケシが入団試験を受けてくれる事を話したらな……こう言ったのだ。『ならばあの槍を持たせてみよ』とな」
そう言いながら、美しい真鍮のカギをちらりと見せ、奥の戸棚に付いたカギを開けるアイシャ。
「私もどんな槍かは知らぬのだが……まあお前に勧めるというのなら扱いにくくは無い物なのだろう。それ、開いたぞ」
────不思議だった。
猛は今までの人生で、『積極的に動く』という事は自分にとって得策ではない、と理解していた。
能力のある者ならともかく、自分のような者がそうしても手痛い失敗をし、笑われたり叩かれたり咎められリする種になるだけだ、と────
しかし、今猛は、自分でも何故なのか理解出来ない程逸る気持ちを抑えられなかった。
アイシャの『開いた』という言葉が聞こえるやいなや、進んで前に出て戸を開け、そこに有ったのは。
1つの、細く黒く、美しく輝く槍。
アイシャに勧められるより先に、猛はその槍を手に取った。
【────見つけた────】
どういう訳かは知らないが、頭の中に、男性のような声が響いた。
だが奇しくも、僕が槍を手にしたこの瞬間の感想も、全く同じだった。
そう思ってしまう程、この槍は自分にしっくり来る物だった。
金属で出来ているとは思えない程軽く、自在に振り回せる。
まるで自分の身体まで少し軽くなったかのような錯覚すら覚えてしまうように、軽快にこの槍を動かせる。
「……ピッタリです。よく分からないけど……凄く僕にピッタリです、アイシャさん!」
『運命の出会い』なんて甘い言葉など、今まで全く信じては来れなかった。
しかし、本当にそんな物が有るのだとしたら、今この時のような事を言うのだろうか?
不思議なものだ。全くの素人の僕が、自分にピッタリと合う槍のひとつ貸された所で、結果が変わる訳でもないというのに。
もはや、先程までの鬱屈な気分など何処かへ吹き飛んでしまっていた。
「そうか、とても合っているようで何よりだ。いくら内容はほぼ問わないとはいえ、やる気のある所は見せておいた方が良いからな」
意気揚々となった猛の様子を見て、アイシャが笑顔で返した。
「明日の試験、お前が尽くせる最善を尽くすんだぞ」
「……はい!やってみます!」
猛が、このリンガランド家で出会ったこの黒い槍。
この、1人と一つの武器の出会いが────この世界を救う出会いになるという事は、未だ人知れずの事であった。
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あとがき
読んでくださってありがとうございます♪
猛の相棒となる槍の登場です。真価が明らかになるのはもう少し先です。
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