第5話お金は大切に

 どこにでもいるような異世界人、旅の途中に立ち寄ったとある町での夕餉の話。そもそも旅の目的地なんて言うのはないのだが………


 少しは腰を落ち着けろとか嫁さん貰わないのとか、放浪者なんて収入があっても住所不定無職ホームレスだろうとか………


 どうした異世界人?路上で蹲るなんて往来の迷惑だぞ!




「じ、地の文がひどい………」


「旅のにーちゃん大丈夫か?」


「あ、ああ……地の文(世界意志)が残酷な現実を突き付けてきて………」


「って、いうか地に足つけた暮らししなよにーちゃん。」


「ぐはっ、この世界は厳しい………」




 冒険者とか魔獣狩人と呼ばれている人たちも実は本拠地とか持っていることが多い。宿を下宿代わりにしたり共同で家を借りたり………そもそも狩人は獲物をある程度絞っているし土地勘が必要な部分もある。見知らぬ土地で即狩りができるなんてそれこそ物語の中………おっと、いろいろなところにケンカを売ってしまいますね。




 異世界人はすぐに気を取り直して宿をとる。食事は近くの食堂でと言われたので言われたとおりに食堂に進む。勿論、お勧めを聞くのを忘れない。旅の楽しみは食べ物である、異論は認める。作者あたりだと酒といいそうだし………


 この食堂の名物はカラアゲといわれる肉の揚げ物である。食道楽と言われた過去の異世界人が伝えた料理といわれているのだがどうなのだろうか?結構これ伝えた異世界人多くないだろうかな?行く街行く街で名物とされている気がしないでもないけど………せめてバリエーション……ほしいです先生。




 異世界人は細長いコッペパンタイプのパンにカラアゲとサラダを挟んで、卓上の調味料で味を調えてカラアゲサンドで楽しんでいる。個人的にはスクランブルエッグも添えてほしいところであるけど親と子を一緒に食べるのはダメという地域の風習のためかなわないでいる。から揚げ丼に目玉焼きはかなわぬ夢なのだろう………


 卵自体を食べるというのが禁忌とまで言わないまでも受け入れられない感じでもあるし………




 そこは地域差であるのだろうなと思いつつカラアゲサンド(自作)をかじっていると食堂の端でけんかが始まっている。


 見た感じ力自慢そうなムキムキが


「カラアゲにレモンかけるな!かけるならばダイダイだろうが!」


 と吠えれば細身の剣士が


「ふっっ!何を言うかと思えばバカの一つ覚えみたいにダイダイとほざいているのですか。おかしみを通り越して憐れみを感じますね!」


 周りはあきれている、カラアゲに何をかけるかはそれぞれの自由ではないか?言い争いがヒートアップして醜いことこの上なくなっている。




 そのうちに細身の剣士が


「君はこうなるのをわかって言っているのかい?」


 と銅貨を放り投げると共に剣閃を放つ、銅貨が地に落ちるときには納刀して涼しい顔をしている。よく見ると銅貨は4つに分かれている。


 ムキムキが


「大道芸ならばよく受けるだろうな、なんならば銅貨恵んでやろうか?」


 と銅貨を取り出して親指と人差し指で挟んで圧力をかける、銅貨は軽い抵抗とともに曲がってしまう。


「武器に頼るとは情けないな、男ならば体一つでこのくらいやってみたらどうだ?」


 両者ともに殺気をぶつけ合っている。




 その最中異世界人は呑気にカラアゲサンドと食べ終わって、次のカラアゲサンドを作りながら隣の席の男に


「どうしてこの場で切ったりするのは銅貨なんだろうな?どうせならば見栄えよく銀貨とか金貨で…………」


 とボソッと




 これが聞こえたのか細身の剣士とムキムキから


「馬鹿野郎!銀貨なんて勿体なくてできるか!それに金貨のほうが柔らかいからすぐ潰れちまうだろうが!」


 とムキムキが意外とまともな答えが返ってきて


「銀貨分の余剰稼ぐのに何日かかるんだ!」


 と細身の剣士から世知がたい答えが返ってくる。




 異世界人はのほほんと


「それ以前に、お金をおもちゃにしちゃダメだと思うんだ、そういえば銅貨とか壊しちゃいけないという法理ないのかな?贋金とかはつるし首になったりするのにこう言う事って貨幣の価値をないがしろにしてそれを発行する国の面子とか色々………」


 ちょ、おまっ!何言っているというムキムキと細身の剣士のそばに


「私はこの町の衛兵長の一人である。旅人殿、それについて少し話を聞かせてもらえるかな?」


 と非番の衛兵長が異世界人に訊ねてくる。異世界人も


「いやぁ、私の故郷で昔金貨銀貨を鋳つぶして利ザヤを稼がんとした悪いい外国人がいましてねぇ、貨幣を鋳つぶしたりおもちゃにすることを禁じた法律があるんですよ。私もそんな詳しくないですよ、それ以前に口論まではともかく武器を抜いたりするのって大丈夫なんです?」


「詳しく聞きたいけどその前にそこの剣士が剣を抜いたりムキムキの拳士が力を見せびらかすのは町の治安上よろしくない行為であるな。そこの二人少し頭を冷やそうか?」


 衛兵長は二人の肩をつかんでイイ笑顔で微笑む。


「えっと……俺たちちょっと意見に違いはあったけど仲良しだよなぁ。」


「ああ、ちょっと頭に血が上ったりしたけど………大丈夫ですんで見逃してもらえませんか?」


「うんうん、君達の言いたいことはよくわかった。よぉくわかった!でもなぁ、私の非番時に厄介ごとを起こすなぁぁぁぁぁぁぁぁ!これからお前らを連行して取り調べして色々仕事しないといけなくなったではないかぁぁぁぁぁぁ!しばらく街を歩けると思うなよ。」


 衛兵長はつかんだ肩を持ち上げて二人を放り投げる!喧嘩していたムキムキと細身の剣士は路上にたたきつけられる。


「衛兵長さんご愁傷様です。」


「旅人殿貨幣を鋳つぶす話を後で話してもらえるかな?これも報告に上げないといけないようだ。」


 異世界人はいつ旅に出れるのやら。




 衛兵長は二人を担いで叫ぶ


「カラアゲには大根おろしだろうがぁぁぁぁ!」


 それはそれでおいしいのですけどね。


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ネタバレ&登場人物


異世界人:住所不定無職、一応旅人なんですけど何で生計を立てているのか謎。この語衛兵長に貨幣損壊罪について問い詰められて国の財務卿の所に更に説明のために連行されてしまうのである。ある意味被害者。カラアゲにはタルタルソース派(ただしこの世界にはめったにない)




ムキムキ:拳士、力自慢の大男。食堂で喧嘩した罪で奉仕作業3日の刑になってしまう。勿論銅貨を握りつぶした件でお金の大切さを神殿の説法師に半日ばかり説教される羽目になっている。そもそも銅貨をつぶす握力は並みの鍛え方ではできないはずなのだが見せ場を誤った。カラアゲにはダイダイ派




細身の剣士:食堂で剣を抜いた罪で奉仕作業10日の刑(武器を抜いた分ムキムキより罪が重くなっている)示威行為として効果を十文字切りにしたことについては鍛冶師組合の大親方より剣をおもちゃにするんじゃないとしこたま拳固を食らっている。銅貨を十文字切りにする技量は一流と称してよいのだが(以下略)。カラアゲにはレモン。




衛兵長:町の治安を守る武闘派、書類仕事は副官に任せているのだが現場に居合わせていたために非番でいい気分の所仕事しないといけなくなった今回の被害者。貨幣損壊罪については町の町長に丸投げしている。(町長お呼びにその上の伯爵は王都に丸投げしている)不法者を取り押さえるのは得意だが法律とか経済問題は職分を超えるらしい。カラアゲには大根おろしとポン酢。最近食欲が落ちているらしい(自称)

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