第4話鍛冶師さんのお・も・い(はぁと)

 旅する異世界人はとある町にて魔物狩りの一団と席を共にすることがあった。正確には食事をするために訪れた酒場が満席で相席を願われたからなのであるが…………




「おぅ!旅人のにーちゃんよぉ!邪魔させてもらうぜぇ!」


「どうぞ、どうぞ。」


 モヒカン頭で筋骨隆々のなろう系では初っ端のカマセになりそうな若いのが乱暴ながらも挨拶をして席に着く。それに続いて口々に挨拶をしながら彼の仲間達が座ってくるのである。




「うん、こうしてみると俺すごい場違い。」


「なんというか魔物狩りの一団の中に一人だけ一般人………だものな。」


「まぁ、なんというか、俺たちが後から来たんだがな。あまり気にするなとしか。」


「あたしは別に気にしないけどなぁ。依頼人とかと同席することもあるし。」




 見た目は濃いけど結構上機嫌で気のいい面々を見て異世界人は自分の取り分である腸詰の盛り合わせを勧めると魔物狩りの面々は遠慮なくとかぶりつくのである。


「にーちゃん、ゴチになるね。」


「いやぁ、狩りはうまくいったんだけど腹ペコでさぁ。こりゃうめぇわ!」


「ねーちゃん!こっちのにーちゃんにもエールひとつ!」


 モヒカン頭は腸詰をごちそうしてくれた異世界人に返礼のつもりなのかエールを追加する。見た目の割には律儀な男である。


「にーちゃんも俺たちに付き合えや!今日は狩りがうまくいった祝杯だぁぁぁぁぁぁ!」


 魔物狩りの一団のスキンヘットの男が届けられた盃を片手に威勢を挙げる。




「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」




 あれれと思う前に彼らに巻き込まれてしまった異世界人。単純に仕事の打ち上げだから………いや、それはいろいろあれだから(by作者)




 まぁ、作者の場合は前職の仕事の打ち上げで二升五ン合一気飲みで営業していたから別の話として置いておくとして………




「ぎゃはははははっはっ!あの地の魔獣って……飼いならされているんだ。」


「そうそう、とらさんがおばちゃんにブラッシングされて気持ちよさそうにしているんだけど次の日には奥さんたちにぼこぼこにされて奥さんたちのブラッシングの分の獲物を用意させられているのは」


「そりゃ、とらさんが悪いよ。奥さんたちを優先すればそれなりにねぇ………」


「ああ…………そうだな。」


「うむ………」


「あんたたちも奥さんとか彼女を大事にしないとだめだぞ。」




 旅の話をする異世界人に妙にハイテンションな魔物狩りの紅一点である女戦士さん。前に出会った魔物たちと共存する町でのとらさん一家の事を笑い話風に言えば家を守っている奥さんの立場から突っ込みを入れてくる。他の男連中は思い当たる節があるのか苦笑いでごまかしている。帰りがけにこの店でお土産を買っていくのだろうという流れになってきたところで店の看板娘は 




「奥さんたちにおみやどう?甘い菓子あるよ。」




 と営業してくる。魔物狩りの男たちはこの流れに乗るしかなかった………まぁ、銅貨十数枚くらいなのでふつうにのっているのである。仕事では辛いが家族には甘い男たちである。一部自分用のおみやにしているのもいるけど家族に食べられるのは予定された運命である。嫁さん子供と一緒に食べようと買い込んだスキンヘットは家に持ち込んだとたん嫁さんに平らげられてちょっと泣いたのは秘密にしておいてください。


モヒカン頭も同居している彼女に用意していたのだがダイエット中になんて物を持ってくるのよ!と怒られたのは悲しい話。しっかり彼の分まで食べているのは矛盾である。モヒカン頭にしてみればどこ太っているの?と疑問に思っていたのだが一度それで痛い思いしたこと(物理)あるので笑って流しています。


 独り身のものもいるけどおやつにするのか親やらなにやらのオミヤにするのかわからないけどつられて買っている。その場で酒のつまみにしているのもいるようだ。




「おいおい!そんな甘いので酒がのめるのか?」


「結構辛口の酒にあう。」


「ほんとだ、結構イけるね。」


「女戦士、お前自分のでやれ。俺の盗るんじゃない!」


「いいじゃないのけちけちしないでさ!」


「おいおい、けんかしてんじゃねぇ!」




なんだか仲良く喧嘩している。異世界人もほっこり眺めて意外と話の合うモヒカン頭と料理をつまみながら雑談をする。結構酒が入っているし料理も適当に注文してお互いにつまんでいる状態である。結構この魔物狩りの一団との飲みが楽しかったのか遠くの町で手に入れた乾酪チーズを出してふるまう。もちろん店の看板娘(自称)に断りを入れたうえでだが………看板娘(自称)は乾酪を結構つまみ食いをしているのは笑って済ませるべきか?店の大将も一口つまんで売ってくれと言ってきたのは笑い話である。まぁ、普通に売ってしまったし、酒が入っているからか多少買いたたかれているが一品作ってもらっているからイーブン?一番ひどかったのが店の大将の作った料理より麺麭の上に乾酪のっけて薪の火でとろかしたチーズトーストが一番うまかったなんて……店の大将涙目………ねぇ、大将なにアップしているの?




「なぁ、にーちゃん。おいしい調理法隠すなんてひどいよなぁ………だけどそれが分かったからには俺だって………」


大将、何本気出してんですか………ピザトーストもどきを出して




「うん、これはうまい!」


「これならば干し肉とか使って旅先でも………」




 普通に好評である。異世界人も


「腸詰の細切れにしたのとねぎを混ぜてからのっけてやってくんない!」


 と再注文。スキンヘットも


「俺煮込みの汁を切ったので!」


 なかなか着眼点のよろしい注文を


「スキンヘットさんなんてものを!そんなうまい(確信)なのを!」


「ふっ!そこの飯マズな女戦士と一緒にするな。限られた環境でうまいものを、それが旅先の楽しみだろうが。」


「うむ、確かに。」


「ちょっと!あたしをめしまずにしないでよぉぉぉぉぉ!」


 両者の注文したのが来た。どっちも美味だった。女戦士?あれは………… 




「そういえば今日の狩りはどうだったの?」


 そう異世界人が問いかければ、話が出る出る、持っているのは笑ってすますけどこれはこれで一つの冒険談として語られるにふさわしいほど………そこで女戦士の腕をかみちぎらんとする魔獣、彼女は前もって腕に丈夫な腕甲をしていて大事に及ばなかった。その後ドタバタしながらもなんとか魔獣を打ち取ったらしい。




「あんときは女戦士の腕はだめだと思っていたが食いちぎれないと気付いた女戦士が食いついた腕で魔獣を押さえつけて………金玉をふみつぶして………」


 異世界人はひゅんとなった。周りで話を聞いていた酔客たちもひゅんとなった。女戦士の異名が【玉つぶし】となった瞬間である。酒場の看板娘ちゃん(自称)もたちの悪い酔客の(以下残酷表現につき削除)で結構やらかしている。


 それはさておき、噛み跡の残る腕甲を前にこれはいいものだと言い張ってる女戦士。これがなかったら腕が食いちぎられていたんだから否定はしないが浮かれすぎである。


 仲間の男たちはそれを生暖かく見守っている。




それは良いものだ、ということで一同納得したようだ。実際にモノがよかったのもあるのだが否定したら超理論で頭がおかしくなるような論破をされかねない。あと、金玉は大事である。わざわざ知恵のある人種(多種族含む)があほの子の相手で自ら危地に陥ることはないのは当たり前である。


 まぁ、異世界人が


「この手甲を作った鍛冶師さんは女戦士さんのことをよく考えていたんだねぇ、」


 と女戦士さんを赤面させていた程度である。


「そ、そんなこと………あいつが客としてあたしを見ている程度で………あいつがあたしみたいなガサツな女に………」 


 なんか斜め67度くらい捻じ曲げて混乱している。酔っぱらっているしね、かわいらしいものである。周りの男連中もいろいろ残念な女戦士を生暖かい目で見ている。


「女を守るのに拳だけが方法じゃないんだよ。戦士連中は拳と力で守るけど、商人は金と知恵を使って守る。王侯貴族は彼等を使って守り抜く。力なき防具職人はせめて無事でありますようにと己の持つ技を振るったのではないのかな?まぁ、女を守るといってもその女が彼女だったり妻だったりという場合もあるだろうが妹扱いとか女友達だったとか……金蔓(きゃく)だなんて…………」


「そ、そんな…………あ、あたしが金蔓…………金蔓………小さい時からかわいがってくれたのって………」


 あれ、女戦士さん壊れた?




「モヒカンさん、もしかして女戦士さんと鍛冶師さんの間柄って…………?」


「遠い親戚だとか幼馴染だとか………」


「うわぁ、悪いことしたかな………」




 金蔓扱いで落ち込む女戦士さんこの雰囲気はさすがに周りもさすがに気を使ってか


「旅人のにーちゃんの言っていることは別に間違っているわけじゃないし、客だとしてもおめぇのことを見ているんだろ。」


「えっと、女戦士ちゃん………これうちの大将からのおごり、取り合えずこれを飲んで落ち着いてよ。大丈夫だから…………誰か鍛冶師さんを呼んどいてくれ!」


 異世界人、すごい罪悪感。誰かが走ってくれたのか鍛冶師さんを引っ張ってくる。




「鍛冶師にーちゃん、あたし金蔓きゃくじゃないよね?ただの金蔓きゃくじゃないよね?」


「勿論だとも、かわいい女戦士。お前は被験者(でく)だ。」




 ぉぃ!




 この発言は流石に周りが引いた。うわぁ、これはひどいという声が………


「冗談だ。かわいい妹分に実験装備なんて安心できないものを使うわけないだろう。そんな装備で何かあったら俺がおじさんとお前の兄貴たちになぶり殺しにされてしまう。俺だって命が惜しい、それにな、俺はお前がこんな危ないことをしてほしくない。だけど、それは俺のわがままだ、だから俺は俺の持てるすべてをつぎ込んでこれを作っているんだ。無事に帰ってきてくれてうれしいよ。かわいいかわいい女戦士。ねぇ、小さな小鳥。君は儚い存在ながらも自由でないと萎れてしまう、籠の中に閉じ込めてしまいたいのだけどそれすら叶わない。ならば私のすべてをつぎ込んだ手甲を用意するというのはおかしい話かい?」


「えっ、えっえっ………」


「本当に無事に帰ってきてうれしいよ、愛しき小鳥。抱きしめようとするとするりとすり抜ける儚き君。」




 うわぁ、落としてから上げて口説いていやがるよ。周りの男衆はさっきと別な意味で引いている。女戦士さんもまんざらではなさそうである。


 鍛冶師さんは女戦士さんの手を取りながら、無事でよかったとか言っている。女戦士さんも目がハート………




「なんていうか、女戦士さんって愛されているねぇ………」


 場の雰囲気に耐え切れず腸詰(辛口)を噛みしめながら異世界人がぼやくとモヒカンもスキンヘットもまぁ、うなづく。


 彼等の手にも辛口のつまみが……… まぁ、そういうことだ。




「女戦士さんと鍛冶師さん間に愛があるというのであれば、皆と作り手さんの間に愛が………あるのかなぁ?」


 異世界人が酔っぱらいの妄言を放った瞬間、魔物狩りの一団とか、その他武具を利用している職業系(騎士・衛士・従士・傭兵etc………)の面々が思わず尻を守りながら青い顔をしている。




 ところで、その発言に目を輝かしている看板娘さん(自称)とかはどうしたものでありましょうか。






 ちなみにこの地域で一番売れているのが掘るのと飲むのが好きなドワーフ小人さんの職人。


_______________________________


ネタバレと登場人物


異世界人:色々設定とか不明な異世界出身の旅人、今回は場をひっかきまわしています。




モヒカン頭さん:魔物狩りの一団の二番手だったりするのだがどうでもよい話、彼女さんと同棲中。彼女線の腹回りの原因は男と女で……(まぁ、お察しください)




スキンヘットさん:魔物狩りの一団親分、妻子持ちで親馬鹿、持ち帰る土産は食われてしまうのでちょっと不憫。




魔物狩りの一団:今回のモブ。街を守る実はすごい面々なのだが街に入ると気が緩むのか酒場でまったりしている。街の衆から見て飲兵衛としか認識されていない。




看板娘(自称)::街一番の酒場の名物女将、看板娘と自称しているけど………(これ以降の文章は削除されています)




女戦士さん:魔物狩りの一団の紅一点。それなのに男の影がない、見てくれはいいのだが見てくれは……後に鍛冶師さんと世帯を持つことになるの………かなぁ?




鍛冶師さん:女戦士さんの防具全般を受け持っている職人さん。女戦士さん一族と家族一族ぐるみで仲が良い、ほぼ親戚のおにーちゃん。今回の件で独身貴族の外堀を……

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