第3話いけにえはいけにぇな
定住する当てもなくうろちょろしている異世界人(転移系)、とある村に来た時村は騒然としていた。
通常ならば誰何の声があって旅人だと分かればいろいろ歓迎だの警戒だのあるのだがそのまま騒ぎの中心まで行ってみる、そうでもしないと宿も物資の補給もできないからだ。いざとなればそのまま回れ右をして………
あーでもない、こーでもない………
あっ、これアカン奴だ…………
回れ右しようととした異世界人、村人その一に肩をつかまれ
「にーちゃん見ない顔だなぁ?どっから入ってきた?」
「普通に門から入ってきたけど?まずかった?」
「門衛!門衛はって俺だった。」
「うぉい!門衛さんしっごとさぼってますよー!」
「ちょ、ちょっとまて!仕事さぼっているんじゃなくて、村の重大事が!って、長老!」
「お前門衛当番だろうが!何ここにいる!」
長老さんに見つかった村人その一(門衛)さんは正座してなぜか首から『さぼりました』と書かれた板を首から下げています。
「見苦しいところみせたのぅ、旅の人。お主は何故此処に?」
「旅の途中で宿と食料を仕入れようと思ったんですけど……お取込み中のようで、次のところに向かおうかと………」
「旅をしているくらいだから腕も立つし色々経験しているだろう、しばし今回の騒動に知恵とか力とか貸してくれんかのぅ。」
「それやっかいごとじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!」
異世界人の突込みは村中に響き渡るのである。
とりあえず話を聞くことにする。
事の起こりは村のそばにある山にドラゴンが住み着いたことである。それ自体はよくあることらしく共存とまではいかなくても不干渉であれば何とかなるのではと思っていたのだが。そのドラゴンから
『むすめをよこせ』
と文が届いたのである。文を見せてもらうと紙にへったくそな文字で『娘をよこせ』と書かれており、その下には共通語以外の独自言語が………
「これどこかで見たことがあるんだけど……」
異世界人があれれと頭をかしげると
「旅人殿どこで見たのですか?何を書いておられるのですか!」
と長老が揺さぶりをかける。
「あわわわわっ!って、言うかそっちの文字のほうが本文じゃないのかな?ドラゴンの文字っぽいし………さすがに読めないけど。」
「うーむ、となると手詰まりか。娘をよこせとなると儂の可愛い姪孫が………どうせなら孫のほうを持って行ってくれればよいのだ………げふっ!」
「おぃ!くそ爺!あたしならいいのかよ!」
「いい年して相手の一人も見つからない生きお………げふっ!」
長老は沈んだ。(きめ技:飛び膝蹴り)勝者加害者長老の孫娘いきおくれ。
「嫁き遅れいうなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
えっと、良識的に言うならば地の文への反論及び攻撃は文章作法及び常識的観点から認めてはいけないものだと思います………がくっ!
「じ、地のぶーーーーんっ!ヤムチャしやがって………」
異世界人も私地の文を案ずるのは嬉しいのですが(以下略
地の文の変わりまして私地の文が話をつなぎます。
とりあえず話が始まらないので村人たちは異世界人を連れてドラゴンのもとに向かうのでありました。村の腕自慢やら長老さんやら門衛さん(なぜかさぼりましたの立て札付)に長老さんの孫娘さん(実は火魔法の使い手なのです)
てくてくてくてく…………(一行移動中)
普通ドラゴンと相対するのならば勇者とか歴戦の戦士とか凄腕の魔法使いとか用意するのではと思っていたのは異世界人。自分がその歴戦の凄腕相当にみられているなんて実に気が付いていません。どうみてもどこにでもいるような異世界人(滅多にいません)、のほほんとしたにーちゃんである。
「ドラゴンさーんドラゴンさん!いるんかい?ちょっとお話しませんかぁ?」
いきなりドラゴンが住む洞窟に声をかける異世界人、安全確認とか危機管理とかどうしたという突込みがでそうである。村人たちよ、どう考えても人選ミス…………
「なんじゃーい!」
吠えるように応じるドラゴン…………うん、なんというか手に汗握る激闘とかは………
ないですな、ないといったらない。この作者に戦闘シーンを書く能力なんて………うごはぁ!
地の文に代わりまして私地の文が後を引き継ぎます。
「地の文無茶をしやがって………」
「っこの場合ヤムチャしやがってというのが定番なのではないのか?」
「それをいうと世界の声チョ・サクケーンがうるさく響くんだぞ。」
「世界の声って【でぃ・ず・にー】じゃなかったんだ。」
「それはいろいろ問題あるだろう。」
異世界人にドラゴン、お前ら少し黙れ。メタ発言はいろいろ問題あるんだ。
とりあえず、地の文から目をそらしつつ異世界人は話しかける。
「そういえば、ドラゴンさんいきなり『娘よこせ』とは乱暴な話だよねぇ。」
「俺としては短期雇用のつもりで条件を書いたのだが。」
「もしかして後半部分?あれ誰も読めなかったぞ。」
「なんということだ、文盲ばかりだとは………」
「いや、それこそ人族共通語で書けよ!ドラゴン語でなくて。」
「ちゃんと古代竜族語という教養言語で他の種族にもこう平易にわかるように………」
「直接来てお願いしたほうが。」
「なななんと!教養言語たる上位竜族語が理解されないとは」
「うん、生きていくことだけで精いっぱいだしドラゴンさんと付き合うなんて思っていないからお偉いさんの教養なんて村人たちにわかるわけないでしょうが。」
「ああ、わし上位古代魔法語ハイエンシェントと始原妖精言語アールフロアはできるんだけど…………昔宮仕えで役に立つかと思って。」
「長老、それって貴族の娘っことか古代妖精族アールブを口説くための」
「そればらすな!」
「意外と人族は生臭いな。」
「生臭くなければ人族でないのでは?」
「いえるのぅ。」
「なんか男性陣が脱線しているから話を元に戻したいのですけど、ドラゴン様我らが村にどのようなご用件で?」
愚だ愚だになりそうなところを長老の孫娘が突っ込みを入れる。
「まぁ、生贄はいけねぇだろ。」
……………ふるりらー
「戯言はそれまでにして本当にどのようなご用件で?」
「そんな冷めた目で見ないでくれるかな。色々ひゅんとなってきゅんとなってしまいそうだから。じっさいの所掃除をしてくれるものを用立ててほしかったんだが、下に書いてあるでしょう………って、上位竜族語わからないか!うん、実際に頼み込みに行ったほうがよかったわけだな。まぁ、引っ越しのあいさつにそばを打とうと思ったんだけどうまくいかなくてさ…………ちょっと散らかってしまって。」
「なんじゃそりゃ!そば打ちっておれん所の風習じゃねぇか!それにそばって難しいんだ!そんでどんな惨状で…………うっ!」
なんか色々突っ込みどころのある理由であるのだが巣穴を除いてうわぁという顔になる異世界人。そのあとから覗き込んで…………目から光を失う長老の孫娘。
そして巻き起こる火炎旋風(火魔法)焦げるドラゴンに異世界人。そして激しい爆風(粉じん爆発)そば粉が充満しているから………
そして、この中で何があったのか語られることはない。
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登場人物お呼びにネタバレ
ドラゴンさんはある種の寄生生物で自身の世話をしてくれるモノがいないとだめなのです。大半のドラゴンさんは庇護者というか信奉者をもって身の回りの世話をしてもらっています。その見返りに外敵の排除とかうろこを提供したりとか知識を教えたりとか………のちの経済学者は『ドラゴン経済圏』なる造語をもってこの現象を説明するのである。
登場人物
異世界人:完全に巻き込まれる人。腕っぷしも知識もないのに旅をしているはたから見ると自殺志願者?なぜか上手く立ち回っているからこれは不思議。ドラゴンさんとの一件は旅する先々での話のタネになる。
門番さん(当番制):ドラゴンさんが便りをよこしたときに話し合いに参加していたため仕事をさぼってしまった村人その一。長老さんの甥っ子に当たり姪孫ちゃんの父親だったりする。本業樵兼木工職人。
長老さん:実はこの村の村長(男爵位)で生き字引。この村は長老の子孫がほとんどで一族の長みたいなもの。どこにでもいるような田舎の地主貴族、ドラゴンさんと契約を交わして村の発展できないかと画策しているがあんまりうまくいっていない。むしろ孫娘の武名が………頭痛の種。
孫娘さん:火魔法の使い手、ファイアドレイクすらおびえさせる威力ということで嫁にもらってくれる人がいなくなっているのは笑えない話。ドラゴンさんの衛生環境に一番役立っている人。この地域一帯の衛生管理を守っているのだが誰も気が付かない。王様もその話を聞いてビビっている。『ドラゴンも跨がないでよける』ということで通称『どらまた』。ちょっときれい好きで魔法の威力が高いだけの普通の女の…………子?
ドラゴンさん:ファイアドレイク(火竜)の純系で実はとても強いはずだったのだが………きれい好きな女性がいたのが運の尽き。衛生的で文化的な生活を送れているのだが孫娘ちゃんの消毒(火魔法)にビビッて後ほど王様に保護を求めていたりする。
長老さんの姪孫ちゃん:長老さんのお気に入り、後にドラゴンさんもお気に入り。婿取りの時にちょっと苦労したりするのは後々の話。
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