第19話 立川愛菜の杞憂

 瑠璃ちゃんは、ずっと燿ちゃんが好きだった。

 それは凄く当たり前の事の様に、私は思っていた。だって私が物心付いた時には、瑠璃ちゃんは燿ちゃんが好きだったから、だから私の中では瑠璃ちゃんが燿ちゃんを好きなのは、至極当たり前の事だったのだ。

 ………だけどちょっと成長すると、それは少し違う様に思える様になった。そしてちょっと大人になると、それはもっと違う様に思う様になった。


 小学校に入学して一年生の時に、燿ちゃんが男子のクラスメイトに揶揄われた事がある。

 瑠璃ちゃんが保育園の時の様に、燿ちゃん燿ちゃん……と言っていたからだ。すると燿ちゃんが、その男子達の前で、瑠璃ちゃんに向かって


「お前なんか大嫌いだ!」


 と手を払って言ったのだ。

 すると瑠璃ちゃんは、物凄い声を上げて大泣きした。

 大泣きしたけど、燿ちゃんはそんな瑠璃ちゃんをほったらかして、さっさと教室を出て行ってしまった。

 その時から……瑠璃ちゃんは、燿ちゃんの側へ寄る事はなくなった。

 そして小学校の六年間ずっと、その男子達を恨んで過ごした。

 同じクラスになったとしても、彼らに瑠璃ちゃんが笑顔を向ける事はなかった。そう瑠璃ちゃんはずっと、その事を根に持って小学校を卒業したのだ。


 そんな瑠璃ちゃんは、とても頭が良かったから、中学受験をして私立の有名な中学校に進学するのだと、同級生のママ達は話していたけれど、瑠璃ちゃんは私達と同じ、市立の中学校に進学した。

 そして其処で、燿ちゃんと同じ部活の、高田先輩と燿ちゃんが親しくしているのを、それは物凄く不快に思っていた。

 あの黒曜石の様な、黒目がちな潤んで光る様な瞳に力を入れて睨みつけているのだから、側から見たら誰でも理解できる事だったと思う。

 そしてそんな高田先輩を見かける度に、目力込めて睨んでいたから………高田先輩の彼氏さんに、誤解をされてしまった。………って言っても、私から言わせてもらえば、誤解する方がどうかと思う。だってどう見たって瑠璃ちゃんは、不快感いっぱいの顔容でいたのに………。

 高田先輩の彼氏さんは、卒業した後高田先輩と別れて、瑠璃ちゃんに乗り換えようとして、それはこっ酷く振られたそうだ。

 それは当然の事で、アレを誤解する彼氏さんの方がどうかと思う。

 それが高田先輩の、耳に入ったか否かは分からないけれど、高校に入学して高田先輩と再会した燿ちゃんが、高田先輩に誘われたと阿部ちんが、部活の先輩から聞いたと言っていたから、きっと高田先輩の耳に入っていたのだろう。


 そんな高田先輩の存在も、凄く瑠璃ちゃんは気にしていたけど、阿部ちんが燿ちゃんに確認して来てくれたから、瑠璃ちゃんの心配は直ぐに失くなって、阿部ちんが見た目よりかなり使える男子だと見直した。

 見直してみると案外いいヤツで、部活に一生懸命な姿はなかなか格好いい。そしてずっと野球少年だったから、見た目より浮ついていないし努力家だ。瑠璃ちゃんの評価が上がったからではないけれど、私の評価もグングンと上がって………結局阿部ちんが告白して来たから、思ったより早く付き合う事になってしまった。


 そんな事になってしまったから、私達の心配は瑠璃ちゃんと燿ちゃんの事になった。

 ずっと瑠璃ちゃんの気持ちを知っていた私と、瑠璃ちゃんと燿ちゃんが付き合う事に、物凄く拘りを持つ阿部ちんの………。


 ………という事で、二人は付き合う事になった様だけど……


 果たして燿ちゃんは、瑠璃ちゃんと付き合って、幸せになれるのだろうか?それが私のここの所の気がかりだ。

 瑠璃ちゃんは本当に綺麗で、スタイルも抜群で頭も良い。小学生の頃から、スカウトされる事は多々とある程だし、瑠璃ちゃん程の美人はそう存在しないだろう。だからたぶん、瑠璃ちゃんを知る全ての男子は、一度は瑠璃ちゃんと付き合いたいって思うはずだ。

 男子として生まれた燿ちゃんならば、きっと瑠璃ちゃんに好きだと言われれば、それは嬉しいに違いない………と思う。

 そう思春期の男子の燿ちゃんならば……。

 純真でいろいろな諸々を考えずに、ただ持って生まれた直感に護られている幼児の頃と違って………





 ………終………

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